7節を終えた今シーズンのリーグ・アンで、最大のサプライズとして脚光を浴びているのが、目下4位につけているスタッド・ランスの躍進ぶりだ。
退場者を出した開幕戦が唯一の黒星で、以降6試合の成績は4勝2分け。その引き分け2試合の対戦相手も、王者パリ・サンジェルマン(PSG)と現在3位の名門マルセイユという2大クラブなのだから、まさに驚きのひと言。リーグ序盤戦の「台風の目」と言っていい。
シャンパーニュ地方の古豪は、今シーズンも開幕前の下馬評ではほぼノーマーク。むしろ、今夏の移籍市場では補強がままならず、戦力ダウンも否めなかっただけに、昨シーズンよりも厳しい戦いが待ち受けていると見られていたのが実情だった。
不安を抱えたなかで迎えた今シーズン、その下馬評を覆して見事なロケットスタートを見せたチームを牽引しているのが、基本布陣4-3-3の前線両翼を担う伊東純也(右ウイング)と中村敬斗(左ウイング)の日本代表コンビだ。
もちろん、ルカ・エルスナー新監督の巧みな采配と戦術構築、あるいは19歳のMFヴァランタン・アタンガナ・エドア(フランス)や20歳のMFヤヤ・フォファナ(マリ)ら若手の急成長といった望外の好材料もあるが、日本代表のふたりがチームの好調を支えていることに疑いの余地はない。
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3年目の伊東の安定感とチームにおける重要度は、今さら言うまでもないだろう。それよりとりわけ際立った活躍を見せているのが、目下4試合連続ゴール中の中村だ。
とはいえ、開幕から中村が絶好調だったというわけではない。加入2年目の中村は「昨シーズンは慣れるための1年で、今シーズンは勝負の1年」と語り、プレシーズンから飛躍を誓っていた。しかし、最初の3試合ではなかなか思うような形でボールを受けられず、得意とするフィニッシュのパターンに持ち込めるシーン自体が少なかった。
決して調子が悪いようには見えなかった。だが、エルスナー監督が植えつけようとする新しい戦術のなかに埋没してしまい、実力を発揮するきっかけを掴めずにいたのだ。
【中村の真骨頂とも言える決勝弾】
大きな転機となったのは、9月の代表ウィーク明けのナント戦(第4節)。エルスナー監督が代表から戻ったばかりの伊東を先発させた一方で、代表戦でプレータイムが少なかった中村を戦術的な理由で今シーズン初のベンチスタートに置いた試合だ。
中村がピッチに登場したのは、1−1のタイスコアで迎えた後半73分。その試合でスタメンを奪われた新鋭フォファナに代わり、中村は持ち場の左ウイングに入った。
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すると後半アディショナルタイム、伊東のパスを抜群のタッチで止めた中村は、ブロックに入ったDFの股下を抜くコントロールショット。インサイドで狙いすましたテクニカルゴールは、高精度のフィニッシュワークを持ち味とする中村の真骨頂とも言える決勝弾となった。
もし、この試合で中村にゴールが生まれていなければ、翌週のPSG戦で中村がスタメンに復帰することはなかったかもしれない。そう考えると、結果がすべての世界ゆえ、土壇場でチームを勝利に導いたこの1ゴールには計り知れない重みがある。
いずれにしても、このゴールをきっかけに、中村は覚醒モードに突入した。
続く第5節・PSG戦では、前半早々に伊東のクロスから今シーズン2ゴール目。ブロックに入ったマルキーニョスに一度ボールが当たったあとのシュートだったため、伊東のアシストにはならなかったが、2試合連続で日本代表コンビがゴールをこじ開けたことに変わりはない。
注目を浴びる王者相手にゴールを決めたことで、中村自身も完全に波に乗ることができた。
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驚かされたのは、中村がこの試合で見せた守備面の貢献ぶりだ。
相手のPSGは、ビルドアップ時に4-3-3から3-2-5に可変させてポゼッションを行なう攻撃的サッカーを実践。その可変システムのカギとなるのが、マイボール時にポジションを可変させる右サイドバックの選手だ。この試合では、フランス代表の若武者ワレン・ザイール=エムリが務めた。
【チーム内競争においても大きくリード】
そのザイール=エムリは、3-2-5の「2」に立つこともあれば、右ハーフレーンや右サイド大外レーンに立つこともある。守備時は4-4-2の陣形になるスタッド・ランスの左サイドハーフを担当する中村にとって、ザイール=エムリはどこにポジションを取るかわからない厄介な存在。チームにとっては、中村の守備対応が勝敗を分けるキーポイントでもあった。
そんななか、中村はマークの受け渡しにミスが起きないよう、自分のポジション取りはもちろん、左SBのセルヒオ・アキエメや守備時には2トップの左に移動するフォファナに、さらにはボランチのふたりにも指をさしながら密なコミュニケーションを繰り返し、高い集中力で加入以来最高とも言える守備を披露したのだった。
1−1で終わったこの試合でチーム唯一のゴールを決めたこともそうだが、PSG相手に見せた質の高い守備こそ、中村の成長を如実に示すものだった。しかも、中村のライバルでもあるデンマーク代表モハメド・ダラミーが長期離脱からベンチに復帰した試合だっただけに、チーム内競争においても中村は大きくリードすることができた。
その後も、中村の進化は止まらない。その象徴が、第6節アンジェ戦の先制ゴールだ。
今シーズンの中村は、左ハーフレーンに立ってボールを受ける役割を任されているが、このゴールシーンではボールホルダーのCBセドリック・キプレとアイコンタクトをかわした中村が、1トップのウマル・ディアキテがサイドに流れて空けた中央のスペースを見逃さず、一瞬だけ割れた相手CBの間に向かってオフサイドを回避するようにランニング。そのままキプレからのロングフィードを受けると、冷静にフィニッシュした。
それはスタッド・ランスに加入してから初めて中村が見せたフィニッシュワークで、中村が持ち合わせる武器に、さらなるバリエーションが加わったことを意味する。
第7節モンペリエ戦では、相手のクリアをボックス手前で回収したあと、ドリブルしながら相手を動かしてスーパーミドルを突き刺した。何もないところから独力で生み出したそのゴールも、中村の進化を示すプレーのひとつと言っていい。加えて、この試合では左から伊東ばりの高精度クロスでディアキテのゴールをアシスト。お膳立ての部分でも存在感を示すことに成功している。
【4試合連続ゴールで得点王争いにも参戦】
こうして、あっという間に昨シーズンのゴール数を稼ぎ出した中村は、第7節終了時の得点ランキングで、ウスマン・デンベレ(PSG)と並んで4位にランクイン。6ゴールで首位のブラッドリー・バルコラ(PSG)、5ゴールで2位に並ぶメイソン・グリーンウッド(マルセイユ)、ジョナサン・デイヴィッド(リール)らとの得点王争いに加わった。
果たして、中村の連続ゴールはどこまで続くのか。代表ウィーク明けの第8節の相手はオナイウ阿道のオセールとのアウェー戦。日本からの長距離移動直後の試合だけに肉体的な負担は大きいが、その試合で好調を持続するようだと、いよいよ覚醒は本格化する。
現在、南野拓実を擁するモナコがPSGを抑えて首位に立ち、伊東が大黒柱として君臨するスタッド・ランスが4位に位置し、さらに中村が得点ランキングの上位に食い込む今シーズンのリーグ・アン。日本のファンにとっては、ますます見どころ満載となっている。