子どもの頃にドレッサーから拝借した口紅を塗ってワクワクした──。そんな思い出のある人も多いはず。ところが昨今、子どものメイク事情は大きく変化している。小学生向けファッション誌ではメイク特集が組まれ、本格コスメが付録でつくなど、キッズコスメ市場も年々伸長している。一方で幼い頃からのメイクによる肌への影響などを懸念する声も。様々な声があがるキッズコスメを販売するメーカー側のこだわりとは? キッズコスメ『プチレシピ』を展開する粧美堂に話を聞いた。
【画像】まるで魔法のコンパクト? 敏感肌の大人にもおすすめなアイシャドウパレット■肌への優しさを追求、おもちゃカテゴリーから「本格コスメ」にシフト
コスメやビューティ雑貨を製造・販売する粧美堂が展開する『プチレシピ』は、"メイクは可愛くなれるひとさじの魔法"をコンセプトとしたキッズコスメブランド。香水瓶のようなリップや、ブレスレット型のリップ&チーク、キラキラのコンパクトはまるで魔法少女のアイテムのよう。カラー展開も充実しており、本格的なメイクが楽しめる。
2018年10月よりキッズコスメを展開してきた同社は、その開発背景を次のように語る。
「それまでのキッズコスメは玩具メーカーが展開しているものが主流で、おもちゃカテゴリーとして捉えられていました。一方、弊社では以前よりディズニーやサンリオなどのライセンス商品も扱っており、小中学生のお客さまからもご好評いただいていました。そこで化粧品メーカーのノウハウを駆使し、お子さまに安全で、かつ持っているだけで気分もワクワクするようなキッズのためのコスメブランドを作ろうと開発したのが『プチレシピ』です」(同社・商品企画部・島田浩之さん)
大人のコスメとの違いは、主に水を主成分とした原料を使用していること。石鹸で落とせるリップやチーク、お湯ではがせるマニキュアなど、一般に大人のコスメで求められる落ちにくさやメイク崩れしにくさよりも、肌への優しさにこだわっているのが特徴だ。
「敏感肌の方から『これなら使える』という声もいただいていますし、もちろん大人の方が使っても構いません。ただし前提としてお子さま向けに開発していますので、弊社のキッズ向け商品には必ず『ご利用は保護者の監督のもとで』といった注意書きを入れています」(同・桑山俊一さん)
また、プチレシピは、従来のコスメブランドのように芸能人などの広告塔を起用していない。その理由は、「キッズコスメというカテゴリーにある」という。
「開発当時、キッズコスメはお子さんがお小遣いで自ら購入するのではなく、親御さんが買い与えるパターンが多くあったため、親と子のコミュニケーションツールとして利用してもらいたい想いがありました。従来のコスメのように芸能人を起用して、憧れの対象を置くのではなく、親と子の関係性の一部として利用してもらうため、あえてロールモデルをおかないようにしました」(桑山さん)
しかし、現在はコロナ禍を経て、子どもたちが自分のお小遣いでキッズコスメを購入するようになるなど消費行動の変化もあったという。
■大人顔負けのカラー展開も…本格化するキッズメイクに約6割の保護者からポジティブな反応
かつてキッズコスメの売り場はサイドネットにかかっているだけだったが、現在「明らかに売り場が大きくなっている」と桑山さんは明かす。棚の上段には単品の商品、下段には複数のコスメがセットになったボックスが並ぶなど、まるで大人の化粧品売り場と同じ状況だ。
「昨今は単品コスメが充実し、カラー展開も豊富です。売れ筋商品も、昔はピンクと薄ピンクだけでしたが、現在はラメ入りパウダーやくすみカラーなど大人のトレンドに近く、知識も豊富でコスメにこだわるお子さまが増えているのを感じます」(桑山さん)
以前と比べてメイクにこだわりが強い子どもたちも増えてきた様子。自分で主体的にコスメを選ぶのは、大体小学生ぐらいからだという。
「コスメイベントを行った際には、サンプルとして置いているリップを口だけではなく、手に出してカラーを1つずつ見ているお子さまもいて、一昨年、昨年にくらべて熱が高まっているのだと実感しました」(島田さん)
コスメイベントだけではなく、近年は小学生向けファッション誌でメイク特集が組まれることや、本格コスメが付録でつくこともある。「まだ肌が弱い子どものうちからメイクをやりすぎない方がいい」「何もやらない方がきれいなのに」など肌への懸念点を訴える声もある一方で、こうした子どものビューティ意識の高まりを保護者はどう捉えているのだろうか。
「キッズコスメに対するネガティブな意見もあったことから、弊社でも2020年度にお子さまのいるお母さまを対象に大規模調査を行っています。その結果、約6割の方から子どもたちのメイクに対するポジティブな反応がありました」(同社 広報・佐藤裕之さん)
この結果には「弊社でも驚きました」と率直な感想を明かしてくれた。
「正直、否定的な意見が多いかと想定していました。ところが『子どもが楽しそうにしている』『母親が子どもにメイクをしてあげるなど、親子のコミュニケーションが生まれた』といった"情緒的価値"を評価されるお母さまが多かった。もちろん『子どもはナチュラルなほうがいい』『年齢に不相応』といった価値観も根強くありますし、ご家庭それぞれの考えは尊重すべきだと思います。その上で弊社としては、お子さまに安全・安心で喜ばれる商品を提供していきたいと考えています」(佐藤さん)
■未就学児もメイクを楽しむように「今後はさらに品質にこだわっていきたい」
大人であれば身だしなみのために毎日行うメイクだが、子どもたちは大人と同じように、毎日使用していても問題ないのだろうか。
「使用方法を間違わなければ、何も問題ありません。ですが、つけたまま寝たり、目の中に入れたりすることのないように注意してください。大人と比べても水性のものや、薬の成分が弱いものを使っているので、毎日使っていても基本的には問題ないです」(島田さん)
昔の子どもたちは七五三や冠婚葬祭など、決まった日にしかメイクをしないものだったが、今の子どもたちはどの場面で使用するのか。2歳半の娘さんがいるという佐藤さんは、「日常で使用しています」と明かしてくれた。
「お出かけできない雨の日などは、家でよく誰に見せるわけでもないのにメイクをして楽しんでいます。お出かけするときでも友達と会うからと言って、おしゃれのためにメイクをしたり。YouTubeでインフルエンサーがキッズメイクをしているのを真似して日常的にメイクをしていますね」(佐藤さん)
低年齢化するキッズメイクに対する様々な声を受け止めつつも、「コスメを通してお子さまの日常に笑顔を咲かせたい」と同社は語る。
「校則の厳しさやライフスタイルはお子さまそれぞれなので、TPOに縛られず、みなさんが使いやすい場面やタイミングで使用できるような商品を開発していきたいと思っています。最近はキッズメイクを楽しまれるお子さんも未就学まで下がってきているので、今後はさらに品質にこだわり、安全な商品の開発にチャレンジしていきたいと考えています」(佐藤さん)
(取材・文/児玉澄子)