会社の金を横領した男性の“斜め上”の心配事「クビでも退職金はください」 意外と通用するかもしれないワケ

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2024年10月15日 10:10  弁護士ドットコム

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会社の交際費・交通費を横領したという男性が、「クビになったとして退職金はどうなるのでしょうか」と弁護士ドットコムに相談を寄せました。


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男性は、会社の調査に対し、数十万円の横領を認めたそうです。全額弁済すると会社側に伝えたものの、クビになる覚悟はできています。ただし、長年勤めてきただけに、「退職金」がどうなるのかが気がかりなようです。



横領行為自体は初めてとのことですが、今回の一件で解雇の対象になるのでしょうか。もし解雇された場合、退職金はどうなるのでしょうか。田代隼一郎弁護士に聞きました。



●解雇の見通しは高い

──会社の金銭を横領したら解雇になるのでしょうか。



会社の金銭を横領した場合、解雇の対象となる見通しは高いと考えます。



解雇は、会社から一方的に労働契約を終了させられる制度ですので、日本では簡単に許されるものではありません。



労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めており、たとえ会社から解雇と告知されても、後に裁判所から無効と判断してもらえることも多くあります。



とはいえ、会社の金銭を横領したのであれば、それは業務上横領罪(刑法253条)という犯罪行為です。



それが発覚した時点で刑事事件(逮捕・勾留など)に発展してもおかしくはないことに鑑みると、相談者にとって長年勤続してきた中での初めての横領行為であること、その金額が十数万円であって全額弁済可能な金額であること、ご自身も全額返済の意向を示されていることを考慮しても、会社からの解雇の対象となる可能性は高いと考えます。



──解雇されるとしたら「懲戒解雇」になるのでしょうか。



今後、会社から解雇と告知される場合、解雇の内容としては、「普通解雇」、「懲戒解雇」あるいは「諭旨解雇」などと告知される可能性があります。



「普通解雇」の場合には、解雇予告手当が支給(あるいは解雇予告が実施)され、また、退職金制度の対象となる場合には退職金も支給されます。



他方、「懲戒解雇」は、会社秩序違反に対する制裁(懲戒処分)としての解雇であるため、解雇予告手当の支給はなく、また、退職金も支給されないケースが多く見られます。ただし、懲戒解雇が認められるためには、解雇されるだけの事情があるほか、就業規則等に根拠となる規定があること、懲戒解雇に至るまでに適正な手続きがなされていることなどが求められます。



このほか、会社によっては、「諭旨解雇(ゆしかいこ)」という制度を設けている場合もあります。この制度は法律に定められているものではなく、その意味や内容は会社によって異なります。



諭旨解雇は、懲戒解雇よりも一段軽い制裁的解雇という位置付けか、労働者から退職届が提出されない場合には懲戒解雇するという前提で退職届を提出させるという位置付けのいずれかである場合が多く、いずれの場合も解雇の一種と扱われます。



●必ずしも「懲戒解雇=退職金不支給」ではない

──解雇された場合、退職金はどうなるのでしょうか。



解雇された場合の退職金については、先ほど説明したとおり、解雇の種類(普通解雇、懲戒解雇、諭旨解雇)や会社の就業規則によって異なります。



会社から解雇と告げられたとしてもそれが「普通解雇」に留まる場合には、退職金を請求できる可能性があります。万が一、会社から解雇の理由が明らかにされない場合などには、会社に対し、労働基準法22条1項に基づき書面の交付を求めることもできます。



また、会社から、「懲戒解雇」や「諭旨解雇」などを理由に退職金(の全部または一部)を支給しないと告げられた場合には、まずは就業規則の開示を求めるとよいでしょう。



その結果、退職金の不支給(または減額)について、就業規則に根拠となる規定がない場合には、退職金を請求できる可能性があります。



──就業規則に根拠規定がある場合にはあきらめるしかないでしょうか。



そのような場合でも、退職金の不支給や減額が必ず許されるわけではなく、労働者の「それまでの勤続の功を抹消又は減殺するほど著しい背信行為」があった場合にのみ有効とされています。



●「争う余地はある」

──今回のケースについてはどうでしょうか。



相談者に「それまでの勤続の功を抹消又は減殺するほど著しい背信行為」があったか否かは、十数万円という横領額を考えると非常に難しいところです。



他の裁判例では、18万円の横領を理由とする退職金の不支給が有効とされたケースもありますが、そのケースでは、労働者が公務員であったこと、横領行為を繰り返していたこと、不正行為を認めずに反省や被害弁償もなかったこと、過去にも懲戒処分歴があるなどの事情もありました(札幌高裁平成27年9月11日判決)。



今回のケースで仮に退職金を不支給とされたとしても、争う余地はあると思いますので、弁護士に直接ご相談されることをお勧めします。




【取材協力弁護士】
田代 隼一郎(たしろ・じゅんいちろう)弁護士
田代 隼一郎(たしろ・じゅんいちろう)弁護士
2012年に弁護士登録し、以後10年以上、労働問題を含む多数の事件を解決に導く。労働問題については、労働審判・労働訴訟・労使間の団体交渉などの分野で代理人として活動。個別の事件のほか、商工会議所をはじめとするセミナー講師、新聞・テレビ番組での意見発信、YouTubeでの情報発信にも務める。YouTube動画リスト: https://youtube.com/playlist?list=PLbbwKaZ1VWS3Ga4anZDwuq9zvlqFPg8GI
事務所名:有岡・田代法律事務所
事務所URL:https://at-lawoffice.net/



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