世界三大毛織物(ウール)の産地として知られる愛知県から岐阜県にまたがる尾州地域を舞台に、ファッション業界への夢を目指す高校生・神谷史織の奮闘を描いた『BISHU 〜世界でいちばん優しい服〜』が10月11日(金)先行公開、18日(金)全国公開となる。
主人公の史織を演じるのは、『ミッドナイトスワン』(20)で鮮烈なデビューを飾り、これが長編映画初主演作となる服部樹咲。史織を支える親友・鴨下真理子役には、『ちひろさん』(22)、『愛のゆくえ』(23)など多数の作品で活躍し、今最も注目を集める若手俳優の1人、長澤樹。劇中で息ぴったりの好演を見せる2人が、撮影を振り返ってくれた。
−お二人は今回初共演だそうですが、感想はいかがでしたか。
服部 共演は初めてですが、今までもワークショップなどで一緒に演技したことはあったんです。そのとき、すごくやりやすかったので、樹ちゃんが真理子役に決まったと聞いた瞬間、ほっとしてすごくうれしかったです。
長澤 その言葉、そっくりそのままお返しします(笑)。私も、樹咲ちゃんが史織を演じるということで、安心感がありました。それまではあいさつする程度だったから、この機会にお友だちになりたいとも思ったし(笑)。
−そうすると、撮影を通じてお2人の距離が縮まったところも?
服部 撮影しながら、少しずつ縮まっていったよね。地方での撮影だったから、撮影が早く終わった日には、一緒に食事に行ったりもして。
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長澤 バッティングセンターにも行ったね。後ろから樹咲ちゃんを見ていたら、すごくかっこよくて「絵になる!」と思った(笑)。
服部 やればやるほどうまく打てないのが悔しくて、「もっと打ちたい!」って気持ちになっちゃうんだよね。だから実は、バッティングセンターには2回行った(笑)。
−そういうお二人の親密な距離感が、史織と真理子の関係にも表れていました。演じる上で、役作りはどのようにされましたか。特に、史織は発達障害を抱えた役でもありますが。
服部 発達障害については撮影に入る前、当事者の方たちとお会いする機会を設けていただきました。学生時代のつらかった経験や不便に思ったこと、それぞれどんな特性や癖があるのかといったお話をじっくり伺い、それを参考に、西川(達郎)監督とお芝居を固めてから現場に入りました。
長澤 私は、わかった気になるのもよくないと思ったので、発達障害について深くは掘り下げなかった。発達障害の史織を助けてあげよう、ではなく、普通に友だちとして付き合うのが真理子のいいところだから。
服部 史織自身については、台本を読んだとき、史織の頭の中のイメージが、鳥になって飛んで行くようなシーンもあったので、史織のかわいらしさや愛らしさといった魅力を出せたら、と思いながら演じました。
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長澤 私は真理子のような明るくテンションの高い役はあまり経験がなかったので、最初は自分にできるのか、不安だった。現場に入ってからも毎朝、西川監督から「真理子、テンション!」と言われていたので、そこはものすごく意識していた。でも、史織と真理子のギャップが大きいほど、その“でこぼこ感”が面白いんだなと、途中で気が付いて。
服部 登場人物の中で、真理子が一番テンション高かったからね。普段は落ち着いている樹ちゃんが、あそこまでテンションを上げられるのはすごいと思った。私はあんなふうにテンション爆上げな役をやったことがないから。
長澤 でも私も、史織の長いせりふを早口で一気にしゃべる樹咲ちゃんをすごい、と思いながら見ていた。かと思えば、動きや視線一つで表現されるものも、とても丁寧で。おかげで、真理子が感情を爆発させるシーンでは、すごく支えられた。樹咲ちゃんが史織でよかった。
服部 私も、真理子が樹ちゃんでよかった。
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−劇中では史織の家の家業である機織り工場の様子をはじめ、服作りの過程が丁寧に描かれていますが、その印象は?
服部 服作りに限らず、「ものを作る」ってすごいことなんだなと、今回の撮影を通して感じました。機織り工場の中にもさまざまな工程があり、他にも仕上げ工場や紡績工場など、いろんな工場がかかわって、ようやく服ができるんです。それを初めて知り、職人さんってすごいなと。でもそれは、映画も同じなんですよね。スタッフやキャストの皆さんが切磋琢磨(せっさたくま)して作り上げ、お客さんに見ていただくことで、ようやく映画は完成するので。だから、いろんな人が関わる「もの作り」って、とてもすてきだと思いました。
長澤 劇中でも、史織が一本一本糸を通して作っていく過程が丁寧に描かれていたので、「すごい」と思いながら、真理子としてすぐそばで見ていた。タイトルにある「優しい服」ってこういうことなんだろうなと思って。そういうものを間近で見る機会はなかなかないので、私自身にとっても貴重な経験だった。
−本作は、史織が夢に挑戦する物語ですが、お2人が夢を実現する上で心がけていることは?
服部 私は、「いつか絶対にできる」と信じ続けることを大事にしています。クラシックバレエをやっていた頃も、「一位になりたい」と思ったら、そのことだけに集中して生活し、練習したおかげで、結果を出すことができました。「俳優になりたい」と思ったときも、親から反対されたんですけど、諦めずに願い続けたら、『ミッドナイトスワン』のオーディションと、運命的に出会うことができて。「言霊」も信じていますし、絶対かなうと信じ、やり続けることが大事なのかなと。その点、やりたいことに真っすぐ向き合う史織には、共感する部分が多かったです。
長澤 「やり続ける」、「思い続ける」って大事だよね。やらなければできないのは当たり前で、やってできないことと、やらずにできないことは全然違うから。それと、私が最近大事にしているのが、楽しむこと。つらいことも含め、全てを楽しめたら、すごく幸せだし、気持ちがポジティブな方が運を引き寄せると思うから。いつか夢がかなったとき、「つらかったけど、楽しい思い出だったな」と思えたらすてきだよね。
−それでは最後に、お2人のこれからの夢を教えてください。
服部 私は、いろんな役を演じられる俳優になりたいです。普段の自分のテンション感や雰囲気とまったく異なる役をやれることのすごさに、演技を始めてから気付いたので。特に、「二十五、二十一」(22)という韓国ドラマに主演しているキム・テリさんが、役によって声まで変えているのがとても魅力的で、ファンになりました。だから、私もいろんな役にどんどん挑戦していきたいですし、韓国語をしゃべれるので、いずれは大好きな韓国の作品にも出演してみたいです。
長澤 私も、海外の作品に出ることは夢の一つ。でもそれ以前に、挑戦することが大好きなので、今回の真理子役もテンションの高い役を演じるという挑戦だったし、それがこの先、どんな未来につながるのか考えると、すごく楽しみ。だから、そういう挑戦の連続をこれからも続け、どんどん新しい未来を切り開いて行きたいです。
(取材・文・写真/井上健一)