出雲駅伝はアンカー勝負で國學院大の平林清澄(4年)が駒澤大の篠原倖太朗(4年)に競り勝ち、2度目の優勝を飾った。
駒澤大は昨年よりも選手層が薄くなり、トラックシーズンで主力選手の状態が上がらないことから前評判は高くなかった。だが、出雲では青学大や國學院大と優勝争いを演じ、3連覇は逃したものの2位。明るい材料を多く得て、次の全日本大学駅伝、そして箱根駅伝に向けて手応えを掴んだ。
「1区から5区にレースを作れたのは、この夏、やってきたことが間違っていなかったというのを改めて認識できたので大きな収穫だったかなと思います。また、初めて駅伝を走った2区の帰山(郁大・3年)、5区の島子(公佑・2年)がなんとか凌ぐ走りができました。特に島子は先頭争いをするような位置で走ることができたのでいい経験ができた」
藤田敦史監督が語るように、今回の出雲で駅伝デビューを果たしたのは、帰山と島子のふたりだった。
とりわけ目を引いたのは、島子の走りだ。
島子は夏合宿の最初、新型コロナに罹患して出遅れたが、選抜合宿に入ってから体の状態が上がり、練習をパーフェクトにこなした。出雲の2週間前の日体大長距離競技会5000mでは13分50秒82の自己ベストを出し、「スピードがついてきていい感じだった」と言う。
「出雲に向けて体調だけ整えて走れればいいかなと思っていました。監督に『自信をもって、お前を5区に配置した』と言われた時は、本当にうれしかったですし、やってやろうと思いました」
4区の伊藤蒼唯(3年)からトップで襷を受けた島子は、1.2キロで青学大の若林宏樹(4年)、國學院大の上原琉翔(3年)に並ばれた。5キロ手前で若林が落ちていくと、上原との競り合いになり、必死についていった。だが、ラストで上原に突き離されてしまった。
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「最後、スタミナが足りなくて、ちょっと離されてしまいました。もう少し体力をつけて最後、勝ち切れるようになりたいと思います」
島子は区間2位、國學院大とはわずか4秒差で、アンカーの篠原に襷渡しをした。初のレースで、実力者たちと互角に戦い、役割を果たしたと言えよう。
「少しは貢献できたと思うんですけど、実感がなくて......。昨年は寮で見ているだけで悔しい気持ちでいっぱいだったんですけど、今年はこうして出雲を走らせていただいて、優勝に絡めるレース展開を経験できたのは本当に大きかったです。最後は、自分の走りもチームも悔しい結果になってしまったんですが、こういう場に来て悔しいと思えることが幸せだなと思いました」
デビュー戦を終え、島子はすでに次を見ているが、箱根駅伝に関しては不安要素があるという。
「自分はアップダウンが苦手で、体力もまだないので箱根になると少し怖さを感じています。まだハーフを走ったことがないので、上尾シティハーフマラソンを走る予定です。これから長い距離に対応できるようにして全日本、箱根で結果を出していきたい」
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1年生の桑田駿介の活躍の陰に隠れがちな2年生だったが、輝きを放つ選手が出てきたことは、チームへの刺激という意味で大きかった。
また、今回の出雲で復活を印象付け、チームに勢いをもたらしたのは、3区の山川拓馬(3年)だ。山川はここまで、苦しいシーズンを過ごしてきた。
1月に故障し、走り始めたのは4月。なかなか状態が上がらずにいたが、復帰明けのレースになった6月の東海大学長距離競技会の10000mで29分10秒72の自己ベスト、7月の網走学連記録会10000mで28分36秒98をマークして自己ベストをさらに更新した。だが、夏の一次合宿は筋膜炎のような状態になり、二次合宿に入ってジョグを始め、ポイント練習を開始したのは8月末。そこから状態を上げてきた山川の走りは、この日の駒澤大のターニングポイントになった。
トップの創価大と27秒差でスタートすると前との差を縮めていき、4.5キロ付近で黒田朝日(青学大・3年)や辻原輝(國學院大・2年)、山口翔輝(創価大・1年)とトップ集団を形成。5.5キロ過ぎに黒田との一騎打ちになり、顔を歪めながらトップで襷を渡すことへの執念を見せたが、ラストで黒田に先行された。
「自分の区間では1位で絶対に次に渡すぞという気持ちでいたんですけど、最後、黒田に前に行かれてしまって。区間賞も昨年につづいてヴィクター(キムタイ・城西大3年)に獲られてしまった。自分が1位でくれば流れが変わったと思いますし、うしろをラクにさせることができたんですけど、2位というのは何かしら自分の甘さがあったのかなと思っています」
だが、駒澤大は山川の走りでレースを再度、組み立てることができた。それでも、勝てなかったからなのか、表情は終始、硬かった。
「悔しいですね。この2位で得られたことは、篠原さんや(佐藤)圭汰とか誰かに頼るのではなくて、自分が頼られるような走りをしないといけない。今後、自分が走る区間はすべて1番で帰ってくる、絶対に負けないぞという強い気持ちでチームを引っ張っていこうと思っています」
すぐに全日本大学駅伝がやってくる。山川は1年時から出走しており、前回は2年連続の区間賞で優勝に貢献した。今回も区間賞を獲れば3年連続、チームは5連覇がかかる大一番になる。
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「全日本はやり返さないといけない。そういう気持ちを全員が持たないとダメですね。個人としては今回の出雲を振り返り、同じようなレースを繰り返さないようにしないといけない。全日本ではこの悔しさを晴らし、先輩方に喜んでもらえるような駅伝をしたい」
ロードに強い山川の復活、4区の伊藤の走りは、故障で出雲は不在だった佐藤圭汰(3年)に何かを感じさせるものがあったはずだ。
駅伝デビューは実現できなかったが、出雲の後に開催された出雲市陸協記録会(5000m)ですばらしい走りを見せたのが、谷中晴(1年)だ。
谷中は金谷紘大(4年)とともに出場し、序盤から先頭集団について攻めた。
「けっこう位置取りがうまくできて、4000mぐらいまでは落ち着いて力を溜めて走ることができました。『ラスト2周で行け』って言われていたのですが、先に青学大の白石(光星・4年)さんに行かれて。でも、そこで負けちゃいけない。スパートをかけないと全日本のメンバー選考に入っていけないと思ったので、最後は指示どおりにできたと思います」
谷中は13分49秒71で昨年のインターハイ東北大会以来の自己ベスト、トラックでのレースも1年ぶりという中での快走だった。
「出雲駅伝で篠原さんの涙があったので、金谷さんと絶対にワンツーを取るというプランでした。結果的に1位と5位(金谷・13分57秒12)でしたけど、13分台で揃えることができましたし、自分はトップを獲ることができたので、そこは合格点をあげられるかなと思います」
谷中は桑田駿介(1年)とともに大きな期待を背負って駒澤大に入った。だが、高3の秋に膝を故障し、新入生合宿でも膝に痛みを感じ、5月まで走ることができなかった。その後も違う箇所の故障を繰り返し、本格的に走れるようになったのは7月末だった。
「前半シーズンは走れなかったので悔しかったですし、同期の桑田の活躍も刺激になりますが、同時に焦りにつながるところがありました。今回ようやくユニフォームに袖を通すことができたので、すごくうれしかったです」
谷中の走りを見た藤田監督も笑顔だった。
「出雲駅伝で負けた後、『どういうレースをするのかが大事。記録はそこまでこだわらないから、とにかく勝て。それが次のレースに向けて駒澤の意思表示になるから』って送り出したんです。谷中は非常によかったですね。しっかりと勝ち切った。それがすごく大事です」
まだ体の線が細く、故障しないように目を配りながら強化育成していくことになるが、谷中について、藤田監督はこう語る。
「高校の時から一匹狼で、学法石川の増子(陽太)君というすごい強い選手に絶対に負けないと勝負を挑んで勝ち切ってきた男です。ロードが強く、大八木総監督に言わせれば『福島の人間だから』ということですけど、ゆくゆくは桑田とダブルエースになる可能性があると思います」
谷中は「全日本を走りたい」と意欲的だが、藤田監督も「全日本は順調にいけば使える」とルーキーの起用に前向きだ。
勝負には負けたが、この大会を通して駒澤大は得るものは大きかった。
「ただでは転ばない」
藤田監督の言葉どおり、次戦でやり返す準備が着々と整いつつある。