「ルフィ」らを指示役とする広域強盗のうち6件に実行役として関わったとして強盗致死などの罪で起訴されている被告人、永田陸人(23)に対する裁判員裁判が東京地裁立川支部(菅原暁裁判長)で10月18日から開かれ、同月24日に検察官は永田被告人に無期懲役を求刑し結審した。
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検察官に「犯行は残忍で凄惨」と言わしめた、この事件。「今までの私は正直、窃盗は軽い罪だと思っていた。軽犯罪だと思ってた」「経験上、普通の人とは違う道徳感を持っていた」「首から上は殴っても脳震盪を起こすだけだと思っていた」——。犯行当時の見解を聞かれ、法廷で永田被告人はこのように振り返る。
事件当時21歳だった歳の青年はなぜルフィ事件に関与し、そして犯行手口はエスカレートしていったのか。裁判で明らかになったその実態とは。(ノンフィクションライター・高橋ユキ)
SNSでの「闇バイト」募集により集められた実行犯らが、指示役からの指示を受け、日本各地で強盗を敢行する“広域強盗”。今年10月にも神奈川県横浜市で発生した強盗において家人が殺害され、世間を震撼させた。
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こうした広域強盗が社会的に注目を集めるきっかけとなったのは、2023年1月に東京都狛江市で発生した強盗致死事件であろう。
この事件でもやはり「闇バイト」に志願した実行役らが、秘匿性の高いアプリ「テレグラム」を介して指示役から随時指示を受けながら強盗に及び、当時在宅していた90歳女性をバールで殴って死亡させた。
「ルフィ」などのアカウント名を用いテレグラムを介して実行役を操っていた指示役らも逮捕起訴されているが、現時点で彼らの公判の目処は立っていない。
「ルフィ」一味が関わった広域強盗事件は多数あるが、特に注目を集めた狛江の強盗致死事件に関係した4人の実行犯のうちの1人、中西一晟被告人(21)の裁判員裁判は今年8月に東京地裁立川支部で開かれ、すでに懲役23年の判決が言い渡されている(のち控訴)。
続いて開かれたのが、この永田被告人の裁判員裁判である。
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永田被告人は「ルフィ」らを指示役とする広域強盗6件に関わり、狛江事件を起こした翌日に逮捕された。検察官は公判で永田被告人を「実行役リーダー」であったと述べているとおり、指示役「キム」と密接に連絡を取り合いながら、時に強盗をスムーズに実行するための提案なども行い、現場では実行犯らを統率することもあった。
狛江の事件においては被害女性をバールで殴ったひとりだとされており、また広島県広島市の強盗事件においては、モンキーレンチで家人の頭部を殴り、高次脳機能障害という深刻な結果をもたらした。逮捕後の移送の様子をとらえたテレビ映像には、笑みを浮かべて中指を立てる永田被告人が映っている。
ところが公判にも同様の態度で臨むのかと思いきや、まるで違っていた。弁護人は初公判冒頭陳述でこう述べている。
「被告人自身、自分のしたことが取り返しのつかないことであると自覚しており、厳しい処罰が下されるべきだと思っています。被告人はありのままを正直に話していきます。それが責務だと思っているからです。量刑のことを考えているわけではありません。すすんで話したくないような悪い行動や振る舞いが語られることがありますが、それは被告人が、正直に話すのが責務だと考えてのことです」
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公判ではたしかに被告人自身から、事件についてのありのままが正直に語られた。そこからは被告人が抵抗感なく「闇バイト」募集から強盗に手を染め、また途中からは指示役のような生き方を目指そうとしていたことがわかった。
被告人は事件取材、石川県内で土木関係の仕事をしていたが、競艇にのめりこみ、消費者金融だけでなくヤミ金からも借金を重ねた。この返済と、競艇のための元手を得るため、2022年11月上旬にTwitter(現X)にて「闇バイト」募集に応募。フィリピンのビクータン収容所にいた「ルフィ」ら指示役とつながる。
最初の“案件”は空き巣だったが「中学一年の頃から犯罪歴が多い。常習的にやっていたこともあり、一般人と違い、抵抗はあまりなかったです」と振り返る。
被告人が密に連絡を取る指示役は「キム」。被告人は一件目の“案件”を綿密に打ち合わせる中で「キム」に対して尊敬の念を抱いた。
「犯罪において私は一般の人と違う考えを持っています。いかつい人が怖いと思うかもしれませんが、私は、底知れないとか、自分よりも犯歴がある人を怖いと思う。キムさんはとても頭がいい。私も犯罪歴がありましたので、かなり知識はあるほうでしたが、キムさんはそれを遥かに上回り、口調や説得力が上回っていたので、格上だと思いました」
しかし格上だとは思っていたが「キム」への恐怖から犯行に手を染めたわけではないとも付け加えた。
「怖いからやったわけではありません。怖くて逆らえなかったということもありません。自分の意思でやってます」
犯罪という世界において一目置く「キム」と“案件”を繰り返すなか、被告人は次第に、他の実行犯からも“ヘッド”などと呼ばれるようになる。2件目に起こした東京都中野区の強盗では、家に押し入る直前に「キム」は永田被告人と繋いでいたテレグラム通話をスピーカーモードにするよう求め、他の実行犯らに向け、車内でこう呼びかけた。
〈殴ったり蹴ったりしないと報酬はあげません。家には3000万円あります。現場ではカルパスくんの指示に従って、女子供は口を塞いで黙らせてください。チャチャッとやっちゃって大丈夫です〉
“カルパス”とは被告人のテレグラムアカウント名である。「キム」は多くの案件でこのように突入前、実行犯らにスピーカーフォンで発破をかけるのだが、このときはそれだけでなく実行犯に向けて“永田被告人がリーダーである”と示したことから、「ルフィ」の案件において被告人は一目置かれた存在となったようだ。
以降、実行犯リーダーとして、現場では指示を出すこともあった。加えて、紹介される“案件”について、永田被告人から「キム」に対し、提案を申し出るようにもなった。
実際、この中野の事件において、家人の制圧に時間がかかったことから“次の案件ではモンキーレンチを用意して欲しい”と「キム」に伝えている。こうしてモンキーレンチを携えて広島市内の強盗に及び、家に住んでいた49歳男性の頭を殴り、大怪我を負わせた。
このときも突入前に「キム」はスピーカーフォンで実行犯らにこう告げていた。
〈殴ったり蹴ったりしないと報酬はあげません。カルパスくんがモンキーレンチでじゃんじゃんやってくれますので、皆もどんどんやってください。ただし、殺しちゃいけませんよ〉
広島市の事件において、被告人は家人に大怪我を負わせたことを認識したが、それでも強盗をやめずに続けたのは「自暴自棄になっていた」からだという。
「中野の事件では証拠を残しており、私は必ずパクられると思った。ですが強盗で逮捕されて何年刑務所に入るか知識がなく、強盗の法定刑が5年以上だったと見たので、5年だと思い込み、強盗したら5年で済むという感覚になりました。パクられても5年。一般人の方に暴力を加えることは自分の主義に反するが、もういいわと自暴自棄になり参加しました。加えて競艇に注ぎ込む金も欲しかった」
この頃、競艇にのめり込み続けていた被告人は「キムさんも格上だと言いましたが、この人もかなりの格上です」と悪の道で一目置くというヤミ金業者から金を借りていた。
広島市の事件で大怪我を負わせたが、振り返ることなく“案件”に集中してゆく。
返済のためという目的のほか「どうせパクられると分かってるなか、加えて広島で意識不明になるとんでもない怪我を負わせてしまった。どうせパクられる。ガラ(身柄)を隠そうと思いました」と、自分自身が「キム」らのように指示役として身柄を隠しながら悪事を続けよう……と考え始めていたという。
そして、その手口はより残忍なものになっていった。
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