今年の夏ドラマは、同時期に行なわれていたパリ五輪の影響もあってか、どの作品も振るわず、最も高い視聴率をマークしたのは、嵐・二宮和也が主演を務めた日曜劇場『ブラックペアン シーズン2』(TBS系)の11.28%(全話平均世帯視聴率、ビデオリサーチ調べ/関東地区)で、同作以外はすべて1ケタ台という散々たる結果で終了した。
『TVer』をはじめとした動画配信では月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)、痛快な不倫劇を描いた『夫の家庭を壊すまで』(テレビ東京系)などが話題を呼んだものの、「暗すぎる」「見ているのが辛い」「後味が悪い」といった酷評も多く、大衆に受ける作品は少なかった。
そんななか、10月スタートの秋ドラマは豪華なキャスト陣がそろい、エンターテイメント性の高い作品も多く、夏ドラマよりも豊作の予感が漂っている。
では、ドラマ業界の関係者たちはそんな秋ドラマをどう見ているのか。忖度のない本音を聞いた。
◆ヒットメーカー・野木亜紀子が描く『海に眠るダイヤモンド』
まずは制作会社で数多くのドラマを作ってきた50代のプロデューサー・A氏に話を聞いた。
「絶対に見たいのは、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系、日曜午後9時〜 10月20日(日)スタート)でしょう。戦後復興期から高度経済成長期、そして現在を舞台にしたヒューマンラブストーリーで、とにかくキャストが豪華。
神木隆之介さん、斎藤工さん、杉咲花さん、土屋太鳳さん、池田エライザさんといった人気と実力を兼ね備えた面々がズラリとそろううえに、中島朋子さん、さだまさしさん、國村隼さん、沢村一樹さんといったベテラン陣も充実。
彼らの繊細かつ深みのある演技を見ているだけでも十分見ごたえがありますが、注目しているのは野木亜紀子さんの脚本。彼女の作品は、現在公開中の映画『ラストマイル』や『アンナチュラル』『MIU404』(いずれもTBS系)に代表されるように、登場人物のキャラ立ちや深掘り、社会問題に切り込むのがうまい。
それでいて、しっかりとエンターテイメント性も盛り込んでくれるので、幅広い視聴者にリーチできる。本作でも野木ワールドを全開に出しつつ、日曜劇場らしい骨太さも描いてくれるはずです。視聴率も15%以上は取れると思います」
ヒット作連発の人気脚本家が描くヒューマンドラマが、この秋の話題を独占しそうだ。その一方で、A氏はすでに放送中のあるドラマを「見たくない」とバッサリと斬る。
◆橋本環奈の魅力が発揮されておらず低調な『おむすび』
「9月30日からスタートしている朝ドラの『おむすび』(NHK、月曜〜土曜午前8時〜)はもうすでに離脱寸前です。平成を舞台に、橋本環奈演じる福岡県・糸島に暮らす主人公が成長していく青春ストーリーなのですが、今のところストーリーが低調で“ほのぼの”しすぎている。
橋本環奈さんが演じる主人公もピュアでまっすぐなキャラクターとして描かれていますが、彼女はコメディ要素のある役柄や変わり者などを演じたほうが活きると思うので、そこも残念な点の一つ。
脚本に関しても、テンポのよさやコメディタッチの作風が秀逸な根本ノンジさんのらしさが発揮できておらず、早々に視聴者が離れていく気がします。中盤で阪神・淡路大震災やその後の復興について描かれるようですが、そのシーンをどう見せるのかは注目したいですが……」
そもそも朝ドラにおいて“現代劇”は鬼門とされており、『純と愛』『半分、青い。』『おかえりモネ』『ちむどんどん』『舞いあがれ!』と振るわない作品が多かっただけに、『おむすび』も盛り上がりを見せず終わってしまうのか。
◆熱演俳優・藤原竜也の新境地になる『全領域異常解決室』
続いて、サスペンスドラマを中心に担当するフリーの30代女性プロデューサー・B氏にも見たい作品と見たくない作品を聞いた。
「期待しているのは、主演が藤原竜也さん、バディ役を広瀬アリスさんが務める『全領域異常解決室』(フジテレビ系、水曜午後10時〜)ですね。
神隠し、シャドーマン、キツネツキといった“超常現象”が絡んだ事件を解決していく新感覚ミステリードラマで、圧倒的な知識や記憶力、洞察力を兼ね備えた天才役を演じる藤原竜也さんがとにかく魅力的で彼の新しいハマり役になりそうな予感がします。常人ではない役どころを演じさせたらピカイチですよね。
そして、『謎解きはディナーのあとで』(フジテレビ系)、『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』『ラストマン-全盲の捜査官-』(いずれもTBS系)といったミステリーから医療系まで、幅広いジャンルをキャッチーなエンタメ作に昇華できる黒岩勉さんの脚本も光っていますね。予想不能な展開と大きなどんでん返しがあり、飽きずに見られる作品になっていますね」
盛り上がり次第では「映画化もあり得るのでは?」と語る新感覚ミステリーを推す一方で、B氏が「見たくない」と不安視する作品は?
◆シリアスな展開を描けるか疑問が残る『ライオンの隠れ家』
「期待外れに終わってしまいそうなのは、10月11日からスタートする柳楽優弥さん主演の『ライオンの隠れ家』(TBS系、金曜午後10時〜)ですね。
同作は、自閉スペクトラム症の弟と暮らす主人公の元に、突如“ライオン”と名乗る少年が現れ、預かることになり……といったところから始まるヒューマンサスペンス。
柳楽優弥さんや坂東龍汰さんといった俳優陣の演技力は目を見張るものがあるのですが、『おっさんずラブ』シリーズ(テレビ朝日系)や『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)のヒットで知られる徳尾浩司さんの脚本がやや不安要素です。
軽快なタッチやセリフのうまさは認めるところですが、『恋はDeepに』(日本テレビ系)や『unknown』(テレビ朝日系)ではストーリーが入り組みすぎたり、強引なオチになったりする傾向が見られました。なので、同作もプロデューサーや制作陣がうまくバランスを取ってくれないと、序盤で視聴者が離れる可能性がありますね」
高視聴率作品も多いTBSの金曜10時枠だけに、ストーリーの面白さが明暗を分けそうだ。
◆海外方式のライターチームが手掛ける『3000万』
また、恋愛映画やネットドラマを手掛ける30代の若手脚本家・C氏が脚本家目線で語ってくれた。
「一番注目しているのは、安達祐実さんが主演を務める『3000万』(NHK、土曜午後10時〜)です。あることをきっかけに現金3000万円を手にした家族の波乱万丈な顛末を描いていくのですが、全く先の読めない展開になっており、近年稀にみるハラハラするドラマです。
同作は、NHKが立ち上げた脚本開発に特化したライター集団に所属する4人の脚本家による共作だそうで、海外では主流の共同脚本を採用しているチャレンジングなところも面白い点です。
どうしても設定がうまい、セリフがうまい、キャラクター像を作るのがうまいなど、脚本家によって長所と短所はあるので、そこを補い合えているドラマだと感じます。最終回まで楽しみです」
◆要素を詰め込みすぎた『3年C組は不倫してます。』
C氏は序盤話で脱落してしまい、「もう見ない」と決めたドラマも教えてくれた。
「深夜枠の『3年C組は不倫してます。』(日本テレビ系、火曜深夜0時24分〜)は2話で見るのをやめてしまいました……。
“18歳成人”の実施に伴い、親の同意なく結婚できるようになった高校生たちによる学園ものと不倫サスペンスを掛け合わせた作品ですが、とにかく要素が多すぎる。何を楽しんでよいのか分からないです。
キュンとする初恋シーンもあれば、高校生同士の不倫やパパ活などのドロドロしたシーン、ミステリー的な展開もあり、頭が混乱しましたね。とにかくヒットするジャンルを詰め込みすぎた印象で、深く感情移入できなかったです。若い視聴者には刺さるのかもしれませんが……」
ここまで、事前情報や序盤回を見た時点での業界人が推す作品と評価の低い作品を挙げてきたが、テレビドラマは見てみないと分からないモノ――。業界人の声を参考にしつつ、できれば自分の目で見るべきか否かを判断してほしい。
<ライター/木田トウセイ>
【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。