日本女子テニス「6人のティーンエイジャー」が次々と世界へ 海外メディアも注目するニューウェーブ

0

2024年10月30日 07:31  webスポルティーバ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

◆日本女子テニス「6人のティーンエイジャー」フォトギャラリー>>

 今、日本の女子テニス界に、大型のニューウェーブが訪れている──。

 それは、数年前から徐々に顕在化していた予兆。その明るい兆しがここ2〜3カ月で、一気に光量を増した感がある。

 9月上旬の「全米オープンジュニア(18歳以下)」では、16歳の園部奏八(わかな)が準優勝。

 10月上旬の「全日本テニス選手権」では、19歳の石井さやかと18歳の齋藤咲良(さら)の「10代決勝戦」が実現。ワールドクラスの死闘の末に、石井が競り勝ち『秩父宮妃記念盾』を掴み取った。

 その翌週に大阪市で開催されたWTAツアーの「ジャパンオープン」では、齋藤が2試合連続でトップ100選手に快勝してベスト8へと躍り出た。なおこの大会では20歳の伊藤あおいも、ベスト4に進出している。

 すると、翌週には石井さやかが日本開催の女子ツアー最高グレード大会「東レ パンパシフィックオープン」で準々決勝へと大躍進。その過程では、予選決勝で世界64位のクララ・タウソン(デンマーク)を破り、本戦初戦で齋藤と再び対戦。この注目の再戦は、石井が6-1、6-1のスコアで圧倒した。

 齋藤や石井を中心とする2005〜2006年生まれは、日本女子テニス豊作の世代だ。前述した選手以外にも、2006年生まれの小池愛菜(えな・17歳)や木下晴結(はゆ・18歳)、クロスリー真優(まゆ・18歳)らはグランドスラムジュニアの常連で、優れた戦績を残している。

 木下は齋藤と組み、2023年全豪オープンジュニアでダブルス準優勝。小池は今年の全豪オープンジュニアで単ベスト4入りし、ジュニア世界ランクは最高9位につける。クロスリーは2023年全仏オープンジュニアのベスト8で、ベストランキングは5位。なお石井のジュニア最高位は5位で、齋藤は2位を記録した。

【なぜ日本から次々と台頭しているのか】

 これら日本ジュニア勢の躍進は、世界的にも注目を集めている。

 とりわけ昨年の全米オープンジュニアでは、第3シードの石井を筆頭に、齋藤が第4、クロスリーが第5、小池が第6シード入り。この現象はITF(国際テニス連盟)の公式ウェブサイトでも、「New wave of Japanese talent make their presence felt at US Open(日本の新勢力が全米オープンで存在感を示す)」と題して報じられた。

 記事内では、石井の父親が横浜ベイスターズで活躍した野球選手であることや、齋藤の「対戦したら勝ちたいけれど、オフコートでは友人」のコメントにも言及。「日本の若きスター選手たちの躍進は、注目に値するだろう」の一文で、この記事は結ばれている。

 世界的にも珍しい、一国からの一大勢力の台頭が、なぜ日本で起きているのか?

 誰もが抱くだろうこの問いに、簡潔でわかりやすい答えはない。なぜなら前述した選手たちはみな、各々が異なる道を歩んで、今の地位まで来たからだ。

 群馬県生まれの齋藤と、大阪府育ちの木下が初めて対戦したのは11歳の時。「富士薬品セイムスウィメンズカップ」の決勝が、その舞台だ。

 この大会は、将来有望な若手を発掘し、サポートするためのいわば選考会。決勝では齋藤が勝ちその権利を勝ち取ったが、準優勝の木下も関係者たちの評価が高く支援選手に選ばれた。

 それが契機となり、ふたりは11歳の頃から海外遠征の経験を積む。以降から現在に至るまで、齋藤は地元のMAT Tennis Academyを拠点とし、木下は今年の春に地元を離れ、元世界24位の神尾米の門を叩いた。

 この齋藤と木下を"国産組"と呼ぶならば、石井と小池、そして園部はアメリカのIMGアカデミー組である。ただ、アカデミーに来た経緯は、みなバラバラだ。

 石井は、彼女を支援する人々の勧めや人脈を辿って渡米。小池は、父親の仕事の関係でIMGアカデミーの近くに移り住んだのが縁。園部は、盛田正明テニスファンドの支援を得たためで、錦織圭や西岡良仁らと同じ世界への順路を歩んでいる。

 他方、クロスリー真優が拠点とするのは、米国フロリダ州のクリス・エバート・テニスアカデミーである。エバートは元世界1位にして、女子テニス界最大のスターのひとり。その薫陶を受けたクロスリーは、来年からカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)に進学し、大学リーグで実戦経験を積む予定だ。

【黄金世代と呼ばれるプレッシャー】

 かくも成長の足跡は異なるが、彼女ら全員に共通しているのは、高い目的意識と実行力かもしれない。

 彼女たちが15歳前後だった2021年から2022年上旬あたりは、まだコロナ禍の渡航規制もあり、海外遠征するにしても協会等の組織的サポートを受けるのは難しい時分。ただ、その時期でも前述の選手たちは海を渡り、多くの国際大会で場数を踏んだ。

 大会会場では自ら練習相手を探し、コートを確保し、現地スタッフや選手仲間と英語でコミュニケーションを取る。それが可能な環境や陣営あってのことだが、独立独歩の過程で獲得したたくましさは、テニスの世界では必要不可欠な資質だ。

 若手たちの活躍が目立つと、周囲は「黄金世代」と呼び、どうしても過剰な期待を寄せてしまいがち。

「それらの声が重圧にはならないか」と、自戒も込めて齋藤に聞いたことがある。すると彼女は、こちらの目をまっすぐに見て、口の端に笑みを浮かべて、こう答えた。

「緊張することもありますが、それは自分で自分に期待するから。(小池)愛菜ちゃんや(石井)さやかちゃんのように仲のいいライバルがいるから、お互い高め合えるかなと思う。ひとりで行くより、みんなで競い合いながら行けたほうが、自分はうれしいんです。

 プレッシャーみたいなのは......ないですね。逆にどんどん盛り上げていきたい、みんなで! みんなのことは12歳の頃から知っていて、そんなふうに小さい頃から競ってきた人たちがトップ100とかに入れたら、けっこうすごいことだと思うんです。周りの人が応援してくれたらテニス界も盛り上がると思うので、理想は高いけど、メリットだらけかなって」

 周囲の期待をも力に変え、笑顔で急こう配の坂道を駆け上がるようなたくましさと勢いが、今の10代選手たちにはある。

 世界も注目するニューウェーブは、その勢力を増しながら、大海を渡っていく。

◆日本女子テニス「6人のティーンエイジャー」フォトギャラリー>>

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定