TORQUEは「強さだけじゃ飽きられる」 京セラが語るタフネススマホ開発の舞台裏

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2024年10月11日 10:11  ITmedia Mobile

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KDDIがauで2014年に発売した「TORQUE G01」。防水、防塵、耐衝撃、耐振動、耐日射、防湿、温度耐久、低圧対応、塩水耐久と、9つの耐性を備えている

 京セラの高耐久スマートフォン「TORQUE」が日本発売から10周年を迎えた。京セラは「トルクの日」にちなみ、10月9日に報道陣を招いてイベントを開催した。京セラで、TORQUEの開発やマーケティングに関わる3人が登壇し、TORQUE開発の歴史や技術の進化、デザインの裏話、今後の展望などを説明した。


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・研究開発本部 総合デザインセンター 責任者 北村和生氏


・通信機器事業本部 通信技術部 プロダクト戦略部 責任者 伊藤恭弘氏


・通信機器事業本部 ビジネスインテグレーション事業部 マーケティング部 マーケティング戦略課 吉田崇晃氏


●TORQUEの真骨頂といえる部分は何か


 TORQUEは防水・防塵(じん)だけでなく、耐衝撃などをうたい、アウトドア志向の人を主なターゲットとするシリーズ。ブランド名は英語で回転に使われる力を表す「トルク(torque)」が由来で、力強さという思いも込めてTORQUEと名付けられている。NECカシオモバイルコミュニケーションズが2012年まで国内で展開していた「G'zOne」シリーズのタフネス性を受け継いだブランドでもある。


 初号機は2013年3月に「Torque E6710」として北米向けにリリース。国内向けモデルはSIMフリーで2014年3月に、au向けモデルの初号機「TORQUE G01」は同年7月に発売された。海水で水深1.5mに約30分間沈める試験をクリアした「TORQUE G02」、落下強度をさらに高めた「TORQUE G03」「TORQUE G04」、5G対応の「TORQUE 5G」、カメラ機能などを強化した「TORQUE G06」へと続く。


 北村氏は「TORQUE G01は北米向けモデルを逆輸入的な形で日本へ持ってきたものだが、TORQUE G06では通信事業者の協力を得ながら、北米と国内のモデルの両方を共通モデルとして開発した」とモデルによって開発手法が異なると説明。


 伊藤氏は「TORQUE G01からTORQUE G03まではとにかく強いというところを前面に打ち出し、海や山へ行くシーンを想定していた」と振り返る。TORQUE G04から現行機種のTORQUE G06までは「よりいろいろな利用シーンを考えていく」ようになり、「コロナ禍で遊び方も変ってきた時期に世に出した」のがTORQUE 5Gだったという。


 「TORQUEに求められるものを社内で企画の中に取り入れる」という考えから、コンセプトであるタフネスを「高耐久」「持続性」「秘匿性」「特殊性」の4つに分けて考えるようになったという。


 耐久性については、1mの高さからの落下を500回連続で行うタンブル試験、先のとがったピストルの弾のような形のものを落下させる金属落下試験、2mの高さから凸凹のある鉄板やアスファルトに向かって落下させるローレット試験、泡タイプのハンドソープで洗浄する試験を含む。「2mの高さは中型トラックのダッシュボードに相当し、車のダッシュボードから外へ落下した場合を想定し、試験を実施した」(伊藤氏)そうだ。TORQUEの真骨頂といえる部分がこれだ。


 他にも「京セラの北見工場(北海道北見市)では雪の中にTORQUEを突っ込んだり、車でひいてみたり……といろいろな試験を実施して耐久性を担保している」(伊藤氏)という。


 持続性は、長期利用を意味する。「バッテリーの容量を増やせば長時間使えるが、それに伴い重量も増してしまうなどのデメリットが生じるため、ソフトウェアでバッテリーを長持ちさせる仕組みを取り入れた」と伊藤氏は明かす。秘匿性については、「ソフトウェアでセキュリティレベルを上げていく」という意味で、「外からは見えづらい部分ではあるものの、これもタフネスの1つとして捉えている」と伊藤氏は続ける。さらに、「特殊な環境下で使える」(伊藤氏)ような特殊性も重視しているそうだ。


●「強いだけだと次第に飽きられる」 京セラが打った次の手


 ただ、強さは他の端末も極めていける部分だ。急速に進んだ円安や部材費高騰などのあおりを受け、2023年に経営が破綻した後、レノボグループによって救済され、事業再開を果たしたFCNTも5月16日に発表した新型スマートフォン「arrows We2」「arrows We2 Plus」は防塵・防水、耐衝撃の性能に加え、泡タイプのハンドソープで洗えるようになっている。


 京セラも「ただ単に強いだけだと、TORQUEユーザーも次第に飽きてくるし、世の中にある端末も強くなっていくと、(TORQUEの)強さの魅力度が落ちてくる」(伊藤氏)という考えから、タフだけではないアップデートを入れた。例えば、TORQUE G06ではTORQUE初のマクロカメラを搭載し、被写体に4cmまで近づいたマクロ撮影ができる。


 タフさだけでなく見た目にもこだわり設計されているのがTORQUEシリーズだ。TORQUE G01は「ポリカーボネートとエラストマーを組み合わせた設計で、高耐久性を赤で表現」(北村氏)している。形状も独特だ。TORQUE G03では「八角形を採用」(北村氏)しており、TORQUE G04からは「動画視聴を想定」(北村氏)したことから、「上下左右でシンメトリー(対称)」(北村氏)なレイアウトとなっている。


 ウィジェットやアウトドアアプリの情報を集約した「Outdoor Portal」も特徴的だ。TORQUE G03では撮影時に移動速度や気温などを映像に重ねて記録できる「Action Overlay」を、TORQUE G04では「幅広いユーザーに使ってもらいたい」(北村氏)という意図もあり、「オリジナルのTORQUEフォントを採用する」(北村氏)ことに至ったそうだ。Action Overlayの系譜はTORQUE G06が継承。動画にテキストを挿入できる機能として、「Text Overlay」を搭載している。


 「ユーザーの体験を拡張」(北村氏)できるアクセサリーもTORQUEシリーズの売りの1つ。「京セラは当初、サードパーティーの力を借りて、アクセサリーの開発を進めていたが、近年では京セラのデザインセンターの方でアクセサリーをデザインしている」(北村氏)という。「われわれが目指す方向性の使い方かつニーズの高そうなアクセサリーは検討していく価値があり、この先のTORQUEでそのようなアクセサリーを採用していく可能性は十分ある」(伊藤氏)


 京セラはユーザーとの接点を持つべく、2023年3月にTORQUE STYLEというファンサイトを開設した。TORQUE STYLEはオーナー同士の情報交換や相談、自慢の場として活用してもらえるようなWebサイトとなっている。吉田氏はこれまでに「TORQUE G06の側面にリフレクターのスキンシールを貼った、背面カバーに推しのエンブレムを塗装した、背面カバーのTORQUEロゴをスプレーで塗りつぶし、暗所でロゴが光るようにしたなど」と、TORQUEへの愛着が感じられる投稿があったことを紹介する。


●10周年記念カラーの「オリーブグリーン」は超限定製品


 TORQUEシリーズには、根強いファンがいることがうかがえる一方で、いい企画があったとしても量産化に至りづらいのも事実だ。TORQUE STYLEでの10周年記念カラー投票の企画ではTORQUE G06の新色として「オリーブグリーン」が1位に輝いた。北村氏は「マット系のソリッドカラーを用意したところ、そこに対して評価をいただいた」と手応えを見せ、「カバーだけの交換では無理やりな感があり、今回はサイドパネルまで合わせて組み替えられるようにした」と話す。


 オリーブグリーンのTORQUE G06は「ご愛用感謝キャンペーン」(10月9日〜12月1日)の中で、たった3人に抽選で当たるという極めて限定的な具現化に至った。TORQUE STYLEの編集部では「既製品を利用して、オリーブグリーンのストラップを制作している」(吉田氏)が、こちらも「発売の予定はない」(吉田氏)という。


 「それ(TORQUE G06のオリーブグリーン)を作ってビジネスにするとなると、やはり数が必要になるので……」と北村氏は言う。「ユーザーさんに楽しんでもらうという部分と、京セラが法人事業にシフトしていく方向性をうまくバランスできるといいが、それ(企画)がビジネスのフェーズへ行くときに、つながらない部分がある。厳しい状態にあるのは事実」(北村氏)


 激レア製品になりそうなTORQUE G06のオリーブグリーンだが、その実物は10月12日、京セラ みなとみらいリサーチセンターで開催される「TORQUEの10周年を祝う スペシャルイベント」にて展示、披露される予定だ。そのでの反響に期待したい。



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