聴覚障がいを抱えながら1人で“世界80か国以上”旅する女性。旅先で感じた「聞こえないメリット」とは

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2024年10月28日 16:11  日刊SPA!

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ぴょん氏
先天性の高度聴覚障がい2級を持ちながら1人で世界80か国以上を旅する女性、ぴょん氏(年齢非公開)。
「補聴器を使用しても言葉を理解するのが非常に困難な状況」と認定されている彼女だが、Instagramでは「世界最恐スラムを走ってみた結果」や「避難警告レベル3!?やばい国境越え」、「不法入国してしまった…」など、見てる側がハラハラさせられるような投稿を発信している。

健常者でも足を踏み入れることを躊躇する場所に、聴覚障がいというハンデを抱えながらも果敢に挑む彼女の原動力とは――。冒険心溢れるぴょん氏の生きざまに迫った。

◆彼氏に背中を押され、気づけば80か国以上旅をしていた

先天性高度聴覚障がい2級とは、聴力の障がいが比較的重度で日常生活やコミュニケーションに大きな支障をきたすレベルの障がいを指す。日本では「身体障害者福祉法」に基づいて1級から6級までの等級に分かれており、その数字が小さいほど重度の障害を意味する。

「2級の聴覚障がいを持つ人は、通常の会話はもちろん、生活音を聞き取ることも難しく、多くの場合、手話や筆談などの代替手段を必要とします。また、特別な支援が必要な場合が多いです」

「普段は読唇術で会話をする」というぴょん氏が旅を始めたきっかけは、マッチングアプリで出会った韓国人の彼氏だったという。

「当時韓国に彼氏がいて、会いに行くために韓国へ。それが初海外でした。彼に『世界一周したい』と伝えた時に、反対されることなく送り出されたことが大きな一歩になりました。

日本にいた時は人に優しくされたことがあまりなかったのですが、世界に出たら優しい人にたくさん出会って『井の中の蛙』だったと思い知らされましたね。もっとたくさんの人や文化に触れたいと思うようになり、気づけば77か国を旅していました」

◆銃声が聞こえず…「聴覚障がい者の特権だなと」

「世界77か国を旅した」と聞くと、キラキラとした華やかなイメージを抱くかもしれないが、彼女の旅が常に危険と隣り合わせであることは想像に難くない。

「必需品は補聴器と補聴器の電池、バイブ付きのスマートウォッチ」だと語る彼女だが、マストアイテムを携えても尚、日常的な音が聞こえないことで危険に気づけないことや思わぬトラブルに巻き込まれることもしばしばだ。

「メキシコに行った時に、メキシコシティのホテルに宿泊してたら夜中に銃声が聞こえたようなんです。私以外の宿泊客はその音が怖くて寝れなかったと言ってましたが、私は夜寝る時は補聴器を外して寝るので銃声が聞こえなくて。

結果的に何事もなくぐっすり眠ることが出来たので、その時はある意味聴覚障がい者の特権だなと思いましたけどね(笑)」

◆夜中のザンビアで警察官に連行されたことも

けれどそんな困難はまだ序の口。アフリカ南部に位置するザンビアを訪れた際には刑務所に連れて行かれたこともあったそうだ。

「ザンビアはビザなしで最長3ヶ月までとネットで書かれてたので、それを鵜呑みにパスポートの滞在日数を見ずに滞在したんです。

そしてボツワナの国境に近いkazungulaのホテルに滞在してた際の真夜中に、見回りに来ていた警察に突然起こされて。私のパスポート内容を見た警察がオーバーステイだと言い、近くの警察署に連れて行かれました」

改めてパスポート内容を確認すると、許可されていた5日間の滞在を超えていたという。

「夜中の2時から警察署にいて、朝に国境関係の職員が迎えに来て昼までボツワナとザンビアの国境にいました。

15時に移動と言われて、やっとボツワナに入国出来るかと思ったら、ボツワナとは逆方向であるリビングストーンの警察事務所へ。そして『13万円の罰金をいますぐ払え!』と署長に脅されました」

◆難聴者ゆえに電話ができずテキストでSOS

当事者が誰であろうと過酷な状況であるはずだが、「英語の読唇術がまだ不慣れ」だというぴょん氏にとって、その厳しさは想像を超えるものだったに違いない。

「その時私はカードキャッシングも出来なくて、現金も持ってなかった。そしたら署長が力づくで『お前を刑務所に入れるぞ!』と私を引っ張ってどこかに連れて行こうとして。難聴者であることで本当に困った時に大使館に電話できないのは非常に不便ですね。

『これは本当にやばい!』と思って、必死に知り合いの日本人に携帯のテキストで懇願。結局その人が刑務所に来てくれて大使館に電話してくれたり、保釈金の13万円分を引き下ろすために何軒も銀行を回ってくれて…。

結果的に、保釈金を払わずに出られた上に延長のスタンプももらうことができました」

◆日本で毎日18時間働いてお金を貯めた

度々困難な目に直面しながらも2017年から現在まで旅を続けている彼女。一体どこからその資金を調達しているのか。

「いまは旅に集中しているため仕事はしてませんが、日本では海外に行くために朝から昼までお弁当屋で働いてから夜から明朝までダイニングバーで働いていたことも。毎日18時間コツコツ働いた貯金で旅を続けています」

そんな彼女の1か月の生活費は10万円以下だというから驚きだ。

「私はかなり節約してるので、ヨーロッパを周遊した時でも宿泊費、交通費、観光費、食費など全部込みで一ヶ月に10万円以下に抑えていました。

時にはその場で出会った現地人に無料で泊めてくれとお願いすることもありますね。もちろん泊めてくれたお礼にご飯を作ってあげたり、プレゼントをあげたりします」

◆困難を抱える人を元気づける存在になりたい

日本で働いた貯金を切り崩しながら、危険なエリアにも物怖じすることなく果敢に挑み続けるぴょん氏。彼女の価値観は世界を旅することによって大きく変わったそうだ。

「日本では障がい者というと、働けないところがすごく多くてまだまだ偏見もあるように感じます。ですがどこの国も日本と比べると、障がいに対する偏見が少ない。

特にカナダへワーキングホリデーに行った際、直属のカナディアンの上司に『俺も目が悪いから同じ仲間だよ〜』って言われた時は驚きましたね。

障がいをポジティブな視点で見てくれたことがすごくありがたかったです。旅の中で日本では出会えなかった価値観を持った人々に出会うことによって、障がいに対する私の価値観も徐々に変わっていき、その変化が私の旅の原動力に繋がっています」

「これからは、Instagramの投稿を通じてさまざまな困難を抱える人を元気づける存在になりたい」と語るぴょん氏。彼女の勇気をもたらす冒険に今後も期待したい。

取材・文/時弘好香 写真提供/ぴょん

【時弘好香】
元『週刊SPA!』編集者。ビジネス書『海外ノマド入門』(ルイス前田著)の編集を担当後、自身もノマドワーカーの道を志し、5年勤めた出版社を退社。現在はカナダでワーホリ中。将来的には旅先で出会った人々を取材しながら世界一周することを視野に入れている。無類の酒好きで特に赤ワインには目がない。

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