2024年WRC世界ラリー選手権は、すでに第11戦ラリー・チリ・ビオビオを終え、残るラウンドは次戦セントラル・ヨーロピアン・ラリー(CER)と、最終戦ラリージャパンのみとなった。
この時点でドライバーズ選手権をリードしているティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)は、2位の僚友オット・タナクと29ポイント差を築いている。次戦の結果によっては最終戦を待たずして王座を手中に収めることもできる状況だ。
1ラウンドでの最大獲得ポイント数は『30』のため、ヌービルがタナクよりも2ポイントでも多くポイントを獲得すれば、次戦での王座確定の可能性は格段に上がるだろう。他に可能性がある選手は、セバスチャン・オジエとエルフィン・エバンス(ともにトヨタGRヤリス・ラリー1)だが、ふたりはともに40ポイント以上離れているからだ。
ヌービル自身もそのことを意識していると認め、WRC.comに対して「内部闘争を起こさずにトヨタに勝つ準備を整えることが重要だ」と述べた。
「我々はマニュファクチャラー選手権を失わないように、チームとして良いアプローチと良い戦略を持つ必要がある」
「トヨタとタイトルを争うために、私たちがすべきことを確実にしなければならない。だから今は、迅速に物事を終わらせる必要があると思う」と、チームオーダーの要望も暗に示すコメントを残した。
実際に、チリではタナクが3位表彰台を獲得し、ヌービルとのポイント差は5ポイント分縮まっている。その陰で、トヨタはワン・ツーフィニッシュを飾り、スーパーサンデーとパワーステージでも大量ポイントを手にしたために、マニュファクチャラー選手権は17ポイント差にまで縮まった。
ヌービルは、「我々は(チリで)18ポイントを失ったので、基本的に我々のアドバンテージは半分になった」と言い、早急にドライバーズ選手権の決着を望む意志を強調する。
「もちろん、僕とオット(・タナク)の間では闘争が続いているが、互いに大きなリスクを負うことはないだろう」
「しかし、明らかにこの戦いは、我々がトヨタに対して重要なポイントを失ったことを示している。彼らはチリに多くの車を持ち込んでおり、セントラル・ヨーロッパにも多くの車を持ち込むだろう」
マニュファクチャラー選手権における1ラウンドの最大獲得ポイント数は『55』。そのため、現在17ポイント差のマニュファクチャラー選手権の決着は最終戦ラリージャパンとなる見込みだ。
王座のかかるヌービルは、2023年のセントラル・ヨーロピアン・ラリーや2022年のラリージャパンを制しており、今季もラリー・モンテカルロを勝利するなどターマック(舗装路)ラウンドを得意としている。ラスト2戦も、もちろん優勝候補のひとりとなる。
■チーム代表はマシンの速さに疑問「優位性を回復したい」
選手権をリードするヒョンデ陣営は、ヌービルが早期のタイトル確定を望む一方、シリル・アビテブール代表はマシンパフォーマンスの向上が肝要であると明らかにしている。
ギリシャでは表彰台独占で圧倒的勝利をおさめた一方、チリでは3位、4位の獲得が精一杯だったヒョンデ。各ラウンドで戦況が一変するトヨタとの力関係を、アビデブール代表も警戒する。
「チリは我々にとって非常に難しいラリーであり、今月初めのアクロポリス・ラリー・ギリシャとはまったく対照的だった」
「優勝できるパッケージがなかったので、チャンピオンシップの戦いと週末に見られた落とし穴を避けることに集中したのだ」
「その点ではミッションは達成されたが、それでも、築いていた差が半分になった状態でチリを出ることになってしまった」
トヨタが最大限の勢いで追い上げてきたなかで、アビデブール代表はマシンの速さを増すことが必要不可欠であると危機感を言葉にする。
「最後のふたつのターマックラリーでは、ドライバーにもっと競争力のある車を提供することが重要だ」
「そこでヒョンデi20 Nラリー1の潜在能力を最大限に引き出し、優位性を回復したいと考えている」
ドライバーズ選手権は早期決着が予想される一方、トヨタが猛追を開始したマニュファクチャラー選手権の争いは、残るターマック2戦でさらなるヒートアップを迎えることになりそうだ。