サンフレッチェ広島の最強助っ人 アルスランとパシエンシアが優勝のカギを握る

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2024年10月25日 09:11  webスポルティーバ

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 昨年の夏にアンドレス・イニエスタ(元ヴィッセル神戸)が去ったことで、日本には「大物」と呼べる助っ人はいなくなった。イニエスタ以前にもそうした存在はさほど多くなかったとはいえ、個の力で観衆を魅了できるタレントは、やはりJリーグを盛り上げるためには不可欠だ。

 これからのJリーグを背負って立つ若手が次々に海外に移籍する流れに拍車がかかる現状を踏まえれば、なおさらだろう。出ていった以上は、補う必要がある。そうでなければ、タレントの空洞化はますます進むことになりかねない。

 現在、J1リーグの得点ランクのトップに立つレオ・セアラ(セレッソ大阪)にしても、2位のアンデルソン・ロペス(横浜F・マリノス)にしても、ワールドワイドな実績はない。日本国内で結果を残してクラブを移った選手であり、いわば想像の域を超えてはこないだろう。

 各チームの補強策が国内の市場に向いているだけでは、リーグの発展は望めない。国外から新たな才能を入れなければ、新陳代謝は促せないし、魅力も薄れていくことになる。

 その意味で、今夏にサンフレッチェ広島が行なった補強策は、実に建設的なものだったように思う。

 トルガイ・アルスランとゴンサロ・パシエンシア。ともに欧州で実績を積んだ「本場」の匂いが漂う助っ人の獲得である。

 トルコ系ドイツ人の前者は、ドルトムントの下部組織で育ち、ハンブルガーSVでキャリアをスタート。トルコの名門ベシクタシュやセリエAでもプレーし、昨シーズンはオーストラリアのメルボルン・シティに在籍していた。

 アルスランは現在34歳。すでにピークは過ぎているものの、ミッドフィールダーとして実力と実績に疑いの余地はない。

 一方、元ポルトガル代表の肩書きを持つ後者は、母国の名門ポルトでデビューし、ドイツやスペインでもプレー。フランクフルトでは長谷部誠と同僚となり、ボーフムでは浅野拓磨とチームメイトだった。ポルトガル代表ではクリスティアーノ・ロナウドと2トップを組んだ経験もある。

 パシンエンシアは現在30歳と、脂が乗りきっている。しなやか、かつパワフルなプレーで、日本でのゴール量産が期待されている。

【移籍した大橋祐紀の得点力を補う活躍】

 ここまでインパクトを放っているのは、前者のアルスランのほうだ。

 デビュー2戦目となったC大阪戦で2ゴールを奪うと、29節のFC東京戦ではハットトリックを達成。31節の横浜FM戦でも2点を記録し、ここまで10試合に出場して7得点をマーク。シャドーの位置で躍動し、夏に移籍した大橋祐紀(現ブラックバーン)の抜けた穴を埋める以上の活躍を見せている。

 特筆すべきはシュート精度の高さで、7点を奪うまでに放ったシュートの数はたったの9本。その能力を支えるのは、圧倒的な冷静さだ。巧みなキックフェイントを駆使し、エリア内でDFを次々にかわして流し込んだC大阪戦の2点目は、彼の能力の高さを示す象徴的な一撃だった。

 対するパシエンシアは、まだコンスタントな活躍を見せられてはいないものの、ゴールを奪う感覚はやはり一級品。ここまで4試合に出場して2ゴールを記録している。クロスに合わせる能力に秀でており、身長187cmの高さを生かしたヘッドに加え、ニアサイドで仕留める位置取りの巧さも、ストライカーならではのものだ。

 敗れた34節の湘南ベルマーレ戦では、パシエンシアはベンチに留まり続けた一方、アルスランはスタメン出場したがゴールは奪えなかった。期待外れに終わったとはいえ、ピッチに立ったアルスランのプレーのクオリティは、やはり「本物」を感じさせるものだった。

 際立っていたのは、身体の強さと、トラップの巧さだ。相手を背負いながらも体幹がブレず、ボールを確実に収めては次のプレーへと展開。ここでしっかりと時間が作れるから、広島は前へと人数をかけることができていた。

 縦に速いサッカーを売りとしていた広島だが、このドイツ人MFの加入によって遅攻も繰り出せるようになった。攻撃のバリエーションが増えたことが、広島が現在トップに立つ要因だろう。実際にアルスランの加入以降、この湘南戦までひとつも負けていなかった。

 一方で湘南戦では、シュート3本を放ちながらも無得点。勢いよく得点を積み重ねてきたアルスランだが、ここ3試合は結果を出せていない。

【ゴールを取れなくても優勝することが重要】

 もっとも、アルスランはストライカーではなく、トップ下やボランチを主戦とするMFだ。「点を取ることが一番好き」と話すものの、味方を助ける利他的なプレーを持ち味としている。

 厳しくマークされた湘南戦ではなかなかエリア内に入り込めなかったものの、サイドに流れてボールを引き出し、中央のスペースにボランチの川辺駿を引き込むなど、クレバーなプレーで攻撃を活性化していた。

「今日はマークがけっこう厳しかったので、たくさん動きました。たくさん動くことで味方がフリーになればいいと思っていましたし、空いたスペースをうまく利用しようと考えていました」

 ゴールを量産し、相手の警戒が強まっていることも、アルスランはどこ吹く風だ。

「オーストラリアでは、日本のディフェンダーより2倍くらい大きくて、強くて、速い選手を相手にしていたので、(警戒されていることは)そこまでは意識していません。自分が点を取っても、取れなくても、優勝することが一番重要です」

 軽いジョークを交えながら飄々(ひょうひょう)と答えるアルスランからは、確かな経験値を備えた実力者の余裕が漂った。

「Jリーグはすばらしいリーグだし、優れた選手もたくさんいると思います。でも僕は、毎試合を楽しんでプレーしているだけ。そしてとにかく優勝したいので、そこに集中してやっていくだけです」

 ドイツから加わったアタッカーと、ポルトガルからやってきたストライカー。広島の9年ぶりの優勝は、想像の域を超えてくるこの「ふたりの助っ人」にかかっている。

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