人口減少、1次産業や事業の後継者不足、地域医療の確保、地域交通の維持など「課題先進地域」という側面を持つ北海道。
全国の多くの自治体が解決策を模索している中、北海道が自治体向けに地域課題解決型イベントを開催するというので、どのような内容なのか道民の1人として興味を持ち、会場である札幌コンベンションセンターへ向かいました。
自治体とスタートアップのお見合いの場!?
北海道とNTT東日本共催による「北海道ミライづくりフォーラム2024」が10月1、2日に開催され、その中の目玉コンテンツとて2日に実施されたのが「北海道179自治体向け地域課題解決型ピッチイベント『UPDATE179』」。
独自のデジタル技術を開発しているスタートアップ企業等が道内自治体に自社サービス内容をアピールするというピッチイベントで、地域の課題解決の糸口やヒントを提供したいと企画されました。
道内外から参加した企業24社が順番に登壇して6分間プレゼンテーション。
参加者はサービス内容に「興味あり」「興味なし」と自身のスマートフォンを使ってその場で回答し、「興味あり」の場合はあらためて個別にサービス内容の詳細について確認・相談するという流れです。
いわば、このイベントは課題を抱える自治体と解決策を提案する企業との「お見合い」の場のようなもの。
その後に「お付き合い」することになった場合には、北海道が実装に向けて具体的なアドバイスやコーディネートをしていくそうです。
地方自治体の悩みに本気で応えようとする北海道庁の心意気が頼もしいですね!
未来技術やサービスに次々と「興味あり」!
イベントでプレゼンテーションした24社のうち、筆者が「なるほど、いいかも!」と感じたサービスの一部を紹介します。
IoT機器の企画・製造・販売を手がけている「イーマキーマ」は兵庫県からの参加。
主に害獣・害鳥対策に取り組み、超音波や光を活用してクマやシカ、タヌキなどの人間に危害を加えたり、農作物を荒らしたりする野生動物の駆除・侵入防止策を開発しています。
札幌の中心部でもシカが現れるような北海道では、野生動物への対処はすべての自治体共通の悩み。銃で駆除するだけではなく、効果的な対策が実現すると農家や酪農家をはじめ住民が安心して過ごせるようになるでしょう。
また、東京の企業「BRJ」は、テクノロジーで制御する小型モビリティを活用して安全な新交通を開発しているとのこと。
「未来の公共交通を創る」というビジョンのもと、地方都市のバスの減便、運転手不足、免許返納後の交通手段不足などの課題に向き合っているようです。
現在、電動キックボードなどの小型モビリティは全国的に観光シーンでの利用が広がっていますが、今後は交通が不便な地域のおじいちゃん、おばあちゃんが手軽に、安全に使いこなせる移動手段になっていく可能性はあるのかもしれません。
さらに、ドローンの活用策もいろいろな提案がありました。
空撮はすでに特別なものではなく、個人の新たな趣味・文化としても注目されているとプレゼンしたのは「Flyers」(札幌)。
ドローンで空撮してみると、地元の人でも知らなかった美しい風景が広がっている場合もあり、新たな地域の魅力発掘につながると言います。
そんな風景を撮るためにドローンユーザーが「まち」を訪れて宿泊したり、滞在したりするなど、「まち」のファンづくりのきっかけにもなり得るということです。
同じドローン活用でも、「エアロセンス」(東京)は、小型ドローンより大きいVTOL(ブイトール)と呼ばれる産業用ドローン開発に取り組み、今まではセスナ機やヘリコプターでしか対応できなかった広範囲の計測・撮影を低コスト・高精度に実現。災害地域などで実績を重ねているようです。
広い北海道では、配送なども含めたドローンの活用がますます注目されそうです。
他にも、医療・介護、農業、環境・脱炭素、防災など幅広いジャンルにおいて未来技術・サービスが次々と紹介され、各プレゼンテーションの最後には会場から「興味あり」が多数寄せられていました。
全国各地ですでに実装しているサービスも多く、未来型と呼ばれる技術力や豊かな発想力に筆者も心地よく驚かされました。
北海道で大きなムーブメントを作りたい!
イベント終了後に、主催者である北海道の土田直樹氏(総合政策部 次世代社会戦略局 DX推進課 Society5.0推進係 係長)と、北海道から委託されて同イベントの企画から運営までに携わったNTT-MEの河井潤氏に話を聞きました。
なお、河井氏は「HOP(Hokkaido Open Platform)」という、ビジネス活性化応援プラットフォームを運営する中心メンバーでもあり、同サービスには約800名のメンバーが参加しネットワークを構築しているそうです。
地域の課題解決のためにICTやAI、ロボットなどの未来技術を活用しようと「ほっかいどうDX促進事業」に取り組んでいる北海道では、HOPとも連携し民間事業者との共創を進めていると明かします。
「衛星データを活用して海中プランクトン調査を行ったり、交通手段としての空飛ぶクルマ(eVTOL)の実現性を模索したり、北海道としてすでに多岐にわたる分野での調査・モデル案の検討を進めています。今年度は特に民間の未来技術と道内市町村とのマッチング・実証を目指し、その取り組みの一環として今回のイベントを企画、開催したというわけです」(土田氏)
もちろん、たった1日のイベント開催で完結するのではなく、1年を通して常に各市町村と企業とのマッチングを具体的にサポートしているということです。
また、河井氏は「今までHOPとして積み重ねてきた経験やネットワークを今回のイベントにうまく生かすことができました。HOPを通じてこのイベントを知り、参加した人も多かったです」と、HOPの活動の一環としても手応えを感じているようでした。
土田氏は「HOPの存在・協力があったからこそ、このイベントを開催できました。民と官の区別なくスタッフ同士の横の連携もとても強まったと感じています」と、HOPへの信頼度の高さを明かします。
日頃から全国へ目を向けて、未来技術や注目されるサービスなどの情報収集に努めているという北海道とHOP。
「道内179市町村それぞれの色があるのは北海道の強み。各自治体と企業のメリットを見つけ出して一体化させながら、北海道をより良くしていこうという大きなムーブメントを作っていきたいです!」(河井氏)
「HOPが掲げているビジョンは、『ほっかいどうDX促進事業』の目的と重複しています。これからも連携を深めながら、課題を抱えている市町村が『まずは道庁に相談してみるか』という認識を持ってもらえるように私たち自身もアップデートし続けます!」(土田氏)
「官民一体」という言葉が、どこか形式的な印象を受ける時代もありましたが、北海道ではすでにさまざまな取り組みが進行しているのだとわかりました。
後継者不足や地域交通の維持などの課題が解決していけば、北海道がもっと元気になって大自然や食の宝庫としての魅力がさらに輝いていくでしょう。
そんな未来を思い描き、課題を前向きに解決して頑張っていこうという、道民1人ひとりの意識のアップデートが何よりも求められているかもしれません。
清水奈緒子 札幌市在住、フリーランスのコピーライター。企業や自治体の広告制作、論文、コラム、エッセイなどを手がける。令和元年夏に保護したオス猫「ふぅ」と、まったり生活を満喫中 この著者の記事一覧はこちら(清水奈緒子)