ミランの圧倒的スピードスター、ラファエル・レオン 「理不尽系」モンスターはどのようにプレーするのがベストか

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2024年10月21日 16:50  webスポルティーバ

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西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第19回 ラファエル・レオン

日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、セリエAミランの10番、ラファエル・レオン。圧倒的なスピードを持つ「理不尽系」プレーヤーはどのように起用され、今を生きているのか。

【理不尽系ドリブラー】

 188センチの長身と長い足、走り出したら止まらない。そしていつも笑っている。ラファエル・レオンはフィールドのモンスターだ。25歳、ミランではキャプテンマークを巻くようになった。ポルトガル代表でもエース格として定着している。

 DFの背後にボールを放り出してしまえば抜ける。スピードが圧倒的なのだ。広いスペースで1対1になったら、止めるのはまず不可能。数は多くないが、こうした理不尽なドリブラーは定期的に現われている。

 ティエリ・アンリ(フランス)は「5メートル・アドバンテージ」を持つ選手と言われていた。DFの背後に5メートルのスペースがあれば、ボールをそこへプッシュしてしまえば競走で勝ててしまうからだ。左サイドに開いて待機していて、サイドチェンジが来たらワンプッシュ。これでだいたいペナルティーエリアまで行けてしまう。

 ミランで大活躍したカカー(ブラジル)も理不尽系。ぐんぐん加速して次々に相手を置き去りにしていくドリブルは圧巻。パスで味方を使うのもうまかったが、ひとりでやる時が一番怖い。

 ガレス・ベイル(ウェールズ)も強烈だった。縦にボールをプッシュしたあと、相手をよけるためにタッチラインの外へ膨らんで走っても、先に追いつけた。

 理不尽系ドリブラーの武器は何と言ってもカウンターアタックで発揮される。まず、間合いというものが全く通じない。普通の選手なら仕掛けない遠い距離からでも、彼らは平気で仕掛けられる。DFは自分の間合いに入れることができない。DFからは届かない距離からボールをプッシュし、届かない場所へ送る。

 普通ならDFが先にボールに追いつきそうなものだが、理不尽系は断然速く先に追いつく。だから理不尽。規格外であり環境破壊とさえ言える。この破壊的ドリブラーに広大なスペースを与えてしまったら、ほぼゴール前まで運ばれてしまう。

 彼らは細かい足技も持っていて、決して速さだけのアタッカーではない。ただ、カウンターさせれば絶対的であり、フェイントなんぞ使わない時のほうがはるかに脅威なのだ。

【最近のスピードスターの活かし方】

 全盛期は理不尽なドリブラーでゴールゲッターだったクリスティアーノ・ロナウドは、左ウイングとしての守備を免除されていた。攻め残りさせてカウンターアタックを先導させたほうがチームに利益があるからだ。しかし、CR7がレアル・マドリードで無双していた時代とは違い、スピードスターでも現在はある程度の守備は要求される。

 レオンも守備はするが、下がるのではなく前方へ出てプレスすることが多い。例えば、相手の右センターバック(CB)に向かって突っ込んでいき、そのまま前方へ残る。必要ならプレスバックもするが、最初から引いて守るよりも前残りできる守り方だ。

 日本代表で三笘薫が左ウイングバックでプレーしている時、同様の前がかりの守備をしている。左シャドーの鎌田大地が相手のCBへプレス、外へ吐かせたパスに三笘がプレス、そして三笘の背後は3バック左の町田浩樹がカバーする。鎌田、三笘、町田が連動しながらの前進守備。三笘は守備でも下げるより前進させたほうがいいという考えだ。

 ポルトガル代表ではレオンのいる左サイドは前進守備、右は引き込む守り方になっているのだが、レオンのプレスがあまりにも速くて連動が遅れそうになることがある。レオンが想定外に速く相手DFのところに到達するので、左サイドバックのヌーノ・メンデスがサイドの相手をつかまえる位置も異様に高くなる。このふたりのスピードにCBがついていけずに、ヌーノ・メンデスの後ろのスペースがやたら大きくなってしまうのだ。

 そういうケースで、MFベルナルド・シウバがCBとメンデスの間を埋める動きをしていたのはさすがだが、思わぬ仕事が増えてしまったのはレオンが速すぎるせいである。相手に速くプレッシャーがかかるのはいいことではあるのだが、ついていく周囲はちょっと大変そうだった。

【賢さとプレーの単純化】

 スピードに乗った時のレオンは無双。止まった状態でも防ぐのはかなり難しい。

 一歩の速さと大きさがモノを言っている。左サイドでDFと対峙、縦へ一歩持ち出して左足でクロス、と見せかけて切り返す。DFがこれに引っかからずに踏ん張り、体勢を立て直したとしても、寄せきる前にレオンは右足でクロスを入れてしまっている。リーチが長く、プレー幅が大きいので、単純に切り返しただけで右足を振る時間と空間を確保できてしまう。

 フィジカルコンタクトにも強い。短い距離の競走ならDFも体を当たることはできる。しかし、下手に当たっても巨体にはじかれてしまう。カカー、ベイル、あるいは「フェノメノ(怪物)」と呼ばれたブラジルのロナウド、さらにそのロナウドが若いころによく比較されていたジャイルジーニョ(ブラジル)もそうなのだが、理不尽系の多くは体が大きくてパワーがある。ユニフォームをつかんだくらいでは止められない。

 速いうえにうまくてサイズもあるのだから、さらに賢かったらどうにもならない。ただ、天は二物を与えずと言うように、理不尽なゆえにインテリジェンスに欠けるケースはわりとありがちではある。

 能力が圧倒的すぎるので、あまり考えなくてもいいからだろう。普通の選手とは立っている場所が違うので見える景色も違う。それを奇抜なアイデアに結びつけるのは得意だけれども、一般的な判断とか工夫は欠けていることがままある。

 10代のころのアンリは、左ウイングとして単純に走るだけで抜けた。しかし、さすがに相手も対策を立てるので、まもなく快進撃はいったん止まった。ここで同じ失敗を繰り返さなかったのがアンリの賢さで、スター街道をばく進していったのだが、ここで止まってしまったまま消えていった選手もたくさんいる。

 大成した理不尽選手は、皆それなりに賢い。レオンも賢さはある。ただ、プレーを単純化したほうが力を発揮できるタイプだと思う。レオンが現在のレオンになったのは左サイドに固定されてからだった。複雑なことを押しつけるのではなく、持って生まれた才能で突っ走らせるのがたぶん正解。

 ある意味、才能だけですべて許されるタイプ。理不尽なようだが、そういう選手もいるのだ。

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