ダイソーの「プチブロック」がすごすぎる 知られざる“熱狂”の世界

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2024年10月26日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ダイソーのプチブロックに熱狂する人が続々

 100円ショップ「ダイソー」のプチブロックをご存じだろうか。小さな小さなブロックを組み立てていく玩具のことで、「海のなかま」「植物」「どうぶつ」などのシリーズがある。


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 対象年齢が「12歳以上」ということもあって、難易度がやや高めのモノが多い。子どものころにブロックをしたことがあっても、「うまくつくれなかったなあ」「完成させるのにものすごく時間がかかった」と苦手意識がある人は、商品を目の前にするとこのように感じるかもしれない。「ちっちゃ! なんだか難しそうだし、むりむり」と。


 このプチブロックを使って、さまざまな“作品”を生み出す――。こうした動きが、ファンの間で広まっているのだ。「ちょっ、『作品』って大げさでしょ! ロボットならロボット、犬なら犬をつくるんでしょ?」などと感じられたかもしれないが、その答えは「このあと」説明する。


 プチブロックをつくったこともなければ、見たこともない人もいると思うので、簡単に紹介しよう。商品が登場したのは、2018年のこと。「大人でも楽しめそうな玩具を販売できないか」ということで、当時のバイヤーがプチブロックに注目した。とはいえ、ダイソーにとって初めての試みだったので、消費者の反応を見るために、少量での販売でスタートした。


 第1弾は10種類を投入。「働くクルマ」(救急車、消防車)や「ケーキ・動物」(フラミンゴ、犬、鳥)などを店頭に並べたところ、結果はどうだったのか。想定以上に、売れに売れたのだ。


 第2弾を3カ月後に販売する予定だったが、第1弾があまりに売れたので、急きょ追加生産することに。「つくっては売れて、つくっては売れて」といったサイクルがしばらく続いたので、第2弾の商品が日の目を見たのは、およそ1年後だった。


 いきなり売れたこともあって、社内外から「こんな商品はどうかな」「これはいいかも」といった声が届き、そのたびに新作を投入。これまで150種以上のアイテムが登場している。ちなみに、人気商品は「幻獣」や「ロボット」シリーズだそうだ。


 このような話をすると「順調、順調。売れてよかったね」と思われたかもしれないが、ダイソーとしては“ある悩み”を抱えていた。それは、ファンが何を考えているかである。


●ファンコミュニティを立ち上げる


 ダイソーの店内に足を踏み入れたことがある人は多いと思うが、とにかく商品が多い。衣料品もあれば、文具もあれば、ギフトもある。このほかにもさまざまな商品が並んでいて、新商品は月に1200アイテムほどになる。


 プチブロックのバイヤーもさまざまなアイテムを担当しているので「ファンはどういったモノを欲しいと思っているのか」「ブランド価値をどのようにして伝えればいいのか」など、もやもやしていた。こうした課題を抱えていた中で、ダイソーはどのような手を打ったのか。ファンコミュニティの活用である。


 ファンコミュニティとは、特定の商品やサービスなどを愛するファン集団のこと。ファン同士またはファンと企業の交流などが行われ、企業が一方的に情報を発信するだけでなく、ファンからも発信できるケースが多い。


 では、プチブロックの場合、ファンはどのような「動き」をしていたのか。SNSを見ると、ファンと思われる人たちがオリジナル作品の画像をたくさんアップしている。担当者としては、熱いファンにコメントを送りたい気持ちがあるものの、社内ルールとしてそれはNG。


 ということで、ネット上にアップされている画像を見たり、ファン同士の会話を読んだりするだけだったが、このままではいけないということで公式の「ファンコミュニティ」サイトを立ち上げたのだ。2023年12月のことである。


●プチブロックを使ってトイレットペーパー


 コミュニティサイトには、さまざまなコンテンツがある中で、筆者が気になったのは「DAISOの輪サークル」である。「時短・便利」「ハンドメイド」など、商品テーマにそってファンが集うトークルームがあるわけだが、ひときわ目立つのがプチブロックのファンである。


 「つくりましたー!」「見てください!」といったコメントを付けて、完成品を公開している。それを見た人たちは「いいね」を押したり、コメントを寄せたりしているのだ。


 「ちょ、ちょっと待って。ロボットや犬などを完成させて、その写真を公開しているだけでしょ。なぜ、それで盛り上がるの?」と思われたかもしれないが、このコミュニティサイトで、決められたモノを決められた通りにつくっている人はほぼいない。つまり、ロボットや犬の中に入っている、さまざまなカタチや色のブロックを使って、オリジナルの作品をつくって、それを公開しているのだ。


 ブロックの形状は基本「四角」なのに、それを組み合わせることによって、なぜか「丸く」なる。ある人は、トイレットペーパーや3色だんごなどをつくっていて、素人の筆者からすれば、それを見て「スゴい」ことはよーく理解できるが、どのくらい「スゴい」のかがよく分からないのである。


 ただ、達人の域に達すると、完成品を見ただけで「あ〜、これをつくるには、親ペンギンを5袋、新幹線ドクターイエローを7袋、ステゴサウルスを10袋、それぞれ必要だよね」といった感じで、どの形状のどの色のブロックをどのくらい使っているのかが分かるというのだ。もちろん、製作にあたってどのくらい大変なのかも、すぐに想像できるとのこと。


●より深い「交流」が生まれる


 それにしても、なぜコミュニティサイトでプチブロックのファンは交流を深めているのか。企業の公式サイトよりも、SNSで作品を投稿したほうが「より多くの人に」見てもらえるはず。活動の場は、そちらに移したほうがいいのではないか。


 コミニティサイトを運営している山田亜梨沙さんに聞いたところ「ほとんどの人は、すでにXなどのSNSで投稿している」という。確認したところ、確かにプチブロックでつくられた作品が次々にヒットする。


 では、なぜわざわざ企業のコミュニティサイトにも「参加」しているのだろうか。「『コミュニティサイトに集まっている人たちにも見てもらいたい』という気持ちがあるのではないでしょうか。ただ、それだけではなく、コミュニティに参加することで、より深い『交流』が生まれることが大きいようですね」(山田さん)という。


 2024年8月、プチブロックのバイヤーとファンが集まって、座談会を開催した。さまざまな意見が出てくる中で、「こんな商品がほしい」「この色のブロックがほしい」といった議論が交わされた。現在、寄せられた声をもとに商品化に向けて、話が進んでいるようだ。


 10月に入って「ビックカメラ新宿東口店」に、ダイソーを出店した。店内にファンの作品を紹介するサイネージを設置したところ、お客はどのような反応をしているのか。ブロックを使ってさまざまな作品が生まれることに興味をもち、じーっと見つめている人も。店内には外国人観光客が多く、サイネージの動画を見て「自分用」や「お土産用」として、購入するケースも目立つという。


●会員が増えている理由


 勘のスルドイ人であれば、もうお気付きだと思うが、コミュニティサイトに参加しているのはプチブロックのファンだけではない。冒頭で紹介したように、ダイソーは毎月1200ほどのアイテムを投入している。ということもあって、さまざまなカテゴリーのファンが参加している。


 コミュニティサイトの会員はじわじわ増えていて、10カ月ほどで1万人を突破。増えている要因として、担当の山田さんは「4つ」のサイクルを挙げている。


(1)コミュニティサイトを見て、ほしくなった商品を購入


(2)その商品を買って、「よかった」と感じる


(3)コミュニティサイトで誰かに広めたくなる


(4)投稿すれば自身のポイントがアップして、さまざまなイベントに参加できる


 こうしたサイクルがうまく回って、コミュニティの規模がどんどん大きくなっているようだ。


 最後に、プチブロックファンの熱量は、一体どこに向かうのか。犬のブロックを使って、戦車やお城などをつくる――。担当者が想像もしていなかったことが、あちこちで起きている。ということは、今後もどういった動きになるのか。予想したところで、それを当てるのは難しいのかもしれない。


 いずれにせよ、ダイソーがファンを“ブロック”しない限り、この熱量はしばらく続きそうである。


(土肥義則)



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