インドサイ、なぜ50年ぶりの出産に? 多摩動物公園職員に聞く、サイ繁殖の“特殊事情”

0

2024年10月15日 18:00  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

寄り添うインドサイ親子 画像提供=(公財)東京動物園協会

 今年9月3日、東京・日野市にある「多摩動物公園」でインドサイの赤ちゃんが誕生した。多摩動物公園では50年ぶりの出産であり、国内でも 8例目となる繁殖である。NHKなど各大手メディアが報じたこのニュースに対し、SNS上では多くの祝福の声とともに「サイって絶滅危惧種だったんだ…」「50年ぶり!?」など、繁殖の少なさに驚く声も少なからずあった。


 なぜこれほどまでに国内でのインドサイの出産件数が少ないのだろうか。多摩動物公園に勤務する職員がインドサイの特殊な繁殖事情など解説してくれた。


【写真】かわいすぎて14万いいね 『コアラのあずまちゃん』写真集が発売決定


■「オス・メスの関係ではなく兄妹・姉弟のような関係になる」


━━インドサイのご誕生おめでとうございます。多摩動物公園では50年ぶり、国内でも8例目の繁殖とのことですが、なぜそれほどまでにインドサイの繁殖は少ないのでしょうか?


 日本での飼育施設、飼育頭数ともに少ない状況です。各飼育園の頭数も、現状では、オス、メス1頭ずつの飼育です。そのためペアの変更をする場合、園をまたいだ移動が必要であり、簡単にペアを変更することができません。


━━サイ同士のペアリングが難しい、というのは一般には知られていないかと思います。


 サイの発情期間は約24時間と短く、同居させるタイミングが難しい動物です。サイのような大きい動物の場合、小さい時にペアで来園した場合、親や仲間の繁殖行動を知らずに育ち、オス・メスの意識でなく兄妹・姉弟のような関係になり、繁殖行動を行わない場合があります。


 今回のブリーディングローン(※1)は繁殖経験のあるメスに繫殖経験のないオスの組み合わせで成功例があったので行った、ということです。来てみないと相性が良いかどうかはわかりませんでした。


(※1)ブリーディングローン
・・・繁殖を目的とした動物の貸借契約のこと。動物園間で個体を移動させることによっ
て、新たなペアを形成し、繁殖に寄与することを目的としている。


■出産件数が少ないため、出産に立ち会った経験がなかった


━━インドサイの妊娠期間は平均して460〜496日と1年以上かかるとのこと。その長期間で母親サイにどのようなケアをされていたのか、苦労した点について教えてください。


 ターゲットトレーニングで飼育係との信頼関係を築き、各部位を確認できるようにしました。採食量の変化、糞の量の変化などを観察して個体の妊娠継続のケアをしました。また妊娠初期は、体形はあまり変化をしないので、妊娠を確定するに苦労しました。


 妊娠が想定されてからは、出産させる部屋の選定、出産までの管理、産室の準備(産室の柵の幅では赤ちゃんサイは抜け出せるので厚い杉板を床に壁のように設置、高さ30cmを5枚、床はウッドチップを厚さ50cmで敷きました。)や生まれた後に移動する通路に対しても同様の補強をしました。


━━それほどまでに出産が少ないとなると、サイの出産に立ち会った飼育員はほとんどいないかと思いますが、今回の出産までの飼育で苦労した点について教えてください。


 前回の出産に立ち会った職員はいないので、メスの前の飼育園での出産状況、準備について情報共有、他にインドサイの出産経験を持つ飼育園から情報提供を受け、妊娠の継続のために餌の量、個体への対応など試行錯誤しました。


━━今回の誕生について、SNS上では祝福の声が寄せられるとともに「早く見に行きたい!」という熱望の声があります。


 10月8日(火)より時間限定し、運動場に出る練習をはじめています。練習初日は、親子で運動場を探索しているようすが見られました。非公開エリアである室内と公開エリアである運動場を行き来できるようにしているため、見られないこともあります。詳細は当園Webサイトをご確認ください。


■インドサイだけじゃない! 多摩動物公園の魅力


 50ヘクタールを超える世界屈指の広さを持ち、豊かな自然の中でたくさんの希少な動物たちがくらす多摩動物公園。インドサイのほかにもトキやニホンコウノトリなど希少動物の保護増殖にも積極的に取り組んでいるこの動物園では、SNS上でも大きな影響力を持つ。


 X(旧Twitter)のフォロワー数は27万人を超えており今年5月には木の幹にしがみついたコアラの画像が投稿されると「かわいすぎる!」と大きな反響を呼び、14万いいねの反応があった。今年10月には『コアラのあずまちゃん』(宝島社)というタイトルの写真集が発売されるなど、インドサイだけではなく愛くるしい動物たちが全国的にファンを獲得している。寒くなる季節で暮らす動物たちに癒されながら、インドサイの赤ちゃんの成長を見届けたい。


(文・取材=リアルサウンドブック編集部)



    ニュース設定