コントに見えるのは、私だけではないだろう。日本のルールを定める国会で、首相が真顔で「ルールを守る」ことをお約束するのだから、笑うしかない。
【写真】裏金選挙と呼ばれる2024衆院選。あなたが重視する争点は?
記者は20年近く前から政治取材に関ってきたが、裏金など政治不信の話題は事欠かない。そのたびに政治家たちはある言葉を口にする。「信無くば立たず」。慌ただしく閉会した先の臨時国会でも、やはり出た。政治は民の信頼無くして成り立たないという意味だ。
この言葉は、記者の頭の中では野党時代の自民党総裁、谷垣禎一さんと結びついている。失墜した自民の信頼回復役を担った谷垣さんは、国会や党大会で何度も「信無くば−」と訴えた。当時は、民主党政権が信頼を失っていく時期。谷垣さんの誠実な人柄もあってか「自民は生まれ変わるのかも」と、言葉に力を感じたものだった。
出典は論語。意訳すれば、次のような話となる。
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孔子が政治で大切なこととして食、軍備、民の信頼を挙げたのに対し、弟子が「やむを得ずどれかを捨てるならどれか」と質問。孔子は「まず軍備。次は食」と答えた上で「民信無くば立たず」と諭した−。
大国同士が覇権を争った古代中国で、よくこんな教えを説けたものだと感心する。そういえば、現代日本の政治家は安全保障環境の変化を受けた防衛力強化や、今夏のコメ不足を踏まえた食の確保を訴えている。晩酌しながら論語を読み返すうち、孔子が「民の信頼が無ければ、安全保障政策も食料政策も、何も成し遂げることはできない」と、忠告しているように思えてきた。
孔子は晩年は不遇だったという。谷垣さんも政権奪還直前に自民の権力闘争に敗れ、首相になれなかった。ルールも守れない政治家たちは「現実の政治の中で権力を握り世界と渡り合うには、きれい事は役に立たない」と、「信無くば−」の言葉を内心小ばかにしているかもしれない。
(まいどなニュース/京都新聞)
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