日産を襲う「ゴーン経営の副作用」 利益99.2%減、PBRは0.24倍──“異常値”の背景は

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2024年10月27日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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(提供:ゲッティイメージズ)

 日産自動車の業績が急激に悪化している。


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 2025年3月期第1四半期における日産自動車の連結売上高は前年同期比で2.8%増加し、2兆9984億円で着地した。その一方で、営業利益は9億9500万円と同99.2%減となった。


 この減益は、主に北米と中国市場におけるシェア争いの激化や販売費用の増加が原因となっている。営業利益が約10億円とわずかなプラスに着地できた背景には、円安効果による237億円のプラスが貢献しており、実質的には赤字決算とみて差し支えないだろう。日産が収益性に大きな課題を抱えている様子がうかがえる。


 事業分野別にもう少し深掘りしてみよう。地域別でみると、北米市場では売り上げが増加している一方で、他の地域では伸び悩みが見られる。特に、日本国内市場では依然として厳しい状況が続いている。


 2024年に入り、同社は販売不振と在庫過剰に悩まされている。日産は2024年の販売目標として365万台を掲げていたが、実際の第1四半期の販売台数は前年同期比で0.2%減少しており、目標達成が危ぶまれている。さらに、販売台数が低迷する一方で、生産台数がそれを上回ったことで、在庫が過剰になっている。このため、ディーラーへの奨励金支出が増加し、利益率が圧迫されている。


 なぜこのような事態を招いたのか。そこにはカルロス・ゴーン氏の改革の“副作用”が関係していると考えられる。


●改革の“副作用”? PBRは0.24倍という“異常値”に


 日産自動車のPBR(株価純資産倍率)0.24倍という数字は異常な値だ。一般的に、PBRは1倍を基準に考えられている。一般にPBR1倍とは、「直ちに会社を解散して残余財産を分配すれば、出資額と同じ財産を株主に返せる」ことを意味するからだ。


 従って、PBRが1倍を下回るということは珍しい。そして、PBRが0.24倍と純資産の4分の1以下で評価されているのははっきり言って異常な水準である。今すぐに日産を解体すれば、単純計算で今の株価400円に対して1600円の残余財産を受け取ることができるということになる。


 しかし、実際のところ日産が直ちに会社を解散することはないだろうし、出資額の4倍の残余財産を受け取ることは現実的ではない。なぜなら、同社の保有する資産の多くが在庫や土地・工場などの設備に充てられている。また従業員の解雇に伴う関連費用が増大する結果、会社を清算しても今の純資産の額面がキッチリ手元に残るわけではないからだ。


 そのようなリスクもあり、「日産がこのまま業績を悪化させ、経営を続けていけば純資産が削られていくのではないか」との見方が市場にはあるのだろう。企業の成長力や収益性に対して悲観的な見通しが先行した結果、株価が大きく下落していると考えられる。


●日産とゼネラル・エレクトリックの共通点


 カルロス・ゴーン氏が日産自動車を去ってなお、同社は引き続き多くの困難に直面している。ゴーン氏が在任中に実行した改革は、当時の日産を短期間で劇的に立て直すことに成功した一方で、彼の強権的なリーダーシップが引き起こした問題も少なくない。彼は日産にとって「必要悪」だったのかという問いに対して、彼の退任後に露呈した問題も確認しながら考えていきたい。


 ゴーン氏は、1999年に破綻寸前だった日産を立て直すため、ルノーとの提携を推進し、短期間で劇的な業績改善を成し遂げた。その過程で、工場閉鎖や人員削減、大規模なコスト削減など、非常に強力な改革を行い、日産の経営を黒字化に導いた。これにより、ゴーン氏は自動車業界において「コストカッター」として高い評価を得ることとなった。


 しかしこの手法には、短期的な成果に焦点を当てた過剰なコスト削減や、長期的な成長機会を奪うデメリットが指摘されていた。


 ゴーン氏の経営手法は、かつて「ニュートロン(中性子)・ジャック」と呼ばれたジャック・ウェルチ氏が米ゼネラル・エレクトリック(以下、GE)で行った手法と多くの共通点がある。ウェルチ氏もまた、GEを短期間で再建し、大規模なリストラや資産・事業の売却を通じて、効率的な組織作りを行った。彼の在任中、GEの市場価値は大幅に上昇し、会社は存続したものの、これまでの会社を支えた多くの人材はクビになっていた。これが、ニュートロン・ジャックという異名の由来である。


 中性子爆弾は、建物へのダメージを最小限に抑える代わりに、その中にいる人間の命を奪う核兵器の一種だ。ウェルチ氏は、従業員を犠牲にして建物(会社)を守ったと皮肉を込めてニュートロンの異名を授かった。


 しかし、ウェルチ氏が築いた経営モデルは、彼の退任後に脆弱性が露呈した。2008年のリーマンショック以降、同社は急激に業績が悪化し、最終的にはかつての成長を維持できなかった。ゴーン氏の日産におけるケースと同様、規模なリストラを行う経営は短期的な成功を見せる一方で、年数が経過して大きなリスクとして現れた。


 しかし、GEはこの5年間で急激に業績を回復させ、リーマンショック前の高値200ドルに対し、足元では190ドルとわずか10ドルまで迫る勢いを取り戻している。日産とGEの間に共通点があるとすれば、そこからの回復についても共通点を見いだせるかもしれない。


●米ゼネラル・エレクトリックが復活した理由


 GEは、かつての多角化戦略により、エネルギー、ヘルスケア、金融など幅広い分野に進出していたが、これがリーマンショック後の低迷の一因になった。カルプCEOは、この多様化戦略を見直し、収益性の低い部門や負債の多い事業からの撤退を進めた。特に、GEキャピタル(金融部門)の縮小や、発電部門の整理が重要な施策となり、事業をシンプルかつ収益性の高い分野に集中させることに成功した。


 さらに、GEはコスト削減や資産売却を通じて債務削減を進め、特に負債比率の低減に成功した。これはかつてのように大規模な従業員のリストラというよりも、むしろ株主への配当金の減額や、資産の売却による現金確保というアプローチによって、財務基盤の強化を行った。これにより、会社が骨抜きにならず、各従業員の有する経験やノウハウが生かされることとなった。


 最後に、デジタル技術と再生可能エネルギーへの投資がGEの未来を切りひらいた。GEは、発電機器の製造や航空エンジンといったコア事業を強化しつつ、デジタル技術や再生可能エネルギー分野への積極的な投資を行った。特に、航空エンジン部門はパンデミックからの回復が進み、利益を牽(けん)引する存在となっている。


 カルロス・ゴーン氏は、日産自動車にとって短期間で劇的な改革をもたらしたが、その反動として、長期的な視点を欠いた経営手法が業績悪化の一因となったといえる。GEの事例と同様、強権的なリーダーシップが短期的な成功をもたらす一方で、その後の組織の脆弱性を露呈させた。今後の日産が持続的に成長するためには、GEの先行事例などを踏まえ、競争力を回復させていく必要があるだろう。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら



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