【ドラフト2024】くふうハヤテの元公務員投手・早川太貴が阪神から育成3位で指名 「新設ファーム球団」が示した意義

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2024年10月30日 10:01  webスポルティーバ

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 1年前のいまごろは「球団ができる」ことしか決まっておらず、まだチーム名すら存在していなかった。2024年シーズンのNPBファームリーグ拡大によって誕生した「くふうハヤテベンチャーズ静岡」。文字どおりゼロからのスタートとなり、ウエスタンリーグを戦いながら、選手たちはNPBの12球団入りを目指すという、前例なき道のりを歩んできた。

 そんな球団から、早川太貴が10月24日に行なわれたドラフト会議で、阪神タイガースから育成3位指名を受けた。

【公務員からNPBへ挑戦】

 早川は、くふうハヤテの"初代エース"だ。開幕投手を務め、2度目の先発登板となった3月22日の阪神戦(鳴尾浜)では7回3安打無失点の快投で2対0と勝利に導き、これがチームにとって記念すべきウエスタンリーグ初勝利となった。

 つづく同31日の広島戦(由宇)では1失点完投勝利を飾り、7月にはフレッシュオールスターに出場して1イニングを無失点に抑えた。今季は25試合に登板して4勝7敗、防御率3.22の成績を収めた。

 この北海道出身の24歳の右腕は、少し変わった経歴の持ち主だ。国立の小樽商科大学を卒業後は、北広島市役所の福祉課で働く公務員だった。

「ずっとプロを目指せるような立場じゃなかったのですが、大学4年で球速が出るようになって意識するようになりました。大学卒業後に独立リーグに進むことも考えたのですが、両親はいい顔をしてくれなくて......。それで公務員になって、その傍らで社会人クラブチームのウィン北広島でプレーを続けていました」

 昨年もドラフト候補として名前が挙がり、地元メディアから取材されるなど、ちょっとした注目の的になった。だが、実際にはNPB球団からの調査書は届かず、なんとも言えない複雑な気持ちで"指名待機"をした。その悔しさで火がつき、公務員の職を投げ捨ててくふうハヤテのユニフォームに袖を通す決断をしたのだ。

「もっと自分を磨くために何かないかとアンテナを張っていたところに、ファーム新球団ができるというのを知って、必死に調べました」

 ただ、調べたところで見つかる情報はごくわずか。それでも両親には「独立リーグと違って、プロ野球のウエスタンリーグで勝負できる」と説得すると、了承を得た。

 とはいえ、くふうハヤテの環境や待遇は、独立リーグ球団よりやや恵まれている程度にすぎない。たとえば球団寮は存在するが、その費用を払えば給料は10万円ちょっとしか残らない。かたやウエスタン戦で対戦する相手チームの選手たちは、二軍とはいえ年俸数千万円の選手も珍しくない。なかには、調整目的ために二軍でプレーするスター選手もいる。実際に、先述した開幕戦ではオリックス・宮城大弥と投げ合ったし、ソフトバンク戦では柳田悠岐とも対戦した。

「いろんな不安はありました。でも経験を積んで成長できたと思いますし、本当に全員で、選手だけでなくスタッフの方たちも一緒に頑張ってきた。周りの頑張っている姿を見て自分も頑張れたし、乗り越えられたと思います」

【調査書が届かなかったほかの選手たち】

 ドラフト会議は17時開始。約20名の報道陣に囲まれ、複数のカメラを向けられた早川は緊張しっぱなしだった。球団が自販機サイズのペットボトルの水を用意していたが、2リットルの水を持参し、何度も口をつけた。とくに表情を変えることなくモニターを見つめていたが、全球団の支配下指名が終わった時にはちょっと悔しそうに天を仰いだ。

 そして育成指名が始まると、ソワソワしているのが明らかだった。表情は同じままだったが、机の下で指先をせわしなく動かしていた。

 指名の声がかかったのは、ドラフト開始から約3時間が経過した20時3分だった。それまで無機質だった会議室が一気に熱を帯びた。「ふぅ」と大きく息をついて立ち上がった早川は「マジでよかった」とぽつりと呟いた。

「時間が経つにつれて『選択終了』の文字が苦しかった」

 ちなみに、ドラフト指名選手にはたいていの場合、NPB球団から「調査書」が届く。この日は全国各地でドラフト指名待ちの記者会見が行なわれたが、その開催有無は基本的に調査書が届いているか否かで決まるのだ。

 じつは早川に調査書を送ったのは、阪神1球団のみだった。つまり、ほかの11球団から指名される可能性は限りなく低い。その情報はメディアにも流れていたから、当然各球団のスカウトの耳にも入っていたはずだ。その選手の実力云々以前にそうやって指名順位が決まるものなので、早川の名前がなかなか呼ばれなかったのは、そういうことだ。

 そして、くふうハヤテのほかの選手には調査書すら届かなかった。

 今季、ウエスタンリーグ31盗塁でタイトルを獲得し、リーグ2位の打率.297を挙げた外野手の増田将馬を筆頭に、ウエスタンで5勝、防御率3.18と早川を上回る成績を残した二宮衣沙貴(いさき)、沖縄の興南高校を卒業後にアメリカ留学を選択してカリフォルニア大学アーバイン校で活躍し、メジャーリーグのドラフト候補として名前が挙がった内野手の大山盛一郎、ショートの守備でNPBの若手以上の強肩を見せていた仲村来唯也(らいや)など、ドラフト候補"と呼ばれた選手たちはいたが、彼らはそもそもノーチャンスだった。

「年齢はネックになる」

 その声はありとあらゆるところから耳にしたし、本人たちもそう口にしていた。来年、増田と二宮は27歳、仲村は26歳、大山は25歳になる。

【ファーム新球団が直面した課題】

 また、NPBファーム拡大でイースタンリーグに参入したオイシックス新潟アルビレックスBCからも、下手投げ右腕の下川隼佑(24歳)がヤクルトから育成3位の指名を受けたのみに終わった。下川は今季イースタンリーグでトップの102奪三振を記録していたが、それほど高い評価を得られなかった。さらにイースタンリーグで打率.323をマークして首位打者に輝いた外野手の知念大成(24歳)やリーグ最多20セーブの上村知輝(24歳)には指名がなかったのも意外だった。

 くふうハヤテの池田省吾球団社長は「育成と再生を掲げるなか、育成では早川投手がドラフト指名で阪神へ、再生では先日、西濱投手(オリックス→くふうハヤテ)がヤクルトへの移籍を果たした」と、この球団の意義と成果をあらためて強調した。その一方で厳しい現実も目の当たりにし、「来季以降のチーム編成については、今年と考え方を見直さなければならない部分もあります」とも語った。

 だが、早川は言う。

「独立リーグだとなかなか得られないような、球速以外の細かいデータなども示してもらえたのはよかったし、なにより本当に野球一本で、後悔ない選択したい人には一番いい環境だったと思います」

 正直、筆者は当初もっと大きなムーブメントが起きることを期待していた。そのため、若干のモヤモヤ感が残るドラフトになった。それでも「NPBの公式戦を1年間戦いながら、ドラフト指名を待つ」という第一歩を踏み出した意義は大きく、今後も引き続き注目していきたい。

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