だから教員を辞めた。元運動部顧問が振り返る「部活動」が教員から奪うもの3つ

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2024年10月10日 21:21  All About

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部活顧問の仕事は、生徒との思い出など教員に多くのものを与えてくれる一方で、何かを奪ってしまうかもしれません。長年運動部顧問を務めた筆者が、自身の経験をもとに部活動が教員から奪うものを3つ語ります。
文部科学省の「令和5年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」によれば、部活動は特に優先的に取り組むべき項目として最上位に挙げられています。

しかし、「部活動指導員をはじめとした外部の人材の参画を図っているか」という質問に対しては、総計で73%の実施率にとどまっており、地域による差が存在することが示されています(*1)。

筆者は長年運動部顧問を務めてきたなかでやりがいを感じる瞬間は多くありましたが、部活動に熱心であったからこそ、犠牲にしてきたものも多かったことは事実です。ここでは、部活顧問としての経験をもとに、部活動が教員から奪う3つのことについて考えてみたいと思います。

1. 家族と過ごす時間

「教員勤務実態調査」によると、平成28年の調査では10年前と比較して中学校における部活動に費やす時間が土日では1時間3分増えていたのが、令和4年度調査では40分減っていて改善していることがわかります(*2)。

しかし依然として、長時間勤務の教師が多い状況であることは変わらず、他の業務と比べても部活動が最も教員の勤務時間を押し上げる要因となっています。

筆者も中学校で柔道部の顧問を務めていた時期、平日は朝練や夕練、土日は練習や試合で家族との時間が極端に少なくなりました。平日は早朝から学校に行き、部活が終わった後にようやく授業や業務に取りかかる生活が続き、帰宅する頃には家族はすでに寝ていることが多くありました。

特につらかったのは、子どもが小学校に上がる時期に、家庭での時間がほとんど取れなかったことです。部活の顧問を続けることに疑問を感じ、それが正規教員を辞める一因となりました。

「令和4年度 学校教員統計調査」によると、中学教員の平均年齢は43歳です(*3)。同じように家庭との時間を大切にしたいと考える教員も多いのではないでしょうか。

2. 生徒への尊敬の念

部活動を通じて生徒が得るものは、競技技術だけでなく、仲間との絆や社会性など幅広い要素があります。しかし、顧問としての役割が過剰になると、生徒との関係に悪影響が出ることがあります。

筆者はかつて部活動の顧問として、生徒に厳しい指導をしており、勝利至上主義にとらわれていました。試合に負けた際には、彼らに容赦ない言葉を浴びせることもありました。特に強豪校では、顧問が絶対的な存在となり、生徒との上下関係が強調されがちです。

筆者は家庭の時間を犠牲にしているという不満から、横柄な態度を取ることもありましたが、その結果、生徒への敬意が薄れて自分自身にも嫌気が差していきました。

このような状況は、教員としての本来の役割を見失いかねません。教育現場では健全な人間関係が重要です。部活動のガイドラインには、運動部活動は自主的・自発的な活動であり、指導者と生徒の信頼関係が活動の前提であることが記載されています(*4)。

部活動は強制されるものではなく、指導者と生徒が対等な関係で行われるべきであり、この認識を指導者は世代を問わず持つべきです。これがしっかりされていると、体罰などの行き過ぎた指導は起こらないはずです。

ただし生徒と良好な関係を築いている先生も多くおり、特別な信頼関係を構築できるのは、顧問ならではの特権でもあります。

3. 常識感覚

部活動に熱心になるあまり、教員は社会人としての視野が狭くなることがあります。

柔道部の顧問を務めていた筆者は、成績が上がるにつれて、自分自身の顧問としての評価に依存するようになっていきました。部活動の成果が学校内での評価や顧問としてのステータスに直結するような感覚になり、「自分が偉い」という錯覚に陥ってしまったのです。顧問が偉いわけでもないのに、柔道部を強くしているんだと。

このようになってしまうと、勝ち続けるためにさらに部活指導にのめり込み、結果として、勝利至上主義が支配する部活動が出来上がってしまいます。

さらに、部活指導にのめり込むと交友関係も限られ、結果として世間との接点が減り、常識感覚が薄れてしまいます。筆者も当時、部活つながりの先生との交流ばかりで、他の職業の人々との接点がほとんどない状況でした。

部活動のために休日を犠牲にすることが当たり前となるなど、教員の常識が世間の非常識となり、他の職業との常識の違いが顕著になります。

このような状況では、教師としてのバランス感覚を保つことが難しくなり、生徒たちに対しても偏った指導をしてしまうリスクがあります。社会には多様な価値観や考え方が存在しており、生徒をそのなかに送り出すためには、まず教員自身が世間との関わりを持ち続けることが重要です。

一刻も早く全国で部活の地域移行を

教員のなかには、部活の顧問をやりたくないために小学校の教員になったという人もいます。また中学高校の教員になったものの、部活の顧問をやりたくないという人もいます。しかし赴任したばかりの学校で、部活動の顧問を任されて「できません」と断れるでしょうか。

一刻も早く全国で部活の地域移行を進めて、部活の顧問をやりたくない教員が担当しなくて済む環境を整えることが、教員不足の状況において非常に重要です。

一方で部活の顧問をやりたくて教員になったという人もいるでしょう。そういった教員には、副業として地域クラブの顧問やコーチを担うことを認めてあげてほしいと思います。部活を通じて児童に関わる経験は、指導者としても成長できます。

児童にとっても、部活動を通じてさまざまなバックグラウンドを持つ指導者と関わることで学びが増えるはずです。そうすることで、生徒の主体性を尊重した部活動づくりにつながると思います。

13年にわたる教員の経験を経て、学校教育とは違う形で子どもの笑顔を実現するために起業しビジネスを行っている筆者としては、学校周りにお金が循環する仕組みをつくり、学校を取り巻く人たちにとってWin-Winとなるような状況ができていくべきだと考えます。

そうすれば、自然と子どもにとってもよい学びの環境になっていくのではないでしょうか。

<参考>
*1:令和5年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査(令和5年12月/文部科学省)
*2:教員勤務実態調査(令和4年度)【確定値】について(文部科学省)
*3:令和4年度学校教員統計調査(確定値)の公表について(令和6年3月 文部科学省)
*4:運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(平成30年3月 スポーツ庁)

坂田 聖一郎プロフィール

教員を13年間経験した後、独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングとやさしさを」コンセプトに、子どもたちがイキイキと学べる教育を実現できる世の中を学校の外から作りたいという想いで活動する教育革命家。
(文:坂田 聖一郎(子育て・教育ガイド))

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