約3年ぶりにモデルチェンジした「iPad mini(A17 Pro)」を試す 外観からは分からないスペックアップでクリエイターにもお勧めの1台に

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2024年10月22日 23:21  ITmedia PC USER

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iPad mini(A17 Pro)は、どのようなタブレットなのか?

 新しい「iPad mini(A17 Pro)」が、10月23日に発売される。搭載されるSoC(System on a Chip)がiPhone 13 Proと同じ「A15 Bionicチップ」から、iPhone 15 Proに搭載された「A17 Proチップ」に更新されているのが大きな違いだ。他にも対応するApple Pencilが「Apple Pencil Pro」に更新されたことも特筆すべきポイントといえる。Apple Storeでの販売価格は7万8800円(Wi-Fiモデル/128GB)からとなる。


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 一方で、この新しいiPad miniはボディーカラーとしてピンクの代わりにパープルが採用されるといった若干のアップデートはあるものの、先代の「iPad mini(第6世代)」から見た目でハッキリと分かる変化はほとんどない。そう言われると「性能が少し上がって、対応するペンが変わっただけ」と思ってしまいがちなのだが、そう単純なアップデートなのだろうか?


 もう少し全体を俯瞰(ふかん)して見た上で、実際に使いつつ重要なポイントを掘り下げてみると、今回の新しいiPad miniは意外にも大きなアップデートだと分かった。約3年ぶりとなるモデルチェンジには、Appleの明確な“意図”が込められている。


●CPU/GPUコアが刷新された効果は大きい


 新しいiPad miniが搭載するA17 Proチップは、先代が搭載するA15 Bionicチップから大幅に性能向上している。CPUコアのパフォーマンスは最大30%、GPUコアのパフォーマンスは最大25%高速化向上しているという。推論演算を担う「Neural Engine」も最大2倍速となったため、「Apple Intelligence」にも対応している(※1)。


(※1)米国英語は10月に、他国の英語(オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、南アフリカ、イギリス)は12月に、他言語(中国語、フランス語、日本語、スペイン語)は2025年内に対応予定


 中でも5基構成のGPUコアは、単に処理スループット(実効パフォーマンス)が向上したただけでなく、「ダイナミックキャッシング」「ハードウェアアクセラレーテッドメッシュシェーディング」、そして「ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシング」といった新機能を備えている。


 今後、数年にわたってAppleが施すであろう多様なアップデートにも対応できる性能面の余裕も生まれた。


 現在のiPad miniに満足しているユーザーからすれば、この性能向上は買い換えの大きな理由にならないのかもしれない。しかし、見た目にはあまり大きな違いはないと感じるだろうが、実際に使ってみるとiPad miniの使える“範囲”が広がったと思う場面が多かった。


●“見えないところ”のスペック向上が地味に効果的


 新しいiPad miniは、SoCの各種コアのピーク性能が向上しているのだが、実際の利用シーンを広げるという観点ではUSB Type-Cポートの伝送速度の向上と、内蔵ストレージの最小容量の向上が大きな意味を持つ。


 先代のiPad miniでは、「iPad Pro」や「iPad Air」などで先行して採用された新しいデザインに刷新された。より新しい第2世代Apple Pencilに対応はしたものの、SoCがiPhone 13と同等だったがゆえに、周辺機器との接続性においては同じデザインを採用する他のiPadとは“違う”特徴付けがなされてしまっていた。


 その点、新しいiPad miniではUSB Type-CポートがUSB 2.0準拠からUSB 3.2 Gen 2(USB 10Gbps)準拠に変更されたのは大きい。ストレージも64GBスタートから128GBスタートに引き上げられた。


 サイズの関係から純正キーボードこそ用意されないものの、それ以外の多くの機能やアプリの可用性はクリエイター向けと位置付けられるiPad Proに通じるものを備えるようになった。クリエイターの道具として、あるいはプロフェッショナルのワークフローにおいて重要な役割を持つ高付加価値端末としてのタブレットの位置付けを踏襲しながら、軽量コンパクトな設計を維持している。


 ここで少しばかり昔話をさせてほしい。


 実は初代のiPad miniは、筆者が初めてAppleの新製品発表イベントに招かれた時に発表されたものだった。米カリフォルニア州サンノゼで行われた発表イベントにおいて、iPad miniは「Webにアクセスすることで、多様なコンテンツをいつでもどこからでも指先1つでアクセスできる、ちょうどいい端末」と説明された。


 もちろん、この時点でもアプリは一通りそろっていたのだが、その使い方はまだ“受動的”なものだった。その後に登場するiPad Proが開拓した「クリエイティブな作業に適したタブレット」という領域は、まだ遠い未来だった。


 iPad Proの進化に伴い、iOS(後に「iPadOS」として分離)が機能を改善していき、キーボードと組み合わせた際の使い勝手が向上した事は皆さんご存じの通りだ。iPad miniもApple Pencilに対応し、そういう意味ではよりクリエイティブな作業に対応できるようになっていた。


 具体的な進化の方向を示すべく、2018年以降のiPad Proと同じデザインに更新された先代のiPad miniは、接続ポートがUSB Type-Cとなり、第2世代のApple Pencilに対応したものの、“心臓部”が当時のiPhoneと同等だったゆえに、USBポートの転送速度は遅いままだった。


 Mac向けに設計されたApple Silicon(Apple Mシリーズ)はより高速なThuderbolt 3/4にも対応している上に、タブレット(iPad)への搭載も想定している。しかし、いくらタブレットへの搭載を想定しているとはいえ、さすがにiPad miniのようなコンパクトモデルまでは想定していない。ITmedia PC USERの読者の皆さんなら、「iPhone用のプラットフォーム(SoC)を流用しないと厳しい」ということは分かるだろう。


 「だったら、もう去年(2023年)のうちにA17 Proチップに移行すれば良かったのでは?」と考える人もいるだろう。確かにそうしていてもおかしくはなかったとは思う。なぜこのタイミングなのかは「Appleのみぞ知る」が、iPad miniはいよいよオリジナルiPadの提案したアプリ領域を超えて、iPad Proが目指してきたクリエイティブな領域に本格的に踏み込んだといえるだろう。


 もっとも、先代と並べて使ってみると、一般的なアプリでパフォーマンスの差を感じることはほとんどない。最新のiPadOSで使えるAI機能に関しても、新しいモデルだからといって(Apple Intelligenceへの対応を除いて)特別大きな差がある訳でもない。


●見えづらいスペック向上が役立つ場面とは?


 繰り返しだが、USB Type-Cポートの転送速度向上はiPad miniが活躍する領域を確実に広げると思う。


 例えば、高性能な一丸カメラと共にフィールド撮影に持ち出せば、iPad miniとApple Pencilを使ってiPad版の「Lightroom」「Photoshop」などで素早く写真の内容を確認したり、RAW現像のパラメーターを調整したり、レタッチ作業をしたりといったことが出先でサッとできる。システムメモリも従来の4GBから8GBに増加しているので、メモリを多く使いがちなこの手のアプリも一層快適に使えるだろう。


 上記のような作業のために今でもiPad Proを使っているという人もいるだろう。iPad Proのよく調整されたディスプレイと、Apple Pencilによる操作はカメラ撮影の愛好家にとって大きなメリットがあるからだ。


 iPad miniの8.3型のLiquid Retina(液晶)ディスプレイは、表示品位の面でiPad Proのディスプレイには及ばない。しかし、約293gの軽さは、フィールド撮影時を始めとする出先での作業ではとても魅力的だ。また、表示品位はiPad Proにかなわないとはいえ、Appleが提唱する色域「Display P3」(※2)の要件を満たす広色域表示は可能で、カラーマッチングもよく調整されているため表示品位は良好だ。


(※2)「DCI-P3」をベースに、ガンマとホワイトポイントを「sRGB」相当に変更したもの


 自動で色調を調整する「True Tone」、全面ラミネート加工や高レベルの反射防止コーティング、そしてディスプレイの輝度の高さは、他の小型タブレット端末ではほとんど見られない特徴だ。


 今回Apple Pencil Proに対応したことで、スケッチ/ペイントアプリはもちろん、「バレルロール」を活用できる動画編集アプリなどを一層便利に使えるようになった。クリエイティブなツールとして、ワークフローに携帯性重視の端末を組み込むことができる。iPadを活用する医療現場などでも、従来とは異なるシーンで使えるようになるかもしれない。


 Appleだけがタブレットの世界で“特別な能力”を持っているなどと言うつもりはない。ただ、iPad miniの優位性は、既にプレミアムなクリエイティブ作業にも使われていて、「エンドユーザー向けにタブレットでもここまでできる」ということを実証済みなiPadOSを搭載していることにある。性能さえ十分であれば、iPadOSの機能を生かすことでiPad miniそのものの用途を、プレミアムクラスのタブレット端末に寄せることができるのだ。


 要するに、新しいiPad miniの優位性は、それ自身の能力あるいは企画の妙というよりも、OSも含めたAppleがこれまで重ねてきたアプローチがもたらした面が大きい。コンパクトかつ軽量なタブレットでありながら、同時にプレミアムクラスのタブレット端末と同様の使い方もできる――これは大きなアドバンテージといえる。


●将来的には「Apple Intelligence」にも対応


 新しいiPad miniは、Appleが今後デバイスの差別化を行う上で重要な要素と位置付けるApple Intelligenceにも対応する。


 これは言語モデルを用いたAI(人工知能)ベースの機能だが、基本的に処理はオンデバイスで行われ、一部の複雑な質問のみ「プライベートクラウド」と呼ばれる独自開発のプライバシーを侵害しない処理を施したサーバで処理される。


 このように書くと、常にオンラインであることが前提のiPhoneとは異なり、特にWi-Fiモデルではオフラインでの利用シーンも多いであろうiPad miniでは「Apple Intelligenceを使える場面が限られるのではないか?」と考えるかもしれない。


 しかし、英語版でのテスト(β)運用を見る限り、ほとんどの機能はオンデバイスで完結できているので、そこまで気にする必要はないように思う。例えば写真から不要な要素を取り除く「クリーンアップ(Clean up)」という機能(Googleでいうところの「消しゴムマジック」に相当)はオフライン状態でも問題なく使える。また、文章作成の支援機能や、文脈を把握して文章を自動で清書する機能も、全てオフラインで動作可能だ。


 挙動をよく見てみると、クリーンアップはオンライン状態だと応答が遅くなる傾向にあるため、恐らくは「オンデバイス処理」と「クラウド処理」の両方に対応していると思われるが、利用者はその違いを意識することは基本的にないだろう。結果を比較しても、ほとんど差を認めることができないからだ。


 現状において「Apple Intelligence(AI機能)は必要ない」と考えている人もいるかもしれないが、今後Apple Intelligenceへの対応は“当たり前”のことになっていくだろう。


 そうした意味でも、Apple Intelligence対応のSoCにアップデートされた意味は大きい。


●iPhone 15 Proと比べてパフォーマンスはどうなのか?


 「Geekbench 6」で新しいiPad miniの性能を計測してみたところ、以下のようなスコアを記録した。


・CPU(シングルコア):2803ポイント


・CPU(マルチコア):6600ポイント


・Compute(GPU):2万5719ポイント


 当然ながら、いずれも先代のiPad miniよりも高いスコアだ。しかし、同じSoCを搭載するiPhone 15 Proシリーズと比べると一部のスコアが低いことが気になる。


 “小さなiPad”であるiPad miniだが、iPhoneよりは大きい。一見すると放熱面では有利そうに思えるのだが、設計の都合で意外にも厳しいのだろうか……?


●約3年ぶりのアップデートは意義深い


 他のiPadシリーズと比べると、これまでのiPad miniシリーズのアップデートの頻度は低い傾向にある。生粋のiPad miniユーザーの中には「いつかiPad miniがなくなってしまうのではないか」と不安を覚えてきた人もいるかもしれない。


 Appleは機種ごとの販売内訳を公表していないため、iPad miniが他のiPadシリーズと比べて売れているのかどうかは分からない。ただ、主な周辺アクセサリーである保護ケースや保護フィルムのラインアップを見る限り、iPadシリーズの中では“マイノリティー”であることは否めない。もしもAppleがミニタブレットのジャンル(=iPad mini)を必要ないと考えているのであれば、これまでに「iPad miniの新モデルを出さない」という判断はできたはずだ。


 しかし、ペースが遅いとはいえ、AppleがiPad miniの投入を継続しているのは何らかの明確な理由があるのだろう。従って、今後もiPad miniへの投資は続けると思われる。


 そもそも、iPad miniは機能的に他のiPadシリーズと比べて“何か”が欠けている、あるいは劣っている要素があった。これはある意味で「小型だから」と許容されていたからこそ、iPadシリーズの中で少数派になってしまったのだと筆者は考えている。


 今回、A17 Proチップを搭載した新しいiPad miniは、購入しやすい価格帯とiPad Proが築いてきたクリエイター向け、あるいはプロフェッショナル向けタブレットのジャンルへの対応の両方に対応できる選択肢となった。


 次のiPad miniの刷新がいつになるのかは分からないが、iPad ProやiPad Airよりも長い間、現役のカタログモデルとして継続される確率はかなり高い。ある意味で対象ユーザー、あるいは適する用途が限られている製品でもある。


 そうした中にあって、iPad Proが目指してきたクリエイティブでプレミアムなタブレット端末の要素を満たしたのだから、ここは大きな節目として記憶されるモデルになるだろう。



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