表参道駅からみゆき通り沿いを歩いて4分。都会ながら閑静なエリアに佇む安藤忠雄建築のビルの一室に「ビオトープ(BIOTOP)」のオリジナルレーベル「ヨー ビオトープ(ë BIOTOP)」の初となる直営店がオープンする。ロゴを主張しない、まるで隠れ家のような店内では打ちっぱなしのコンクリートを活かしながら、淡い色合いのカーテンが柔らかな雰囲気を演出。商品は極力置かずにラックのみで見せる、無駄な要素を一切省いた空間は、ファッション感度の高い女性から支持を集めるヨー ビオトープのミニマルで自然体な世界そのものだ。 インナーを中心とした10型のみのコレクションからスタートしたヨー ビオトープは現在、インナーやランジェリーにとどまらずアパレルやファッション小物、オーデコロンとラインナップを拡大。新作の立ち上がり時には店前に列ができ、公式オンラインストアでは即完売と、世の女性を虜にしている。初の単独直営店で実施したディレクター曽根英理菜への取材から、いまの時代に支持されるブランドの姿を切り取る。
◆リアリティを落とし込んだ等身大のクローゼット
ヨー ビオトープは、ビオトープのランジェリーライン「ヨー ビオトープ ランジェリー(ë BIOTOP Lingerie)」という位置付けで、2021年春夏シーズンにデビューした。ディレクターを務めるのはビオトープ元バイヤーの曽根英理菜。立ち上げ当初はビオトープのバイヤーとの兼業でヨー ビオトープの準備を進めた。
ビオトープでは以前からインナーやランジェリーの取り扱いを検討してきたという。「アパレルに比べて、インナーの選択肢はごく少ない。インナーファッションの幅が広がることで、“表に着る”ファッションも広がると考えた」(曽根)。買い付けるという選択肢もあったが、動き出したタイミングで新型コロナウイルスが感染拡大。「肌に近いものは実際に触ったり、自分の目で見ないと抵抗があった」とコロナ禍のバイイングへの障壁もあり、オリジナルで作ることを決めた。リサーチを進めていくなかで、ランジェリーのものづくりの難しさに直面。アパレル製造に強みを持つジュンの生産背景を活かし、インナーを中心としたラインナップから進めていった。
「肌に近いものはもっとも心に近いもの。自身に思いやりを持つこと。」というブランドコンセプトにもあるように、曽根がヨー ビオトープで大切にしているのは「デイリーにおしゃれに着られる」「買い足せる」「自宅で洗える」というキーワード。“肌に近い”からこそ着心地には徹底的にこだわり、商品群の中にはカシミヤ100%やシルク100%を使ったアイテムもラインナップしている。気に入った商品は気軽に買い足せるよう、価格設定やベーシックカラーを中心とした使いやすい色展開も重視。一部商品を除いて素材の扱いやすさに配慮している点も、曽根の視点ならではのリアリティが落とし込まれている。「家のクローゼットと似ているかもしれません。世の中の人みんなが着ているような服はあまり参考にしていないですし、私自身も興味がなくて。でも、今までそういったブランドは意外となかったような気がします」(曽根)。
顧客の年齢層は20代前半から50代前半と幅広い。いずれも「ファッションが好き」が共通項。来店客の着こなしに「こんなコーディネートもできるのか」と曽根自身も発見があるという。特に人気の商品はシアータイトスカート(2万8600円)。シーズンレスに着用できるほか、旅行にも持っていける軽量性や扱いやすさが支持を得ており、色違いで買い足す人も多くいるという。最近ではハイウエストのスラックス(3万4100円)も動いている。
新作の立ち上がりは、いわゆる“ファッション業界のカレンダー”を度外視。これがヨー ビオトープの経営面の強みの一つとなっている。「シーズンレスでいつでも着られるものが多いので、世の中の立ち上がりに合わせなくてもいいと思っていて。従来のアパレルブランドであればMD的にアイテムが足りない、となってしまうところがありますが、その考えを一旦止めたかった。それにライバルがいっぱいいる中で同じタイミングで立ち上がっても、お客様のお財布事情は一緒。薄い服も、レイヤードすれば冬でも楽しめる。その自由さがいいんじゃないかと」(曽根)。
◆コロナを経てファッションも開放的に
「デイリーに着られて洒落ている服というのはシンプルな服と紙一重だけど、素材だったりステッチだったり、本当に細かい部分にこだわるだけで気分はいくらでも変えられる。肌に近いものは気持ちの良いものがいいよね、と伝えたい」──そういった思いからスタートしたヨー ビオトープ。いまの時代に支持されるブランドの魅力はどこにあるのか。曽根はこう分析する。
「コロナを経て女性たちの気持ちも開放的になって、“誰かのために着る服”より“自分のための服”に対するニーズが高まったと思います。まさに私がそうですが、服は自分のマインドで決めるタイプ。世の中もそのムードが高まってきて開放的なアイテムが選ばれるようになったのではないでしょうか」。
実際にヨー ビオトープだけではなく、「ユニクロ(UNIQLO)」と「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」のコラボレーション「Uniqlo and Mame Kurogouchi」が人気を集めたり、インナーウェアブランドが続々と誕生するなど、コロナ禍以降の女性のムードはインナーに関心が向かっている。ライバルが増えているとも言えるが、曽根は「インナーファッションの選択肢が増えることがいいことだと思っている」と前向きだ。
「服に対して、インナーブランドの選択肢は少ないじゃないですか。本来なら着る服によってランジェリーは毎回違っていいはず。パリのデパートではランジェリーコーナーがすごく大きかったりするので、日本でももっと増えたらいいのにと思います」。
◆ファッションの中心地に初の単独直営店 あえて主張しない“隠れ家”的存在に
デビューから2年半で実現した初の単独直営店は、「プラダ(PRADA)」や「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」青山店など、名だたるラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドの店舗が並ぶみゆき通りに位置する。これらの店舗とは対照的に、ヨー ビオトープは大きなロゴを掲げず、ひっそりとした佇まいだ。
半年かけて見つけたというこのロケーションについて、曽根は「お客様の心情って店舗に行くまでの道のりも大事じゃないですか。内見に伺った時、店舗に着くまでに歩いた道が気持ち良かったんです」と決め手を語る。コンクリートといった硬い素材と、カーテンや試着室のラグなどの柔らかい素材を組み合わせた内装は、柳原照弘がデザインを手掛けた。店内ではラックに一部アパレル商品を並べ、それ以外のランジェリーや一部のアパレル、インナー商品は敢えて見せない仕様。試着室は2室を用意している。
店内ではヨー ビオトープのフルラインナップを展開。オープンを記念し、同店限定商品としてシアータイトスカートのベージュと、フォトグラファーの松原博子が手掛けた直近4シーズンのブランドヴィジュアルをプリントしたTシャツ(2サイズ展開、1万1000円)を発売するほか、同店と公式オンラインストア限定でシアータイトスカートやシアータイトベアドレス(3万8500円)、シアータイトベアショートドレス(3万6300円)、ロングニットドレス(3万1900円/いずれも税込)からネイビーが登場する。また、デビュー時から注目するスペイン・バルセロナ発のブランド「ガブリエラ コール ガーメンツ(GABRIELA COLL GARMENTS)」や「フェティコ(FETICO)」とのコラボアイテムなども揃う予定。オープンの9月30日と10月1日の2日間は曽根も店頭に立つ予定だ。
10型から始まったヨー ビオトープ。曽根は「ここまで大きくなるって思っていなかった。ありがたいことに最初から反響が大きく、やればやるほど期待に答えていきたいという思いが強くなっていった」とこれまでの順調な道のりを振り返り、直営店のさらなる出店にも意欲を示す。一方でブランドの課題感としては、ランジェリーというカテゴリーの難しさを改めて感じているという。「ランジェリーはアパレルと違ってSNSで着画などを発信するのが難しいので、なかなか浸透しきれていないと感じています。もっと力を入れていきたいですね」(曽根)。
ブランドが愛され続けるために必要なことを問うと、曽根は実直にこう答えた。「ファンがいること。裏切らないこと。商品はもちろん、ヴィジュアルも含めてファンが喜んでくれることを発信し続けることですね」。今年からフリーランスに転向したという曽根。ヨー ビオトープの展開にこれからも期待したい。
■ë BIOTOP AOYAMAオープン日:2023年9月30日(土)所在地:東京都港区南青山6-1-3 コレッツィオーネ2F #4営業時間:12:00〜20:00休業日:月、木電話番号:03-6452-6363