闇バイト、自首で刑は軽くなるのか? 「あなたや家族を保護する」 警察庁幹部の異例メッセージが話題

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2024年10月23日 10:31  弁護士ドットコム

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関東で民家での強盗事件が相次いでいることを受け、警察庁が10月18日に公開した動画が話題となっている。


【関連記事:■強盗に入られたら、どこまで反撃していい? 94年前にできた「盗犯等防止法」が定める正当防衛の基準】



“闇バイト”などで事件に関わろうとしている若者に警察庁の生活安全企画課長が犯行グループからの離脱を促す内容で、「勇気を持って抜け出し、すぐに警察に相談をしてください。警察は相談を受けたあなたやあなたのご家族を確実に保護します」と呼びかけている。



X(旧ツイッター)に投稿されたこの動画はすでに200万近く表示されている。



また、この動画を見た人から「実際に強盗をやる前なら罪にならない事も知らせるべき」といった書き込みがされ、2万回以上リポストされている。



今回警察庁が呼びかけた「保護」では具体的にどのような対応が取られるのか? また、保護されたら罪に問われることはないのか?



警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する澤井康生弁護士に聞いた。



●警察の「保護」とは?

ーー「あなたや家族を保護する」という警察庁のメッセージは具体的にどのような対応をとってもらえる?



日本では米国のような証人保護プログラム制度がないことから、警察が特別に保護を行うという制度はありません。



そのため、まずは犯罪者集団から危害を加えられそうになっている対象者について、自宅のパトロールを強化したり、防犯ブザーを提供したりするなどして防犯対策を強化することが考えられます。



また、危害を加えられる恐れが顕著であるという場合には同人の同意のもとに、任意捜査の一環として退避場所を提供することも考えられます。



さらに、警察官職務執行法4条には対象者の生命身体に危険が生じる危険な事態が生じた場合にはこれを避けるために対象者を避難させることができる旨の規定があることから、同規定に基づいて対象者を避難させることも考えられます。





●警察庁幹部のメッセージは「異例」

ーー今回のように警察庁の幹部が自らメッセージを発することは異例?



幹部自らメッセージを発するのはあまり見たことがないので異例だと思います。



闇バイトによる強盗事件は末端の実行犯をいくら逮捕したところで首謀者にたどりつくのはとても難しく、強盗犯人を事後的に検挙しているだけでは強盗事件を未然に防ぐことはできません。



強盗を未然に防ぐ対策の1つとして、闇バイトに応募しようか迷っている若者に対して、闇バイトに応募しないように働きかける方法は一定の効果はあるのではないでしょうか。



特に今回の動画は若者が多く見るであろうSNSをメインに配信されているので、闇バイトに手を出そうか迷っている若者に対し届きやすいと思います。





●強盗予備罪の可能性 無罪放免にならずも自首は刑軽減も

ーー「警察庁が保護する」=「罪に問われない」と受け取ってもいい?



強盗は計画段階で何らかの関与をしただけでも強盗予備罪が成立し、2年以下の懲役です(刑法237条)。



例えば、地図を準備したり、車両を手配したり、凶器を購入したりするだけでも強盗の予備行為に該当するため、強盗予備罪が成立します。



したがって、強盗の計画に関与した者には強盗予備罪が成立する可能性が高いことから、保護を求めても無罪放免ということにはならないと思います。



ただし、強盗予備罪は強盗罪(5年以上の有期懲役)に比べれば刑も軽く、警察が強盗計画を認知するまえに自ら名乗り出れば自首が成立し、刑が減軽される可能性があります(刑法42条1項)。



自ら保護を求めて出頭し、捜査にも協力し、他の共犯者も検挙できれば、強盗予備罪自体は成立しているものの有利な情状として認められ、起訴猶予となる可能性もあります。



強盗罪はネット上の犯罪などと違い、必ず現場で暴行・脅迫と財物奪取という実行行為を行わなければならない攻撃犯です。そのため警察の捜査能力を前提とすれば、実行犯は必ず逮捕されると思ったほうがよいでしょう。



闇バイトに応じてそのまま強盗を犯したら強盗罪で5年以上の懲役です。また被害者に怪我をさせてしまえば強盗傷害罪として無期または6年以上の懲役となり、さらに被害者を死亡させた場合は死刑または無期懲役のどちらかしかありません(刑法241条)。



強盗予備罪のみであれば、罪も重くないので十分にやり直しができますが、強盗罪から先に進んでしまうと長期間刑務所に行くこととなり取返しのつかないこととなります。



以上より、闇バイトに関わってしまった人にとって、警察へ保護を求めて相談することが最善の選択肢であることは間違いありません。




【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/



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