スーパーGT第7戦オートポリスでランキングトップ、98kgのサクセスウエイトで3ランクダウンの燃料制限を受ける36号車au TOM'S GR Supra 第5戦の鈴鹿サーキットが改めて8月末から12月初旬の実質最終戦に移動した影響で、2024年SUPER GTの年間サクセスウエイト(SW)運用は大きく変化することになった。各車両ともシリーズ全8戦中の参戦6戦目までは『フルウエイト』、残る2戦から『半減』、『ノーウエイト』と段階的に重しが減る運用となってきたなか、近年は最終戦手前の"ハーフウエイト"戦だった第7戦のオートポリス(AP)が、今季に限ってはひさびさに『フルウエイト』で争われる1戦に。さらにそのレース距離も昨季の450kmを上回ると想定される時限性の3時間フォーマットが初適用されるなど、タイヤに対しての攻撃性が高いと言われるトラックでの勝負は未知の要素が満載となる。
なかでもGT500クラスは、実質の搭載ウエイトが50kgを超えた段階で燃料流量リストリクターを絞ることでエンジン出力を抑制、ハンデ相当の状態に調整する形態を採っているため、オートポリス(AP)戦ではその影響も小さくない。燃料流量リストリクター制限は0〜50kgのスタンダードな状態である95.0kg/hの燃料流量から始まり、以降51〜67kgが92.6kg/h(1ランク)、同68〜84kgが90.2kg/h(2ランク)、そして85〜100kgが88.0kg/h(3ランク)と段階的にその規制が厳しくなっていく。
過給エンジンにおけるターボチャージャーは、シリンダー内に多くの空気を供給するのが役割であり、とくに標高800メートルの高い場所に位置するAPでは山地の空気が薄いことを考慮しても、当然のように山岳コースでターボの仕事量は増やす必要が出てくる。しかし今週末に限っては、すでに燃料流量が最大の3ランクダウン(36号車au TOM'S GR Supra、37号車Deloitte TOM'S GR Supra、100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GT)に突入した車両が存在しており、その条件では減らされていく燃料流量との抱き合わせにより、"ターボ回転的には楽になってくる"状況が生まれるという。
⚫︎「ランクダウンの方が性能は落ちるけれども、パフォーマンスを出し切れる」GT500のエンジン事情
「現状、たぶんどのメーカーさんも……(共通部品の)ターボ回転上限で走っているとは思うんです。それが高地へ行くとターボ回転のうえでも『これ以上、ブーストは上げられないよ』というクルマが出てきます。実際、他社さんの使用条件はわかりませんけど、そこに燃リスが入るとターボ回転は下げられるので、ランクダウンの方が……性能は落ちているけれども、パフォーマンスを出し切れる」と説明するのは、TCD/TRDで開発責任者を務める佐々木孝博氏だ。
現行NRE(ニッポン・レース・エンジン)規定のターボチャージャーは3メーカーともにギャレット・ハネウェル製の共通部品を使用(TR3579R)している。製品名称が示すとおり79?のコンプレッサー径でブレードの枚数は9枚、その使用回転上限は14万2000回転と定められている。
スタンダードな燃料流量では7100rpm前後で上限の95kg/hに達するというが、ここで限られた燃料の代わりにターボを使って空気をどんどん詰め込むと、空燃比はリーンな状態になる。理論空燃比(ストイキオメトリー/14・5)よりも燃料の比率が高い状態をリッチ(燃料過多)、反対に空気の比率が高い状態をリーン(燃料希薄)と呼び、さらに理論空燃比に対してどれだけ空気が過剰かを示す単位はλ(ラムダ)と呼ばれ、理論空燃比はλ=1。数字が大きくなるほどリーンな混合気であることが示される。
つまり燃料(カーボンニュートラルフューエル/CNF)が燃え、それ自体が発熱して膨張するエネルギーに加え、シリンダーの中で膨張する空気が増えて燃焼圧(P-Max)が上がり、これでもパワーアップが実現する。年を追うごとにターボのブースト圧を高めてきたのがNRE開発のひとつの要点でもあるが、やはり通常の95.0kg/hから88.0kg/hへと燃料量が5パーセント以上のレベルで減らされれば、その空気量も減じざるを得ない。
「ラムダは一緒でも、燃料が少なくなるから空気量も少なくなる。つまりターボ回転は低くなるんですよね」と続ける佐々木氏。「基本的にはパワーラムダ(出力志向の空燃比)がエンジンによって違うと思いますが、我々もパワーラムダが燃リス違いによって若干変わってきます。開発の設備は平地にありますので、そこで高地適合といってもなかなか環境的に気圧を下げて適合できないなど難しい面もありますが、それでもできる限りのことをしてAPに向け準備をしてきています」
空気量を上げた分だけ燃料をたくさん吹ければいいものの、流量規制により吹けないことからラムダはリーン方向になっていく。前述のとおり、平地(海岸線にほど近い鈴鹿など)に対し高地(標高約800メートルのAP)ではより過給しないとターゲットブーストまで上げられないが、ターボ回転の上限値以上は回せないのでブーストを下げるしかない。だからターボ回転が下がり仕事量を少なくすることが出来る、という順序だ。
「さらにリーンで性能が出せるような開発をしていければいいんですが、ラムダを1から1.1、1.2……たとえば1.3とか。どんどんどんどんリーンにし、そこで性能が出せればいいんですけどね。やはりパワーラムダにも限界はあります」
その点、エンジン側では燃費が改善することがメリットとして挙げられるが、ドライが想定される日曜の決勝3時間に向けては戦略面での幅が出ることよりも、その他の条件により厳しい見通しも掲げる。
「たしかに燃費は良くなります。前回のSUGOはウエットからのダンプ条件というところで、燃費差やラップタイム差が出にくかったですが、やはり(3ランクでは)ラップタイムが遅くなる。しかもオートポリスはアップダウンがありますので、さらにドライでレースとなると厳しいのかなと。スープラの特徴というかカラーというか、特性的に使えるタイヤがまた他メーカーさんと変わってきているところもあるので、そこがどういうふうにメリットとして活かせるか、ですね」
⚫︎シビック・タイプR-GTはNSX-GTに「劣る部分はない」
同じく陣営内で3ランクダウンの100号車STANLEYを抱えるホンダ陣営、HRCのGTプロジェクト兼エンジン開発を統括する佐伯昌浩LPL(ラージプロジェクト・リーダー)も、前戦SUGOの決勝終了直後の時点で「まだ燃リスが入っていないクルマが結構いますので、彼らのレースになるんじゃないかな」との見通しを語っていた。
「88kg/hですから。全然クルマが走らないと思います。ストレートで普通にオーバーテイクというのはかなり厳しい状況になると思うし、我慢して我慢してタイヤを持たせて、コーナー区間の手前で抜いて引き離してくるようなことができれば、上位進出は不可能ではないかな」と続けた佐伯氏。
「ただオートポリスは年度によってタイヤの状態が急変するようなこともあるので、そこが燃リス組にとってはチャンス。燃リスの入ったクルマがどの辺の順位で、どれだけポイントを持って帰るかというのが勝負になるんだろうなと」
そのホンダ陣営が今季より投入する新型CIVIC TYPE R-GTは、このAPでの実戦初見参となる(ダンロップ装着の64号車のみテストを実施)。その点に関し車両開発を統括するHRCの徃西友宏氏も、トラックとの好相性を見せた昨年までのNSX-GTに「劣る部分はない」と続ける。
「SUGOでは(シミュレーション含む)事前確認が不十分でしたが、実際にレースを戦っている状態で言うと、NSXに比べてどうしようもなくダウンフォースが低いとか、苦手だとか、そこまでの差がないところまでは仕上がっていると思います。ですのでオートポリスへ行ったときに、コーナリングだとかブレーキングに関してはもう昨季と同じで、他社さんに対しての位置関係はそんなに変わらない感じでいけるんじゃないかなと思います」と徃西氏。
「燃リスはどうしようもないですが、要はクルマの重量としては同じようなところでレースをするので、よりタイヤも長持ちする、ペースを維持できるようなクルマにさえ仕上げれば、と。今年は距離も長いので燃費の良さなどを活かして。特に燃リス組はパワーが出ない部分でコース上では抜けないけれど、ピットストップで抜くなど戦略をうまく駆使して何とか上がっていかなければと。いつも通り、しっかり仕上げていきます」