視力低下を回復する新手法 神戸アイセンター病院などが研究報告 サルへの移植で網膜修復を確認

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2024年10月11日 08:21  ITmedia NEWS

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網膜オルガノイドシートをサルに幹細胞移植する概要図

 神戸市立神戸アイセンター病院などに所属する研究者らと理化学研究所生命機能科学研究センターが発表した論文「Transplantation of human pluripotent stem cell-derived retinal sheet in a primate model of macular hole」は、加齢による網膜の病気を治療し視力改善を図る新たなアプローチを示した研究報告である。


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 網膜の中心部にある黄斑に穴が開く「黄斑円孔」という病気がある。これは主に高齢者や女性に多く見られ、中心視力の低下やゆがみを引き起こす。これは加齢とともに、眼球内の「硝子体」と呼ばれる透明なゲル状の液体が厚くなり、網膜を引っ張ることで組織に穴が開くことが原因とされている。


 9割の患者は従来の手術で治癒するが、難治性の場合には、網膜の一部を他の部位からを切りとって移植することで穴をふさぐ治療が一つの方法として近年行われている。成功率は高いものの、手術操作が煩雑で危険を共ない、また網膜を切りとった部分が見えなくなってしまう問題がある。


 この課題に取り組むため、研究チームは、ヒト胚性幹細胞(hESC)を用いた新たなアプローチを試みた。まず、ヒト胚性幹細胞を用いて、3次元培養により「網膜オルガノイド」という小さな網膜組織を作製した。この網膜オルガノイドは、遺伝子操作によって「ON型双極細胞」(視細胞からの信号を脳に伝える細胞の一種)を減らし、視細胞が移植先の網膜細胞とつながりやすいものを使用した。


 この網膜組織をニホンザルの右眼の網膜にある約330μmの黄斑円孔に移植。移植手術では、サルの目の硝子体を取り除き、網膜の内境界膜という薄い膜をはがした後、網膜オルガノイドのシートを黄斑円孔に挿入した。


 手術後の経過を観察すると、移植した網膜組織が黄斑円孔をきれいに埋め、穴が閉じたことを確認できた。さらに、移植した組織の中で視細胞が発達し、桿体細胞(光の明暗を感じる細胞)や錐体細胞(色を感じる細胞)を形成した。


 研究チームは、サルに片目ずつ固視検査を行うよう訓練を施した。この検査では、画面上に次々と表示される指標に一定時間視線を固定する必要がある。移植前の段階では、サルが視線を固定できたのは表示された中のわずか1.5%の指標にすぎなかった。しかし、移植から6カ月後に行われた3回の検査では、11〜26%の指標に視線を固定できるようになった。


 さらに、移植6カ月後の局所黄斑部網膜電図検査では、網膜の特定の細胞の反応が、移植前と比べて約1.6倍に増加した。これは、網膜オルガノイド移植による円孔閉鎖によってサルの視機能が改善した可能性を示している。


 Source and Image Credits: Iwama et al., Transplantation of human pluripotent stem cell-derived retinal sheet in a primate model of macular hole, Stem Cell Reports(2024), https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2024.09.002


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2



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