学生3大駅伝の幕開けとなった10月の出雲駅伝で5年ぶり2度目の栄冠を手にした國學院大學。就任16年目を迎える前田康弘監督は、11月3日に開催される全日本大学駅伝(名古屋・熱田神宮→三重県・伊勢神宮内宮宇治橋前/8区間106.8km)でも優勝を視野に入れ、"二冠目"を狙いにいくことを堂々と宣言する。その自信の源はどこにあるのか−−。
【チームの核となるトリプルエース】
今季の初陣を飾ったばかりの出雲ドームで、國學院大の前田監督は、兜の緒を締めながら伊勢路への欲をのぞかせていた。
「全日本大学駅伝は、一番を取れるんじゃないかと思っています」
前回大会は3位、過去最高成績は2022年大会の2位。いずれも圧倒的な強さを誇る駒澤大の後塵を拝したが、今年度はこれまでとは違う。陸上界にインパクトを与える初優勝への思いは強い。駅伝シーズンが開幕する前から「ターゲットになる大会」と意欲をにじませ、自宅のテレビで昨年の駒澤大がどのような流れで勝利をつかんだのかをチェックしてきた。
「戦略はだいたい同じです」――。あまり多くは語らず、意味ありげな笑みを浮かべていたのは、まだトラックシーズン真っ只中の5月。夏合宿前には主将の平林清澄(4年)をはじめ、主力の8人だけを呼び、プラン、考え方などを伝えたという。そして、はっきり言った。
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「11月3日、お前たちがスタートラインに立てば、全日本は勝てると思っている」
無論、9番目以降の選手たちの底上げも促してきた。ひと夏を越えて、かつてないほど駅伝のレギュラー選びに苦心するまで選手層は充実。ベストメンバーの6人を送り出した出雲駅伝では令和の時代をリードしてきた青山学院大、駒澤大を抑えて、2019年以来の優勝をさらう。4区の野中恒亨(2年)、5区の上原琉翔(3年)、6区の平林清澄と立て続けに区間賞を獲得。後半の主要区間で2強を突き放す襷リレーは、まさに強さを証明するものだった。スピード駅伝と言われる6区間45.1kmの出雲路でも王者にふさわしいチーム力を示したが、持っているポテンシャルをより発揮できるのは8区間106.8kmの伊勢路だという。
「うちにとって、区間距離が伸びてくれば、優位性は高くなると思います」
前田監督の言葉どおり、長い距離のレースで実績を残してきた選手たちがズラリとそろう。初マラソン日本最高記録と日本学生記録の2時間6分18秒で今年2月の大阪マラソンを制した平林は、その筆頭株だろう。アンカーを務めた出雲駅伝では駒大とのエース対決で篠原倖太朗(4年)を振りきり、10.2kmの区間でも勝負強さを発揮した。ただ、持ち味がより出てくるのは長い距離である。全日本大学駅伝では3年連続でエース区間の7区を任され、前回は区間賞。17.6kmのコースは知り尽くしており、大学最後の伊勢路に向けて気合は十分だ。
「しっかり合わせます。ラストイヤーはすべて勝ちにいく」
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出雲駅伝で1区3位だった青木瑠郁(3年)は、3月の日本学生ハーフマラソン優勝者。全日本大学駅伝では2年連続で12.4kmの5区を走り、1年時は区間賞を獲得し、2年時は区間3位と好走した。今季、次期エース候補の3年生はハーフの距離に対応するスタミナに加えて、持ち味のスピードにも磨きをかける。今春に10000mで28分02秒00と自己ベストを更新。平林(27分55秒15)に次ぐタイムを持っており、キーマンのひとりになるのは間違いない。
エース格のひとりとして、指揮官から厚い信頼を寄せられている上原もカギを握る存在。前田監督は「(10000m)27分台で走る力はある」と、その潜在能力に太鼓判を押す。出雲駅伝では得意のアップダウンが続く5区で駒大、青学大を抜いて先頭に立ち、あらためて強さを示した。沖縄出身で暑さにも耐性があり、気温30度に迫る気象条件でもぐんぐんと後半にペースアップしていた。昨年の伊勢路では気温20度を超える気象条件のなか、11.9kmの3区で区間3位。今年度は当たり前のように区間賞を狙いにいく。先輩の平林にも練習から対抗意識を燃やし、本人を目の前にして「負けませんから」と元気がいい。
「目標は箱根駅伝の総合優勝ですが、まずは全日本。現状に満足せず、また一から頑張っていきます」
【駒大・藤田監督も一目置く分厚い選手層】
出雲路で著しい成長ぶりをアピールした2年生コンビも、初制覇には欠かせないピース。
昨年度、スタミナを不安視された野中は伊勢路、箱根路と当日変更でメンバー落ちしたが、今年度は粘り強い走りを見せている。トラックシーズンに10000mで28分17秒98の自己ベストを出し、トップランナーの仲間入り。単独走の粘り強さが試されるチーム内のタイムトライアルでも力をアピールし、10月14日の出雲で三大駅伝デビュー。区間賞獲得と最高の結果を残し、「前田監督に力を証明できた」と胸を張った。
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一方、出雲の3区で他大学のエース格と堂々と渡り合った辻原輝も勢いに乗るひとり。あまり得意としない短い区間距離(8.5km)でも区間4位と好走したのは大きな弾みになる。前回の箱根4区で区間4位の実績を残しているように距離が伸びれば、伸びるほど強くなるタイプ。突出したタイムは持っていないが、本番のレースにとにかく強い。5月の5000m(13分43秒35)、6月の10000m(28分27秒93)の記録会では、自己ベストとともに組1着でフィニッシュ。初出走を狙う全日本大学駅伝に向けても、夏から意気込んでいた。
「タフなコースで爆発力ある走りを見せ、先頭で襷を持ってきたいと思っています。自分の区間で勝負を決めるゲームチェンジャーになりたい」
そして、注目すべきは出雲駅伝に出走しなかった7人目以降の選手たち。スタートラインに立った6人と遜色ない走力を持ち、全日本大学駅伝に照準を合わせて準備している。
前田監督は、声を弾ませていた。
「高山豪起(3年)は出雲でも起用したかったくらいです。後村光星(2年)、嘉数純平(3年)も相当高いレベルにあります」
名前の挙がった3人とも、昨年の伊勢路に出走している実力者たちである。ハーフマラソンで1時間01分42秒のタイムを持つ高山は4区で区間4位の実績を残し、今年7月には10000mで28分25秒72をマーク。1区で区間6位の後村は28分30秒39、6区で区間5位の嘉数は28分40秒16といずれも今季、自己ベストを更新するなど、順調に練習を重ねて結果につなげている。新たな戦力の台頭に加えて、前回3位の出走メンバーが8人中7人も残り、ほとんどの主力が右肩上がりで成長している。
全日本大学駅伝で歴代最多となる16度の優勝を誇り、4連覇中の駒大も國學院大の地力は認めざるを得ないようだった。OBの藤田敦史監督は、苦笑しながら大学時代の後輩でもある前田監督が率いるチームを評していた。
「今年は絶対にくると思いましたが、やっぱり強いチームをつくってきた。平林君が最上級生になり、4学年が充実している。最高の選手層。昨年のうちのような感じですね。(全日本でも)切り札を前半と後半に持ってくることができますから」
優勝候補の一角ではなく、筆頭になりつつある。春の終わりから前田監督は明るい表情で口にしていた。
「『國學院が来るよね』という流れをつくり、全日本は勝つべくして勝ち、箱根に向かいたい」
ここまでは46歳の指揮官が描いたストーリーどおりである。秋の深まる伊勢で三冠に王手をかけても、もはや驚く人はいないかもしれない。