有村智恵プロとフィッター梶山駿吾氏が語るアマチュアのゴルフクラブ選びのポイント フィッティングは受けたほうがいい?

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2024年10月15日 18:20  webスポルティーバ

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【連載】有村智恵のCHIE TALK(第11回) 

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有村智恵と、長年有村プロのクラブフィッターを務めるヤマハRMXブランドディレクターの梶山駿吾氏が、アマチュアのクラブ選びのポイントを解説する。

【ゴルフクラブはF1マシンに近い?】

――梶山さんから見て、プロとアマチュアの違いはなんですか?

梶山 アマチュアゴルファーとプロゴルファーの決定的な違いは、スイングの再現度です。100回打って100回同じスイングをするプロゴルファーと、100回打って100回違うスイングをするアマチュアゴルファー。

 もちろん、トップアマになるとその確率は上がるんでしょうけど、我々のようなエンジョイゴルファーだと、100回打ったら100回違うスイングをしているので、うまい下手ではなく、クラブを合わせ込むところの考え方は、全く違うので面白いですよ。

 プロゴルファーは必ず、作ったものがその意図どおりの結果になります。たまに日が変わって、昨日よかったけど今日はダメ、はあるんですけど、根本的には作ったものが確実に結果に反映される。すごく特殊な生き物だな、と思いますよね。

 こんなに機械みたいなのに感性があるので、大変ですけど(笑)。感性と気持ちの強さが混ざってくる。気の強い機械ですね(笑)

有村 ゴルフ業界って、販売する相手とプロ、それぞれの求めているものが違いすぎて、そこが大変そうですよね。プロが求めているものを追求して、作って、販売して、じゃあそれがすごく売れるかというと絶対違うんですよ。売れるものとプロが好きなものが違う。その難しさは、あるんじゃないかな。

 毎回同じスイングで打てる人に向けて作るクラブと、毎回違う入り方をする人に向けて作るクラブは違いますよね。

梶山 一般的な車を作るのと、トップレーサーが乗るF1マシンを作るのに近いのかもしれない。我々はプロゴルファーに対してはプロ用のF1マシンを作っている感覚なので、それを一般の人に「これで公道を走ってください」ってわけにはいきませんよね。

 でも、そういうF1レーサーが試したエンジンやタイヤを、一般モデルに落としていく、という感覚じゃないですか。感覚が違う。一緒にしちゃうと大変だけど、分けて考えれば、多分どこの業界でも同じようなことをやっているんじゃないかな。

有村 ほんと、たとえがうまいですよね(笑)。

梶山 プロアスリート、プロスポーツのなかで、最も道具がアスリートのパフォーマンスに影響を与えるのは、F1だと思うんですよ。もちろんドライバーのスキルもあるけど、それ以上に、エンジン、ステアリング、タイヤ、何もかもがパフォーマンスに影響する。

 ゴルフもそれに近いですよね。ゴルフクラブだけでも14本あって、シューズ、ボール、ウェアも影響します。身につけているもの、使う道具がパフォーマンスに影響する部分が、ゴルフはすごく多いんですよね。

【アマチュアには"自己肯定感が上がるクラブ"を勧めたい】

有村 オリンピックを見ていて思ったのですが、オリンピックの時だけ(選手は)ウェアを(普段と)変えなきゃいけないじゃないですか。ほかの競技だと、普段から着ているウェアで出場する選手が多いと思うんですけど。ゴルフに関しては、メーカーも多いし、契約もあるから、一回試合で試してみます、もできない。

 変な話、私たちからしたら、オリンピックだからヤマハのクラブが使えませんよ、と言われているのと変わらないんですよ。オリンピック用のメーカーでクラブを作り直してもらってください、と言われているようなものなので、大変なんだろうな、と思いました。

――アマチュアがゴルフクラブを購入する際のポイントは?

梶山 オススメは、使っていて自己肯定感が上がるもの、を使えばいいと思いますよ。

 さきほどアマチュアは100回打って100回違うスイングをするって言ったじゃないですか。もちろん僕も含めて。

 フィッティングをしても"フィッティングをした日のいいクラブ"は見つかるんだけど、たぶん次の日はダメだし、その次の日にはまた違って、半年後にまたいい状態が巡ってくるかもしれない。

 フィッティングを受けることが大事なのは、合うクラブを選ぶというよりも、「フィッティングを受けてしっかり合わせ込んだんだ」という気持ちでゴルフに行くと、うまくいくんですよ。進められて渋々使うクラブとか、自分は好きじゃないけど評判いいから使ってみたクラブは、気持ち的にうまくいかないことが多いんです。僕は、アマチュアがクラブを買うときは、自己肯定感が上がる、で選んでいいと思います。

有村 究極は、そこですよね。プロアマなどで一緒にラウンドした方も、「このクラブ、あの選手が使ってたんだよ」と、それだけでテンションが上がっていて。私たちもプロゴルファーとして、私が使っているクラブというだけでテンションを上げてもらえるのは、すごくうれしいですよね。物自体は各社いいので。

 あとは、私たちプロもそうですけど、アマチュアの人も絶対に"好きな顔"があると思うんです。なんか好き、とか、あんまりうまく打てそうにない、という直感は絶対にあると思うので、構えた時の直感は大事かもしれません。

梶山 形状から来る安心感などの感覚は、必ずみなさん持っていると思いますしね。

【クラブ選びもゴルフの楽しみの醍醐味】

有村 だから、本当に見た目ってすごく大事です。ある程度のレベルまで行ったら、フィッティングをして、借りてコースに行って打ってみたり、は必要かなと思いますけど、最初は見た目から入ってもいいのかなと思う。

 もちろん、私たちプロはそこにすごくこだわりますけど、一般の方がゴルフをするとしたら、まずは楽しんでもらいたいから、道具も楽しんでもらいたい、道具も楽しみのひとつにしてもらいたい、というのが、私たちの業界の意見なのかな。

 ゴルフウェアも、女性が普段は着られないような色合いだったり丈だったりが楽しめるから、これだけゴルフ需要があるのかな、と思っている部分があります。ゴルフバックもヘッドカバーもいろいろな種類や色が増えているから、見ているだけでも楽しいですよね。

梶山 それを楽しみながらやると、たぶんゴルフも楽しくなるし、楽しくゴルフをやれば球もまっすぐいくだろうし。

有村 でも、ゴルフが好きな人は、クラブを見るのも好きですよね。ゴルフの楽しみをトータルで見ると、多くのみなさんは、プレーをする楽しみよりも、むしろクラブ選びのほうを楽しんでいるイメージ。みんな、必ず言っていますよね、「あそこから出たこれがいいらしいよ」とか、「これはあの選手が使って380ヤード飛んでたんだよ」とか。それがゴルフの楽しみの大部分を占めている気もします。

 自分に合った一本を見つけるのを楽しむのはもちろん、新しいものを試してみると、各社が次々と何かを進化させて出してくるわけだから、その進化を楽しんでみるのもいいのかな、と思います。

【旦那さんが先に打ったら腹が立つ(笑)】

有村 どうですか、ヤマハさん。最近、いいクラブができたっていう話を聞きましたよ。私はまだ打ててないんだけど。

梶山 それをこの場で言わなくても(笑)。

有村 でも、すごく楽しみなんですよ。

梶山 そうやって、プロが楽しみにしてもらえるようなもの作りができているのは、メーカーとしてはすごくうれしいですよね。

有村 新しいクラブの打ち始めは楽しいですよね。昔、一緒に練習していた子が新しいクラブに変えたと言っていて、私が勝手にそのアイアンを先に打っちゃって、すごく怒られたのを覚えています。

梶山 あー、それ無理(笑)。じゃあ、今度新しいクラブ持っていく時は、先に自分が打ってから渡しにいきますよ。

有村 私はそこにこだわりがないんですよ。誰が最初に打つかじゃなくて、誰がいちばん馴染ませるかが大事、というか。自分がいちばん多く球を打つ、長い時間を過ごすのがわかっているので、一球誰かが先に打ったところで、そこには全然こだわらないんですよね。でも、(有村プロの)旦那さんが先に打ったら腹が立つ(笑)。

梶山 今、同じことを言おうと思った(笑)。練習場で、旦那さんが智恵ちゃんの新しいクラブを先に打ったら?

有村 旦那さんがうまかったら怒らない。旦那さんが変なところに打痕をつけちゃうから、それは嫌です。(フェースの)真ん中で当ててくれる人だったら大丈夫です。

梶山 試合会場の練習場で、ほかのプロが「ちょっとドライバー打たせてもらっていいですか?」も大丈夫?

有村 大丈夫です。結構ありますよ。選手同士で「ちょっと打たせて」は。

梶山 さすがに試合の朝は嫌でしょ?

有村 全然。大丈夫。(相手も)プロだもん(笑)。

梶山 そうなんだ。平気ですっていう人の割合って、たぶん半々くらいかな。もちろん仲がいいとか、関係性があればいいけど、練習場だといろんなプロがいて、「ちょっと打たせてもらっていいですか」を嫌がるプロは結構多いですよ。

有村 はじめて知りました。私、プロアマで回った方に、自分のクラブで打ってみてください、までは言わないけど、私のクラブがその方に合いそうだなと思ったら、振ってみてください、と言ったことありますよ。振ってみてその感想を聞かせてください、って。

梶山 ほかの競技ですけど、例えば野球だと、イチローさんはほかの選手が自分のバットを持つのも嫌だそうです。プロゴルファーでも、同じように考える人がいますよ。

有村 その気持ちはわかります。

 私は、知っている人なら大丈夫かな。私が誰よりも長くそのクラブと一緒に過ごしていて、誰が触ってもそこは揺るがないなっていう感覚があるから。だから、性格なんでしょうね。

【プロゴルファーはいつまでもプロゴルファーだな、と】

――対談の感想はいかがでしたか?

梶山 こういう場で、プロとクラブについて話す機会はなかなかないので、貴重な時間だったなと思います。すごく楽しかったです。

有村 私もこれから新しくセッティングを見直さないといけないので、自分のスイングが今どうなっているのかわからないけど「こういうスイングにだったら、こういうクラブがいいんじゃない?」という提案が来るのか楽しみです。そういう現場をみなさんに見てもらってもいいかもしれないですね。

梶山 クラブテストは、動画に残してみたいよね。割とピリピリした有村プロが見られますので。クラブテストになったら、普段視聴者が見ている"智恵ちゃん"ではないから。

有村 いやいや、視聴者の人は、試合の時の私しか知らないから。

梶山 そうだ、あの雰囲気だ(笑)。

有村 宮里藍さんがプライベートゴルフで新しいクラブを試していて、傍から見ていたらすごくいいショットなのに、宮里さんは「なんか違う」と言い始めて。引退してあれだけゴルフから離れていても、そこの感覚は鈍らないというか、「あのショットで納得いかないんだ」と。やっぱりプロゴルファーはいつまでもプロゴルファーなんだな、と思いました。私も産後だから緩い気持ちでいるけど、クラブ選びになったらシビアになるのかな。

梶山 スイッチは入っちゃうと思うけどね。

有村 今までは、新しいクラブを試して「変な感想を言っちゃいけない」という気持ちがあったけど、今は私が変な状態になっているから、純粋な感想が言えると思うんですよね。そこは動画に収めるのもいいかもしれない。

梶山 日本語で喋っているけど、見ている人の言語理解が追い付かない言葉でお互いしゃべるから、見ていて楽しいかどうかはわからないけどね。すごくテロップが必要になるかも(笑)。

有村 確かに、クラブ選びに関しては、私たちプロゴルファーですら知識が追いつかないくらいですから。キリがないんですよね。逆に、今だったらアマチュアの方々と同じ視点での質問ができると思いますよ。

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12〜14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。

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