【ビエンチャン時事】石破茂首相は11日、就任後初めての外国訪問となったラオスでの日程を終えた。中国、韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の首脳らが参加した国際会議に臨み、中国が東・南シナ海での軍事的活動を強める中、周辺国との連携強化を図った。岸田文雄前政権の路線を踏襲する「安全運転」に徹し、持論である「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」は封印。無難な外交デビューとなった。
首相は11日午後(日本時間同)、首都ビエンチャン市内のホテルで内外記者会見に臨み、「北朝鮮、東・南シナ海を含む地域情勢について日本の立場を発信する貴重な機会になった」と強調した。
11日はブリンケン米国務長官、中国の李強首相、ロシアのラブロフ外相らも顔をそろえた東アジアサミット(EAS)に出席。ロシアによるウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な行動を踏まえ、「法の支配」に基づく国際秩序の重要性を訴えた。
10日の日ASEAN首脳会議では、中国を念頭にした海洋安全保障協力で一致。南シナ海の領有権を巡り中国と激しく対立するフィリピンのマルコス大統領とは防衛協力を確認した。
李首相とも初めて会談した。中国軍の行動などに「深い懸念」を伝えつつ、対話の重要性も強調。1972年の日中国交正常化に尽力した田中角栄元首相を「私の政治の師」と紹介し、「日中両国の指導者があすのために話し合うことが重要だ」との当時の田中氏の発言を引用した。ただ、李首相は従来通りの応答に終始し、意気込みは肩透かしとなった。
安保政策通を自負する首相の「石破カラー」の打ち出しは弱く、手元の紙を見ながら慎重に発言する場面が目立った。東アジアサミット開始前には、インドのモディ首相ら各国首脳が立ち話をする中で、石破首相は一人で席に座り、自身のスマートフォンを操作。他の首脳らと交流する場面は確認できなかった。
総裁選で掲げた「アジア版NATO」に関し、米中対立から距離を置くASEANの多くの加盟国は否定的で、首相から各国首脳への発言はなかった。本格始動した「石破外交」は岸田前首相を引き継ぎ、独自色は見えない。首相側近は「最初から失点はできない」と述べ、守りの姿勢であることを認めた。
11月に南米で開かれる国際会議に向け、中国の習近平国家主席との初会談が実現するかが焦点だ。石破外交を本格軌道に乗せるには、衆院選(15日公示、27日投開票)を乗り切ることが必要条件となる。
首相は12日未明に帰国し、午後2時から日本記者クラブが主催する7党党首討論会に出席。選挙期間中は全国遊説が続く。政府関係者は「まずは衆院選に勝たなければ、石破外交は絵に描いた餅になる」と指摘した。
東アジアサミットに臨む石破茂首相(手前)。奥は中国の李強首相=11日、ビエンチャン(代表撮影・時事)
東アジアサミット(EAS)で、握手する石破茂首相(右)と中国の李強首相=11日、ビエンチャン