今季のJ1の優勝争いは広島、神戸、町田の3チームにほぼ絞られた。
残り4節で首位の広島(勝ち点65)は2位神戸(同64)と勝ち点差1しかないが、得失点差では10以上の差をつけて頭ひとつリード。
一方で苦しくなったのは、J1初挑戦ながら5月以降は約3ヵ月間首位をキープしてきた3位町田(同60)だ。一時は2位以下に最大勝ち点差5をつけるなど首位を快走していたものの、夏以降に急失速している。
町田の指揮官はかつて青森山田高校を3度の全国高校サッカー選手権制覇に導いた名将、黒田 剛監督。昨季、町田の監督に就任すると、いきなりクラブ史上初のJ2優勝に導くなど、プロ転身後も徹底して勝負にこだわるサッカーで結果を出してきた。
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だが、ここへ来てそんな黒田監督の勝負強さに陰りが見え始めている。何より負けを嫌う黒田監督は、これまで同一シーズンに同じ相手に2度負けることがなかったが、6節に続き32節で広島に敗戦。また、黒田体制になって以降のリーグ戦74試合で一度も連敗がなかったものの、75戦目の川崎戦でついに初の連敗を喫してしまった。
「(記録は)いつかは途絶える。(連敗を)引きずっても仕方がない」
黒田監督はそう言って平静を装うが、堅守を売りにするチームなのに、その川崎戦では先制点を奪いながらそこから逆に4点を奪われ、今季初の逆転負け。これまでになかったほころびを露呈している。
J2を独走優勝した昨季、町田が攻撃に用いるロングスローや、強度の高く激しいプレー、ロングボールも厭わないダイレクトなサッカーは何かと批判の対象となった。
J1に昇格した今季も同様に騒がしい。天皇杯2回戦で筑波大学にPK戦で敗れた際の黒田監督による学生のマナーやラフプレーに言及したコメントや、FW藤尾翔太によるPK時のボールへの水かけ行為などが物議を呼んだ。
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さらに、ロングスローの前にボールを拭くために設置したタオルを相手チームのスタッフに勝手に撤去されたり、濡らされたりしたことで、町田がJリーグに要望書を提出する事態も起きた。町田からすれば、ルール上何か問題のある行為をしたわけではないので、そうした動きをするのは当然かもしれない。
しかし、黒田監督や選手への批判や誹謗中傷はエスカレート。町田は悪質なSNSの書き込みに対しては刑事告訴に踏み切るなど、事態は異例の様相を見せている。
そうしたサッカーの本質とはズレた問題が、町田の戦いにどれほど影響したかはわからない。だが今季、鹿島から加入した元日本代表DF昌子 源は、批判はむしろ糧になったという。
「シーズン当初から風当たりは強かったですから。もちろん、選手が叩かれることもあるし、それで落ちようと思ったら簡単。でも、そういう声に負けず、何か言ってくる人が応援しているチームよりも上位に行くという思いに変えてやってきました」
青森山田出身で、高校時代から黒田監督を知るMFバスケス バイロンは、現在のチーム状況についてこう話す。
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「経験ある選手もいますが、町田の大半の選手はJ1の優勝経験がない。約3ヵ月間、首位にいましたけど、(夏以降の失速は)もしかしたらそういう経験不足が出たのかもしれない。
首位に立っても浮かれることはなかったし、むしろ他チームのやる気に火をつけてしまったのかも。どこもJ1初昇格のチームに優勝させたくはないでしょうから」
黒田監督の様子も気になるが、バイロンの目にはどう映っているのか。
「ずっと一緒で変わらない。ちょいちょいネットで炎上しているのは見ますけど(苦笑)。サッカーはいくら一生懸命やっても必ず勝てるとは限らない。それでも、勝っても負けてもブレない監督の姿勢はスゴいと思います」
シーズン前半を首位で折り返し、夏にはパリ五輪代表のFW平河 悠が海外移籍したものの、DF杉岡大暉、FW相馬勇紀、MF白崎凌兵、DF中山雄太ら経験ある選手を加え、チームを強化。だが、攻撃面で平河の抜けた穴は想像以上に大きく、新加入選手が思いどおりにフィットできていないことは誤算だったかもしれない。
そして、町田の強みだった守備コンセプトの不徹底が顕著に見えたのが、首位を明け渡した29節の浦和戦(△2−2)だった。
それまで町田はシーズンを通し、サイドからのクロスで直接失点したことがなかったが、87分、左サイドからのシンプルなクロスをチアゴ・サンタナに頭で決められた。チアゴ・サンタナはいずれも夏に加入した杉岡と中山の間を割ってゴール前に侵入していた。
黒田監督も、この浦和戦は夏以降うまく噛み合っていない町田の戦いぶりを象徴する試合のひとつに挙げており、シーズン前半と後半の戦いぶりの違いについて、こう触れている。
「夏に抜けた選手、新たに入った選手がいて、そこをうまく修正しきれていない。町田のコンセプトが徹底できず、コンセプトから逸脱したプレーも見えた。(途中加入の選手も多く)準備の難しさを感じています。
もちろん、相手との対戦も2巡目に入り、こちらの戦い方が研究されるなど、そのあたりの対応はさすがJ1だと痛感しています」
自慢の守備が耐えきれず、攻撃面でも相手に対策を講じられて点が取れず、勝ち点を思うように上積みできていないのが町田の現状だ。
シーズン前半は不動の左SBとして定位置をつかみ、最近は右SBとしてプレーすることも増えているDF林 幸多郎は夏以降、それまでなかった形からの失点があることについてこう語る。
「これまで大事にしてきたものが徐々に崩れ始めているのは少し考えないと。攻撃面では味方と合わないシーンが増えている。相手に対策され、結果が出ないことで自分たちのサッカーに疑いを持つじゃないですけど、今まで自信を持ってやりきれていたことができなくなってきている部分があるのは感じます」
24節の横浜FM戦で今季リーグ初出場、敗れた33節の川崎戦では実に9年ぶりとなるJ1でのゴールを挙げるなど、シーズン終盤に来て存在感を発揮しているチーム最古参、40歳の大ベテランFW中島裕希は、チームの置かれた状況についてこう話す。
「これまで長くJ2にいた町田が、J1で優勝争いをしているのは変な感じもします(笑)。ネットでいろいろ言われ、注目されるのはいい。ただ、それで試合に集中できないのはちょっと......。
優勝すれば、そういう批判的な人からも称賛されるでしょうし、そういう意味で勝って(評価を)ひっくり返せたら気持ちいい。リーグ終盤になってなかなか点が取れていないが、やっぱりリスクを負わずにロングボールを多用するシンプルな攻撃一辺倒だと相手もラクだし、そこは考えなきゃいけない。
でも、残り試合が少ない中、あまり細かいことを言っても迷いが出てしまうだろうし、やっぱり町田らしく、全員でハードワークするしかないのかも」
首位の座を明け渡し、なかなか勝ちきれない現状、逆転優勝にはミラクルが必要だが、J1初挑戦ということを考えれば、ここまでの町田の戦いぶりにケチをつけるのはナンセンスかもしれない。
「この世界、経験が長いほど外国人選手やベテランに気を使ったりするのかもしれないけど、(選手として)Jリーグ経験がない俺のアプローチはいっさい忖度も遠慮もなし。言いたいことは言わせてもらっている」
自ら強い言葉を発しつつ、結果を示しながらJリーグに新たな風を吹き込んだ町田の黒田監督。残り4節、どんな戦いを見せてくれるのか、最後まで注目したい。
取材・文/栗原正夫 写真/スポニチ/アフロ 日刊スポーツ/アフロ