米金利高とドル高、トランプトレード再起動【播摩卓士の経済コラム】

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2024年10月26日 14:07  TBS NEWS DIG

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アメリカ景気が堅調なことに加え、金融市場において、大統領選挙で共和党のトランプ氏が優勢との受け止めが広がり、いわゆるトランプトレードが再起動しています。長期金利が上昇し、円安ドル高が大きく進んでいます。ただ、トランプ氏が前回当選した2016年とは環境は異なり、直ちに「トランプなら株高」と言えるほど単純ではなさそうです。

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米長期金利上昇、7月以来の水準に

アメリカの債券市場で長期金利が急騰しています。10年物国債の利回りは23日、一時4.26%と、今年7月以来3か月ぶりの高い水準に達しました。中央銀行であるFRBは9月に、0.5%もの予防的な利下げに踏み切りました。当時、金融市場では、景気減速懸念から金利の先安観が強まっていましたが、今では利下げペースの減速がコンセンサスになるなど、1か月余りで風景は様変わりしました。

背景には、物価や雇用などアメリカの経済指標が、いずれも景気の底堅さを示している点があげられます。「景気減速の心配なし」との見方が広がっているのです。

IMF=国際通貨基金は、22日発表した世界経済見通しで、24年のアメリカの成長率を2.8%、25年を2.2%と、3か月前の予測から、いずれも上方修正しました。いわゆる経済のソフトランディング(軟着陸)シナリオにお墨付きを与えた形です。

1ドル=153円台まで円安ドル高に

外国為替市場ではアメリカの長期金利の高騰を受けて、ドル買いが強まっています。円は、23日、一時1ドル=153円台まで売られ、こちらも3か月ぶりの円安ドル高水準です。

円相場は、自民党総裁選挙の前の9月中旬には、1ドル=140円突破目前まで到達していましたので、この1か月間の円安巻き戻しは、かなり急速です。これで、円相場は7月の日銀による追加利上げ前の水準にまで、戻ってしまったことになります。

一体、何のための追加利上げだったのか、と嘆きたくなりますが、不思議なことに、日本の通貨当局からは、これをけん制する動きは、鈍いように思えます。

市場では米大統領選でトランプ優勢の見方

根本にあるアメリカの長期金利上昇には、アメリカ大統領選挙も大きく影響しています。トランプ対ハリスの戦いは、歴史的な接戦で最終盤にもつれ込んではいるものの、ハリス氏に一時の勢いがなく、金融市場ではトランプ氏優勢との見方が広がってきているのです。

ウオール・ストリート・ジャーナル紙が23日に発表した最新の世論調査では、全米での支持率がトランプ49%、ハリス46%と、再びトランプ氏が逆転しました。リアル・クリア・ポリティクスによる世論調査の平均を見ても、23日時点で全米ではハリス氏が僅かにリードしていますが、勝敗を決する激戦州の7州では、すべてトランプ氏が優勢に転じました。どの州を見てもハリス支持が落ち、トランプ支持が盛り返す傾向は一緒です。

そもそもトランプ氏が出馬した過去2回を見ると、事前の世論調査は、実際の投票結果より、トランプ支持が低めに出る傾向がはっきり出ています。16年のクリントン氏は、事前の世論調査で5%程度リードしながら負けてしまいましたし、20年のバイデン氏も8%ほど差をつけながら僅差の勝利でした。こうしたことから金融市場では、「トランプ勝利」を見越した、いわば先取りの動きが出てきているのです。

再びトランプ大統領ならインフレ的

「再びトランプ大統領」なら、ハリス政権誕生よりも、インフレが加速するだろうというのが、市場のコンセンサスです。大型減税に加え、歳出圧力が強く、財政赤字の拡大が見込まれます。中国など各国からの輸入品への関税引き上げは、間違いなく物価上昇を後押ししますし、移民の制限も労働需給のタイト化を通じ、賃金上昇圧力につながると市場は見ています。同時に行われる議会選挙の結果によって程度は変わるでしょうが、トランプ勝利なら長期金利上昇というのが、今のトランプトレードです。

もっともトランプ氏自身は、自分が当選したら国内での石油、天然ガスの掘削を飛躍的に増加させるので、インフレは抑制されると主張しています。

前回のトランプラリーと異なる環境

ただ、仮に「再びトランプ大統領」になったとしても、2016年のような、株高トランプラリーがそのまま再現するわけではなさそうです。

8年前のトランプラリーは、コロナ禍の遥か前であり、「ディスインフレ(低インフレ)の世界」が、現にありました。しかし、グローバル化時代が終わった現在は、インフレへの懸念、控えめに言っても、インフレへの目配りが必要な時代です。インフレ加速や金利の上昇は、景気失速に直結する可能性さえあります。

また、2016年は6月にイギリスでブレグジット(EU離脱)が決まり、金融市場でリスクオフが進む中で、トランプリスクが強く意識されていました。発射台が低いところでトランプラリーが始まったので、劇的な株高、リスクオン相場が実現した面もありました。

さらにトランプ氏自身は、景気刺激から常に「低金利」が大好きで、国内産業保護に向け「ドル安」を志向する傾向があり、現実の動きとベクトルがどう整合するのかは、よく見えないところです

株式市場でエネルギーや防衛、金融など一部の業種には、好影響が出るかもしれませんが、前回のように全般的な株高につながるかどうかは不透明です。

本当に「再びトランプ大統領」となるのか。そして、今回のトランプトレードは、前回のトランプラリーとどう様変わりするのか。市場関係者らは早くも身構えています。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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