“スタバがある銀行”の集客力はやはりすごかった 渋谷に現れた「緑の店舗」

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2024年10月25日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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スタバとコワーキングスペースを併設した銀行が登場

 三井住友銀行が、カフェとコワーキングスペースを併設した新形態の店舗「Olive LOUNGE(オリーブ ラウンジ)」の開設を進めている。同行と三井住友カードの共同商品である総合金融サービス「Olive(オリーブ)」をモチーフとした新しいコンセプトの個人客向け店舗だ。


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 2024年5月にオープンした1号店の「オリーブ ラウンジ 渋谷店」は、1階に銀行とスターバックス、2階にカルチュア・コンビニエンス・クラブ社(以下、CCC社)が運営するコワーキングスペース「SHARE LOUNGE(シェアラウンジ)」を備え、地下1階にはオリーブのアカウント契約者が使える個室やソファもある。


 10月7日には2号店の「オリーブ ラウンジ 下高井戸店」もオープンした。三井住友銀行によると、全国約400支店のうち、10%程度をオリーブ ラウンジに切り替える可能性があるという。


 オリーブラウンジにはどんな狙いがあり、どんな効果が生まれているのか。下高井戸店の発表会に参加し、三井住友銀行のチャネル戦略部長 泉純氏に取材した。


●気軽に足を運んでもらい、顧客獲得へ


 キャッシュレス決済の浸透や取引のデジタル化により、銀行の支店に足を運ぶ人は減っているだろう。キャッシュレス決済を中心に生活している筆者は、数カ月に1度コンビニで現金を下ろす程度で、銀行の支店を訪れることがほぼなくなった。そうした環境変化もあり銀行の店舗が変化してきている。


 さかのぼると三菱UFJ、三井住友、みずほの3大メガバンクの店舗数は1990年代にピークに達し、その後は合併などを背景にした支店の統廃合により減少。報道によれば、三菱UFJ銀行は2017年度に515あった店舗が421に(2024年3月末時点)。みずほ銀行も2017年度に約500あった店舗が約310店舗に減っている(2024年7月時点)。


 3大メガバンクのうち早期から統廃合を進めてきたのが三井住友銀行で、2001年の合併を経て2003年にはピーク時の1000店から半減。そこからは大きく数を減らさず、2024年10月現在は約400店舗を運営している。


 近年は店舗の小型化も進む。駅ナカの商業施設やショッピングモール内に支店を移行して面積を縮小、顧客とのタッチポイントを拡充しつつ、運営コストを削減する狙いがある。


 そうしたなか、三井住友銀行が「次の一手」として開設を進めるのが「オリーブラウンジ」だ。本来、「用事がないと訪れない場所」である銀行に、人々が日常的に利用するカフェやコワーキングスペースを設けることで、気軽に銀行に足を運んでもらおうというわけだ。


 有人の窓口は平日午後4時までだが、カフェやコワーキングスペースは土日祝日も含めて朝から夜まで営業する。利便性を提供することで顧客数を拡大し、銀行の価値向上につなげていきたいという。


 「支店数を減らすのではなく、新たな形態の店舗への切り替えを進めているのは、対面で相談したいニーズが確実にあるためです。特に、目に見えない金融商品はネット上で比較しても分かりづらいですし、有人のサービスを受けたい方がいるはずです。また、カードが使えなくなったなどの困りごとがあった際も、直接教えてほしいニーズがあると考えます」


●1階に銀行とスタバ、2階にシェアラウンジ


 オリーブ ラウンジはCCC社と共同開発した店舗で、銀行にスタバとシェアラウンジを併設している。三井住友銀行と三井住友カードの総合金融サービス「オリーブ」の会員を拡大したい狙いがあり、スタバやシェアラウンジの利用料金をオリーブのスマホタッチ決済をで支払うと、利用金額の10%相当のVポイントが還元されるなどの特典がある。


 2024年5月にオープンした渋谷店は西武渋谷店B館にあり、1階にスタバと銀行窓口・ATM、2階にシェアラウンジがそれぞれ入る。地下1階には、三井住友銀行が使用していた貸金庫をリノベーションした個室などがあり、オリーブ会員に開放している。


 渋谷店はフラッグシップ店の位置付けで、オリーブの認知を高める目的で膨大な人流が見込まれるエリアに出店したという。1階のスタバは約110席、2階のシェアラウンジは125席を設ける。


 10月7日にオープンした2号店目の下高井戸店は、下高井戸駅からすぐの場所に位置し、1階に銀行ATMとスタバ、2階に銀行窓口とシェアラウンジが入る。1階のスタバは104席、2階のシェアラウンジは63席を設ける。


 同店は郊外型店舗の位置付けで、街のシンボルになるような店舗を目指す。近隣住民や下高井戸に通学する学生の来客を見込んでおり、何度もリピートするような使い方を想定しているという。


 設計コンセプトは「下高井戸の森」で、外壁にたくさんの植物が使われ、緑が店内にゆるやかにつながっていくような空間をイメージしている。オリーブの実や葉っぱを彷彿(ほうふつ)とさせるアロマの香りも用意した。2階は開放的な窓から地域の景色が眺められるなど、下高井戸のまちに溶け込むような工夫も見られる。


●渋谷店では約3.5倍の集客、顧客も順調に獲得


 すでにオープンから約5カ月が経過した渋谷店は、1日平均で約1500人が来店しているという。スタバにはひっきりなしに顧客が訪れている状況で、立地柄、若年層が目立つそうだ。時にNPOのセミナーなど社会貢献に関するイベントなども実施して人を呼び込んでいるというが、銀行サービスの利用者は増えているのか。


 「オープン前に来客数の予想は立てていなかったのですが、以前の支店と比べて集客は約3.5倍にアップしています。一番の狙いであるオリーブ会員の獲得数においても、同様にオリーブの案内を強化している商業施設内の小型店と比較して、約1.4倍と好調です。


 例えば、ふらっとカフェに来店した方が、オリーブの決済によるVポイント還元を知ってオリーブを申し込む、あるいはシェアラウンジをよく使う方がVポイント還元を魅力に感じてオリーブに申し込むケースはよくありますね」


 オリーブラウンジは広告塔としても機能しているとのこと。オリーブラウンジの公式Webサイトの閲覧数は約16万件に及び、そこから約3000件のアカウントの申し込みがあったと推計している。こうした実績から、渋谷店においては一定の成果が出ていると評価しているそうだ。


 下高井戸店は、1日当たりシェアラウンジが110人、スタバが700人、合計で810人の来客を見込んでいる。メディア向けの発表会を実施した10月4日時点で、すでに近隣顧客への内覧を済ませているほか、渋谷店同様に社会貢献に関するイベントの実施も検討しているという。


 「街のシンボルを掲げている下高井戸店では、このエリアに住む、あるいは利用するお客さまにどれだけ受け入れられるかが重要なポイントです。同店がうまくいけば、他の郊外型にも前向きに着手できるだろうと。例えば、都内なら都立大学などでの出店を計画しています」


 オリーブラウンジで推し進めるオリーブは、2023年3月にリリースして、5年間で1200万アカウントを目標にしている。2024年7月時点で300万アカウントを達成し、順調に推移しているという。


 実際に店舗を目にして、銀行、カフェ、コワーキングスペースの相性の良さは感じられた。オリーブラウンジの拡大により、オリーブの会員数がどう変動するのか、要注目だ。


(小林香織)



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