自白調書を作成する捜査機関の取り調べに問題があったことは、幾つもの再審判決で言及されてきた。容疑者や被告に対する暴行の疑いや供述の誘導などに触れたケースもあり、一度は認めた自白の信用性や任意性を裁判所が否定せざるを得ない事態が続いている。
殺人事件としては初めて被告の死亡後に再審無罪となった「徳島ラジオ商事件」(徳島県)。被告は検察官の取り調べで自白したとされたが、その後否認に転じた。
当初の公判で、証人出廷した検察官は、被告の説明の矛盾点を指摘して真実を語らせたなどと証言したが、再審判決で徳島地裁は「被告が真犯人であることに疑問の余地はないという先入観に支配されていた」と苦言。「被告を心服させ、真実の自白に導くことができたとは言い難い」と結論付けた。
「梅田事件」(北海道)では無期懲役確定後の再審で、釧路地裁が自白の任意性などを検討。警察署内の取り調べで拷問があったかどうかが被告と警察官の間で争われた。
ほぼ同時期に同じ署で取り調べを受けた別の人が警察官に暴行を受けたことや、被告の同房者の供述などから、同地裁は「逮捕後間もない取り調べで数人の警察官から暴行を加えられ、自白を強要されたことが強くうかがえる」として、任意性に疑いがあると判断した。
2003年に起きた「湖東記念病院事件」(滋賀県)でも取り調べの正当性が問われた。再審判決で大津地裁は、被告に発達障害や軽度知的障害があり、誘導されやすい特性があるなどと指摘した。
その上で、取り調べ担当の警察官が被告の特性を利用し、弁護人との接見内容を聞き出すなどしたことが弁護を受ける権利を侵害したと認定。否認調書を作成せず、自白調書を積み重ねたことにも触れ、取り調べを「虚偽供述を誘導する恐れの高い不当なものだ」と批判した。