渋谷ツタヤ改装、往年のファン絶句…商品がない→集客自体で稼ぐビジネスに

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2024年10月13日 06:00  Business Journal

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SHIBUYA TSUTAYA(「gettyimages」より)

 DVDやCDなどの圧倒的な品揃え・在庫数を誇っていた「SHIBUYA TSUTAYA(渋谷ツタヤ)」。全店改装して今年4月にリニューアルオープンしたが、改装前を知る人のなかには、店内を埋め尽くしていたDVDやCD、書籍などがなくなり、大きく様変わりした光景に驚きとショックを受ける人も少なくないようだ。大手レンタルショップ・書籍販売店だったSHIBUYA TSUTAYAでは、なぜ“モノ”が大幅に減ったのか。そして、SHIBUYA TSUTAYAはいったい何で稼いでいるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


 SHIBUYA TSUTAYA(運営元:カルチュア・コンビニエンス・クラブ<CCC>)がオープンしたのは1999年。改装前は地下1〜2Fがコミック・トレカ・ゲーム販売、1〜2FがDVD・CD販売、3〜5FがDVD・CDレンタル、6Fが書籍販売、7Fがカフェ、8Fがイベントホールとなっていた。その在庫数は全国のTSUTAYAのなかで最大であり、音楽タイトルは約35万枚、映像タイトルは約20万本にもおよんだ。その魅力はタイトルの本数だけではなく、選定の秀逸さにもあった。例えば映画コーナーには手に入りにくい貴重なクラシック映画など古い作品やレアな作品も揃えられ、映画ファン待望の未DVD化映像作品を含む約6000タイトルを取り揃えたビデオテープコーナー『渋谷フィルムコレクション』なども展開。CDコーナーにも各アーティストの古いアルバムから洋楽、ニューミュージック、演歌、民族音楽、落語まで幅広いジャンルのタイトルが取り揃えられていた。


集客力の衰えが顕著になり全店改装

 映画業界関係者はいう。


「20年以上前、大きなレンタルショップがない地方から大学進学に伴い上京してきて、初めて渋谷ツタヤに足を踏み入れたときの感動は忘れない。映画好きの先輩や同級生から薦められた古い映画を借りるため、毎週のように渋谷ツタヤに通っていた。うろ覚えだが、レンタルCDコーナーには効果音などのCDもたくさんあり、当時はまだプロの映像関係の人なんかも深夜にそうしたCDを大量に借りに来ていた気がする。ここ数年は渋谷ツタヤに限らずレンタルショップには行っていないが、私のように映画業界に身を置く人間ですら行かなくなったということは、やはり客は減っているのかもしれない」(2023年8月10日付当サイト記事より)


「音楽でも映像でもまだネット配信サービスが普及していなかった2000年代、SHIBUYA TSUTAYAは若者のみならず幅広い年齢層の客を集め、金曜夜や土曜の午後には横にずらりと並んだレジの前に長蛇の列ができる光景がみられた」(小売業界関係者/同)


 だが、動画配信サービスや音楽のサブスクリプションサービスの普及に伴い、10年代後半に入ってからは集客力の衰えが顕著になり、そこにコロナ禍が重なり、大きな方針転換の必要に迫られることに。全店改装のため、昨年10月31日からは一時休業に入った。


 ちなみに改装前の23年8月、CCCは当サイトの取材に対し、リニューアル後の店舗について次のように説明していた。


「新しい『SHIBUYA TSUTAYA』では、国内のみならず海外から多くの観光客が訪れる世界的観光地・渋谷の一等地に、世界中のIPによって、365日、全ての人が夢中になれるコンテンツやイベントを展開予定です。また、これからの『個人の時代』にあわせて、500席を有するインスパイアされるカフェ&ラウンジの空間を提供する予定です。SHIBUYA TSUTAYAでしか出会えない体験を味わえるような、新しい店舗として新しく生まれ変わるので、ご期待下さい」(23年8月10日付当サイト記事より)


もはや“ツタヤ”ではない

 リニューアルを経て今年4月にオープンした店舗は、大きな変貌を遂げた。常設の物販エリアは主に地下2階・地上6〜7階などに限られ、店舗の顔となる1階は3面の屋内LEDビジョンと屋外エントランスLEDビジョンが完備された、さまざまなイベントが行われるフロアとなっている。地下1階もIPコンテンツとギャラリー展示や物販なども可能なイベントを展開するフロアで、地下2階は「アーティスト、タレント、アイドルを中心に、お客様の『好き!』を集めたフロア」と銘打ち、大型展示の実施、CD・DVD、写真集、雑誌などの販売を行っている。


 そして2階には「スターバックス コーヒー」が入居し、3階〜4階はTSUTAYAが運営する時間制カフェ・ラウンジ「SHARE LOUNGE」で、3階の各所にはIPコンテンツをモチーフとした等身大フィギュアや高品質高級フィギュアが展示されている。5階はポケモンカードゲームを体験できる「POKEMON CARD LOUNGE」、6階はコミック・フィギュア・グッズなどを中心に販売するIP書店、7階はIPコンテンツとのコラボレーションを行いファン同士のつながりの場を提供するコラボレーションカフェとなっている。


 改装後に店舗を訪れたSHIBUYA TSUTAYA ファンを自任する40代男性はいう。


「店内に入って言葉を失いました。リニューアルというより、もはや全く別の店になってしまい、私の知る“ツタヤ”ではありません。かつてはDVDやCD、書籍コーナーを回って1時間でも2時間でも時間を潰せる場所でしたが、もう私たち世代の来る場所ではなくなり、ターゲット顧客がまったく別の層に設定されたと感じます」


PR・宣伝補助事業で売上をあげている

 SHIBUYA TSUTAYAはどのように売上・利益をあげているのか。そのビジネスモデルについて、経営コンサルタントで未来調達研究所取締役の坂口孝則氏はいう。


「DVD・書籍のレンタル事業や書籍販売事業が厳しくなり、それらに代わり、多くの人を集客できるイベントスペースを運営することで、販売促進やキャンペーンを展開したい企業をターゲットとするPR・宣伝補助事業で売上をあげているのだと考えられます。私も何度か足を運びましたが、2階のスタバのスクランブル交差点に面する窓際では多くの外国人観光客たちがカメラ撮影を行っており、店内はほぼ満席状態で、1階ではいつも違うイベントが開催されて多くのお客で賑わっています。次々と新しいイベントを入れ替わりで開催することで、人々に『頻繁にSHIBUYA TSUTAYAに行かなければならない』と思わせて来店を誘うことができますし、人気のタレントやキャラクターのイベントであれば“推し”のファンが多く来店します。もちろんカフェの利用や物販による売上は一定程度あるでしょうが、そのように常に多くの集客をできるということ自体が、イベントスペース運営ビジネスにとっては高い価値になってくるでしょう。


 加えて、以前からCCCはTポイント事業などを通じて消費者行動データ活用に関するデータマネジメントビジネスを手掛けていますが、SHIBUYA TSUTAYAの運営で集めたさまざまな最新データを活かすこともできるでしょう」


コンテンツの選定について綿密に検討

 イベント・企画の選定や商品の品ぞろえ、フロア構成など、店舗の総合力も高いと坂口氏は評価する。


「ポケモンファンの話によると、SHIBUYA TSUTAYA付近には人気トレーディングカードショップの『バトロコ satellite 渋谷駅前』(MAGNET by SHIBUYA109内)や『ポケモンセンターシブヤ』(渋谷PARCO内)などがあり、そこでカードを購入してその足でTSUTAYAの『POKEMON CARD LOUNGE』に行って遊べるというのは素晴らしいとファンの間では評価されているとのことです。また、あるアニメファンの話によると、SHIBUYA TSUTAYAの漫画や書籍、イベント、グッズのチョイスは本当に秀逸だといいます。そのあたりの店舗全体でのコンテンツの選定については、かなり綿密に検討している様子がうかがえます。


 今の若者はコンテンツに序列をつけず、無秩序のままに楽しむ傾向があります。『名著とされているから、版を重ねているからこの本は価値が高い』『アニメだから価値が低い』といった考え方を持たず、推しのアニメを見た後に堅い内容の本を読むという行動を普通に取ります。彼らにとっては、文庫・新書・単行本といった種類別、出版社別に本が並ぶ従来型の書店というのはナンセンスであり、フィギュアの横に漫画が並ぶなど、さまざまなモノが混在して価値並列的に売られているSHIBUYA TSUTAYAの空間づくりは魅力的といえるでしょう」


ドン・キホーテとの共通点

 TSUTAYAの今後の成長戦略を考える際、総合ディスカウントストアのドン・キホーテが参考になるのではないかと坂口氏はいう。


「いろいろなカテゴリの商品が無秩序に並ぶ店舗の代表格がドン・キホーテですが、ドン・キホーテの成長の大きな要因となっているのが、食品スーパーの導入とチェーンストアの否定による来店頻度の向上です。チェーンストアはどの店でも同じ商品が揃っているというのが常識ですが、ドン・キホーテは店舗ごとに品揃えが異なるため、消費者に旅行先でも『ちょっとドン・キホーテに寄ってみようか』と足を向けさせることに成功しています。TSUTAYAも全国の店舗ごとに違ったイベントや商品を展開することで、チェーン全体で成長を続けることができるかもしれません」


 CCCはかつて当サイトのインタビューで、次のように語っていた。


「創業以来『カルチュア・インフラをつくっていくカンパニー』をミッションに掲げ、時代の変化に合わせてライフスタイルを提案してきました。現在はコロナ禍という未曾有の事態に見舞われていますが、時代の変化に合わせてお客様のニーズを先読みした新しいライフスタイルをご提案し、より顧客価値の高い店舗づくりを続けて参ります」


 店舗の変貌は必然といえるだろう。


(文=Business Journal編集部、協力=坂口孝則/未来調達研究所取締役)



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