限定公開( 11 )
『ポツンと一軒家』(朝日放送)というテレビ番組がある。衛星写真を手がかりに地方の一軒家を探すというバラエティ番組だが、飲食チェーンでも「なぜここにしかないの?」といった店がある。イオンモール広島府中店(広島県府中町)の1階にある「MOSDO!」(モスド)だ。
モスドとは、モスバーガーとミスタードーナツのコラボ店のこと。モスフードサービスとダスキンが業務提携を結び、2010年に誕生したのが広島の店舗である。メニューはモスのハンバーガーやサイドメニュー、ミスドのドーナツなどを提供。大手外食チェーンがタッグを組んだので、周囲が期待したのは「今後のこと」である。
「モスド」という新業態の店をどんどん増やしていくために、1号店は「実験店」という位置付けだったわけだが、その後はどうなったのか。「ポツンと1店舗なんでしょ。そもそも『モスド』なんて行ったこともなければ、聞いたこともないし」などと感じられたかもしれないが、そう思われても仕方がない“過去”があったのだ。
モスとミスドが一緒になり、担当者たちがあることを決めた。「モスのハンバーガーを販売しない。ミスドのドーナツも販売しない」である。
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この決定を受けて、1号店とは全く違った店をオープンする。2011年には京都市に、翌2012年には東京の恵比寿に、それぞれ「ハンバーガーとドーナツ」を扱わない店をオープンした。当時のメニュー表を見ると、サンドイッチやホットケーキなどが並んでいる。
しかし、店名は「モスド」である。同じ看板を掲げているのにメニューが全く違うとなれば、お客は混乱するのではないか。いや、それでも売り上げがよければ歴史は変わっていたかもしれないが、結果は「撤退」である。
やはり、お客はモスのハンバーガー、ミスドのドーナツを求めているのではないか。そのように考えて、再び原点に戻る。2015年、関西国際空港に出店。モスとミスドの主力商品を販売したところ、「売り上げはまずまずだった」(関係者)とのこと。ただ、想定外のことが起きてしまう。
コロナの感染拡大である。関空店は国際線ターミナルに構えていたので、売り上げは激減。その後、施設のリニューアルも重なって、こちらも「撤退」することになったのだ。
●「2つ」の疑問
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関空店が閉店したのは、2020年9月のこと。その後、広島店のみで運営を続けてきたわけだが、9年ぶりに「モスド」の店が誕生したのだ。
店名は「ららぽーと新三郷店」(10月25日オープン、埼玉県三郷市)。JR新三郷駅から徒歩2〜3分のところに商業施設「ららぽーと」があって、その中に店を構えたのだ。
店の特徴は、モスとミスドの商品を提供しているので、原点タイプである。ハンバーガーの価格に386円(イートインの場合)の追加で、好きなドーナツとドリンクが付くセットも販売する。
また、同店限定のハンバーガーとして「海鮮明太もんじゃ焼き風バーガー」(440円)を新たに開発した。特徴は、海鮮かきあげに、もんじゃ焼き風の明太もんじゃソースをかけていること。東京の下町で生まれた「もんじゃ焼き」をモス風にアレンジした商品になる。
さて、ここで「2つの疑問」を感じた読者もいるかもしれない。1つは、なぜ9年ぶりに新店舗を出したのか。もう1つは、なぜ店をどんどん増やさなかったのか、である。
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仮説としては「うまくいっていない」ことが挙げられる。京都も恵比寿も関空の店も、閉店に追い込まれた。「ポツンと広島の店だけはあるけれど、細々と営業を続けているんでしょ」などと思われたかもしれないが、実はそうでもないようだ。
コロナが広がった2020年は、さすがに売り上げが落ち込んだものの、その後は回復している。直近の売り上げをみると、対前年比で114%である。好調の理由について、モスフードサービスの川口直哉さんに聞いたところ「次々にキャンペーンを展開できることが大きい」という。どういうことか。
●増やしたいのに増やせなかった事情
モスの場合、新商品を販売するタイミングでキャンペーンを展開する。すると、売り上げは伸びるものの、キャンペーンはやがて終了する。と同時に、客足も遠のいてしまう。売り上げを伸ばすためには、次の企画を待たなければいけないというわけだ。
もちろん、細かな話をすれば、もっと複雑な事情がからんでくるわけだが、話を単純化すると概ねこういった傾向がある。ただ、モスドの場合は違う。モスのキャンペーンが終わっても、ミスドのキャンペーンが始まればどうなるか。通常のモスの店舗であれば売り上げが落ち着くタイミングでも、そのまま高止まりの傾向があるそうだ。
いわゆる“相乗効果”によって、モスドの業績は好調を維持しているようだ。広島に店を構えたとき「売り上げは月1300万円を目指す」という話が出ていたが、現在はその数字を大幅に上回っているようだ。
といった話を聞くと、ますます先ほどの疑問が気になってくる。なぜ9年ぶりなのか、なぜ店を増やさなかったのかである。取材を進めていくと、背景に「2つ」の理由があることが分かってきた。
1つは、厨房設備である。モスとミスドのコラボ店となれば、通常店と比べて、電気もたくさん使うし、ガスもたくさん使う。このほかにも、いろいろなものをたくさん使うわけだが、その設備容量に耐えられる物件をなかなか見つけられなかったのだ。もちろん、中には「これだ!」といった物件もあったそうだが、他社との競争によって手にできなかった事情もある。
もう1つは、カニバリである。モスの店舗は1312店(9月末時点)、ミスドの店舗は1017店(3月末時点)。合わせて2000店を超えると、物件探しに苦労するようだ。「この商業施設はいいかも」と思っても、どちらかの店舗がある。「この施設にはどちらの店もないので、大丈夫だ」となっても、近隣店舗(モスまたはミスド)のことを考えなければいけない。
市場調査をして「近くの店に影響がでる」というデータがでれば、やはりそれを無視できない。「モスとミスドのコラボ店は業績がいい」という結果がでているものの、条件をクリアーする物件になかなか出会えなかった。つまり、これまで店を増やしたいのに増やせなかった事情があったようだ。
●「次」を見据えて、新三郷に出店
さて、これからの話である。今回、首都圏に店を構えたのには理由がある。これまで「広島のモスドは好調ですよー」と訴えても、ディベロッパーがなかなか興味を示してくれない傾向があった。「視察に行ってみたいけれど、ちょっと遠いからね」といった返事が多いそうだ。
ただ、新三郷に店がオープンすれば、話が違ってくる。「ちょっと見てみようかな。伸びそうな店であれば、ウチの商業施設に誘致してもいいかも」といった具合に、話がまとまるかもしれない。というわけで、モスドの担当者は「次」を見据えて、今回の立地を選んだようだ。
これまでの歴史を振り返ると、次の店は「5年後? 10年後?」といった数字が浮かんでくるかもしれないが、担当者としては「2〜3年以内に誕生させたい」ようである。
(土肥義則)
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