楽天、PayPay、Vポイント 国内2.5兆円市場を制するのはどこか

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2024年10月27日 09:01  ITmedia ビジネスオンライン

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ポイント経済圏を制するのはどこ?

 ポイント経済圏が日本の消費行動を大きく左右する時代となった。矢野経済研究所の調査によると、2022年度の国内ポイントサービス市場規模は約2.5兆円に達し、2025年度には2.9兆円まで拡大すると予測されている。もはやポイントは単なる特典ではなく、企業の顧客囲い込み戦略の要となっている。


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 この巨大市場で覇権を争う各社にとって、自社ポイントをメインで利用するユーザーの満足度は、将来の成長を占う重要な指標だ。J.D.パワー ジャパンが実施した「2024年共通ポイントサービス満足度調査」は、各社の現状と課題を浮き彫りにしている。


 同調査は、月に1回以上共通ポイントサービスを利用する18〜74歳のスマートフォン所有者1万8036人を対象に、2024年7月下旬から8月上旬にかけて実施された。「ポイントのためやすさ」「ポイントの使いやすさ」「ポイント確認のしやすさ」「ホームページ/カスタマーサポート」の4項目で評価し、1000点満点で各サービスの満足度を算出している。


 今年から新たに金融系の「Vポイント」と交通系の「JRE POINT」が調査対象に加わった。これにより、通信系、流通系を含む計8ブランドの比較が可能となり、業界の勢力図がより鮮明に浮かび上がってきた。


 今回の調査を担当したJ.D.パワー ジャパンの奥和樹シニアマネージャーは「金融サービスとの連携がもたらすユーザー満足度への影響が、今後の各社の戦略を大きく左右する可能性がある」と指摘する。


 では、最新の調査結果は各社の現状をどのように映し出しているのか。そして、ポイント経済圏の次なる主戦場はどこになるのか。調査結果を詳しく見ていこう。


●ポイントの満足度を左右する要素


 共通ポイントの満足度ナンバーワンは、いわずとしれた楽天ポイントだ。この調査は、どのポイントが一番人気かとかどのポイントが一番使われているかとかではなく、「そのポイントのメインユーザーが、どのくらい満足しているか」を調べていることに注目してほしい。楽天ポイントは、最大勢力の共通ポイントだが、利用している人の満足度でもトップになっているのだ。


 では、どんな点が満足度につながっているのだろうか。奥氏は「ためやすさ、使いやすさ、確認しやすさのすべてが4年間ずっとトップ。特に、最も満足度に影響する『ためやすさ』のポイントが、楽天ポイントは高い」と話す。


 全般に高い評価を受ける楽天ポイントだが、特にためやすさにおいて他をしのぐ。例えばオンラインでのためやすさでは、楽天市場を有する楽天ポイントがダントツで満足度が高い。一方、ヤフーショッピングを持つPayPayポイントやau PAYマーケットのPontaポイントの満足度は平均に満たない。またAmazonと連携を始めたdポイントも、満足度として効果が出てくるのは次回調査あたりからだろう。


 リアル店舗でのたまりやすさはどうか。実はここでも楽天ポイントの強さが光る。旅行や宿泊、ガソリンスタンドなど比較的高額なサービスでの利用においてユーザーの満足度が高い。


 少し面白かったのが、今回から調査に加わったJREポイントだ。JR東日本が運営するポイントサービスで、鉄道利用やSuica決済、駅ビルでの買い物でたまる。今回リアル店舗でのたまりやすさについて、JREポイントが非常に高い満足度を示した。


 特に駅ビル、百貨店、書店、カフェでの利用で高評価を得ている。これは、駅を中心とした「街」の概念を軸にしたポイント戦略が功を奏した結果だといえるだろう。このことが、ポイント総合満足度で3位につけたことにつながっている。


●Vポイントの課題


 一方、ためやすさで評価が伸びなかったのがVポイントだ。dポイントならファストフード、Pontaポイントならコンビニ、WAON POINTならスーパー、nanacoポイントならコンビニと、他に比べて優位な店舗があるものだが、Vポイントには強い場所がない。


 次に、使いやすさについてはどうか。ここで高い評価を得ているのがPayPayだ。これはPayPayポイントの発祥が、決済アプリであるPayPayであることを思い出せば納得できる。逆にいえば、PayPayポイントをメインで使っているユーザーは間違いなくPayPayユーザーであり、たまったポイントの利用に悩むことはない。


 同じように決済サービスを提供する三井住友カードのVポイントはどうだろうか。こちらは意外なことに使いやすさの評価は高くない。三井住友カードはVポイントの紹介のたびに「世界各国どこでも使える」ことをウリにしているが、それはVポイントメインユーザーにも響いていないようだ。ポイントを三井住友カードで直接利用できないという点が大きく影響している。


 リアル店舗でVポイントを使うには、VポイントをVポイントPayにチャージした上で、スマホのタッチ決済をする必要がある。正直かなり面倒だ。さらにクレジットカードとも競合してしまう。せっかくサービスを提供しているのが三井住友カードなのに、その強みを生かせていないように見える。


●金融が満足度を左右するドライバーに


 JDパワー調査の興味深いところは、どんな要素が総合満足度に最も影響したかも分析していることだ。ポイントのためやすさの満足度について最も影響が大きかったのは、実は「ポイント運用サービスの利用」や「投信の保有残高に応じてポイント付与」といった金融サービスの利用だった。


 実は携帯電話会社の通信サービスなど毎月の利用料金に応じてポイントが付与されるサービスの利用より、金融サービスと密接に連携しているほうがユーザーの満足度は高い。


 「銀行などの個人向け金融サービスは長期利用を前提としている。特定の経済圏のサービスにまとめるハードルは高いが、離脱も少ない」と奥氏は分析する。つまり、携帯キャリアを変えることにこだわりがない人でも、ポイントと組み合わせて決めた投信積立などのサービスへの忠誠度は高くなるわけだ。


 金融サービスの利用は全体の1割程度にとどまるが、ここを制したポイントがユーザーの支持を集めることにつながりそうだ――。と思いきや、実はここで強いのも楽天ポイントだ。金融サービスもまとめて利用しているユーザーが突出して多いのが楽天ポイントのユーザー。ここでも楽天ポイントの盤石性が見える。


 とはいえ金融連携で伸びしろがあるのは、今回満足度調査で最下位(前回も最下位)だったVポイントだろう。共通ポイント各社の中で、唯一金融を母体とする三井住友カードが運営しているわけで、そのシナジーをつくれればとても粘着性のある経済圏になるはず。


 SBI証券とのクレカ積立は成功例だったはずだが、プラチナプリファードのポイント還元率変更はユーザーには改悪と見られている。このあたりの取り組みは、もう一歩の改善が必要だろう。


●これからどのポイント経済圏が伸びるのか


 最後に、ポイントの確認のしやすさというのが、意外と満足度に影響している。ここでもPayPayがトップなのだが、この評価を左右するのが「スマホアプリがあるかどうか」のようだ。さらに言うなら、ポイントに関係したアプリがたくさんあるよりも、1つのアプリに集約されているほうがユーザーは安心して利用できる。


 つまり当初からスーパーアプリを目指し、PayPayアプリ一本ですべてを完結させようとしてきたPayPayは満足度も高い。これに気付いた楽天は、複数のアプリを1本化してスーパーアプリ化する方向に転換を始めている。


 一方、ここに大きな課題があるのがVポイントだ。旧Tポイントアプリは「Vポイントアプリ」に名前を変え、決済機能を持つ「VポイントPay」アプリもあり、三井住友カードのアプリは「Vpass」で、三井住友銀行アプリは「三井住友銀行アプリ」。企業ごとに別々のアプリを用意して、ユーザーに使い分けを強いているわけで、これはユーザーの利便性というよりも提供側の都合だ。


 単なる利用者数やアプリDL数ではなく、満足度をチェックしていくと、これからどのポイント経済圏が伸びるのか、または課題があるのかが明確に見えてくる。JDパワーの調査は毎年行われている。来年までにどこまで各社が満足度アップに取り組むかが楽しみだ


(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)



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