2023年に世間を騒がせたビッグモーターや、認証検査にからむ不正が次々発覚した自動車業界など、企業不祥事関連のニュースが後を絶ちません。近年では、大手企業で不祥事が発覚すると、弁護士などの専門家で構成される「第三者委員会」の類が立ち上げられ、外部の目で原因究明および再発防止に向けた提言を行うのが常になっています。
【画像】知ってた? 過去の第三者委員会を格付けした表があるんです(計1枚)
ややもすると、何気に通り過ぎてしまいがちなこの第三者委員会なる存在は、一体どのようなものなのでしょうか。あらためてその歴史と実情について探ってみます。
●第三者委員会の歴史を振り返る
まず歴史からひも解いてみましょう。わが国で第三者委員会に相当するものが初めて立ち上げられたのは、1997年。山一証券の経営破たんを受けてのこととされます。当時は「社内調査委員会」という名称でしたが、元役員らに外部の弁護士2人が加わり、破たんの原因である簿外債務の実態を明らかにするのがミッションでした。
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外部の弁護士が加わったこと、さらに「社内」と名乗りながらも実際には会社が既に存在しない段階での検証チームであったことから、実質的に第三者委員会のはしりと受け止められるものといえるでしょう。
これを機に、企業不祥事を検証する第三者委員会は一般的な存在になっていきます。それは折しも、外資の存在感が増しつつあった国内株式市場の成長に鑑み、グローバルスタンダードとして信頼性を確保する観点からの動きでした。上場、あるいはそれに準じる企業に不祥事が発生した場合は、第三者の目を持って原因究明して、再発の防止に努めるべき――との考え方が常識になりつつあった時期だと記憶しています。
しかし、あくまで設置は「任意」。法的な拘束力は存在しません。むしろ、大手企業が不祥事発生により失われた信用を回復するための手段の一つとして、定着していったといえます。この経緯からも分かるように、第三者委員会は完全に日本発のオリジナルなものなのです。
●何個も「委員会」が立ち上がった例も
さて、第三者委員会が一般的になり始めてから順調に推移したのかというと、運営に公正性を欠くなど問題点は多くありました。その最たるものが、2008年に発覚した、自動車部品製造のフタバ産業が不正会計処理を検証した際の第三者委員会です。
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このケースでは、当初立ち上がった委員会の報告書が出た後に、新たな疑惑が次々明らかに。それによって第2、第3の委員会が立ち上がり、当初は言及されなかった経営責任まで論じられて大きな混乱を招きました。最終的には、第1、第2の委員会は検証が甘く、第3の委員会による提言によって全取締役の責任が追及され、元社長が逮捕される(不起訴処分)までに至ったのです。
このようなずさんともいえる第三者委員会の姿勢を強く問題視したのが、コンプライアンスを司る弁護士の業界団体、日本弁護士連合会(日弁連)でした。日弁連は事態を重く見て、第三者委員会の規律を正すべく2010年に「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」をまとめて公表したのでした。
ガイドラインでは、第三者委員会を次のように定義しています。
「企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会である」
具体的活動としては「企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事実認定をおこない、これを評価して原因を分析する」「調査結果に基づいて、再発防止等の提言をおこなう」「企業等から独立した立場で、企業等のステークホルダーのために、中立・校正で客観的な調査をおこなう」などとあります。
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また委員数は原則3人以上とされ「当該事案に関する法令の素養があり、内部統制、コンプライアンス、ガバナンスなどの企業組織論に精通した者でなければならない」としています。
●「法律家だからこそ」の問題にも目を向けるべき
日弁連のガイドラインが指し示す第三者委員会の在り方に、疑問点がないわけではありません。
特に「学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い」と弁護士以外の専門家が加わる必要性に言及しているものの「委員である弁護士はこれらの有識者と協力して、多様な視点で調査をおこなう」と、あくまで弁護士主導であるべきと読み取れる点は、気になるところです。
もちろん、日弁連のガイドラインなのでこの点は致し方ないのかもしれません。しかし、企業で実務経験のない弁護士が主幹を務めることで、不十分な検証、あるいは適格性を欠く改善の提言になるリスクは考慮されていないといえるのではないでしょうか。
法律家主導の第三者委員会による失態例として、2015年に東芝の不正会計調査で立ち上がった第三者委員会が有名です。当時の委員会は東芝経営陣の人選により、元東京高等検察庁の検事長である弁護士を長とした法律家集団に、会計士を加えた「士業チーム」。電機業界に精通した、マネジメントの専門家不在というメンバー構成でした。
結果として、同時進行的に水面下で深刻化していた米子会社の買収問題には一切目を向けられず、ほどなくしてこの件がさらなる不祥事として公になる――という体たらくを示したのです。
●識者が指摘する、第三者委員会の問題点
内部統制やガバナンスの研究者で『「第三者委員会」の欺瞞』(中央公論新社、2020年)の著者である八田進二氏は、第三者委員会の人選について「構成員として、当該不祥事に関する専門家をいれるべき」としています。さらに「検事である弁護士が第三者委員会に参画するケースが目立つが、犯人を特定して犯罪者を罰する検事とより良い内部統制実現に向けて活動する第三者委員会の原因究明では、調査のプロセスが異なる」と、東芝のようなケースをありがちな人選の誤りとして提示しています。
「企業が検事を委員として選びたい理由は、少なくとも経営サイドが刑事責任だけは問われないようにしたいという思惑があるから」とも八田氏は述べており、この点からも検事を入れることに否定的です。さらに、人選のプロセスは明確に公開するべきであり、業務執行に関わる者の人選への影響は排除すべきであると、日弁連のガイドラインの「盲点」ともいえる委員の人選について問題提起し、その基本的な在り方を提示しています。
「日弁連のガイドラインが発出されて以降、第三者委員会の認知度やステータスは高まったものの、不十分な内容の報告書の量産は続いてきた」と、報告内容の視点からも第三者委員会の在り方を問題視している点も注目です。この点に関しては、第三者委員会報告書の是正を促す一助とすべく、2014年に弁護士、学識経験者、ジャーナリストの委員9人からなる「第三者委員会報告書格付け委員会」が発足しました(八田氏もメンバーに名を連ねています)。
格付け委員会は不定期に開催しており、量産される第三者委員会報告書の中から「社会的価値や影響力が大きいと認められるもの」を選んで取り上げ、A〜DとF(不合格)の5段階で評定・公開し、報告書の水準向上に向けて一石を投じています。
これまで27本の報告書が俎上に上がり、メンバーがそれぞれの視点で評価を付けてきました。27本・223評価票のうちA評価はわずか2票。反対にF(不合格)は60票もあり、半数以上にD以下の低評価が付けられているのには驚きます。八田氏が「大半の第三者員会は真実究明どころか、調査中にはメディアや世論などの追及から逃げる隠れみのとなり、不祥事への関与を疑われた人たちにほとぼりが冷めた頃に免罪符を発給しているのだ」と厳しい意見を出している点は痛快です。
●非公開に「億単位」の報酬も
このように見ると、不祥事報道でよく耳にする第三者委員会に法的な拘束力はなく、企業が自ら委員を選び、調査を依頼したに過ぎないこと。そして、委員会自体にも改善の余地が大きいことが分かります。しかし、多くの人にはいまだ、第三者委員会が「公正性」「論理性」「専門性」などを兼ね備えたものであるかのようなイメージを持っているのではないでしょうか。また、第三者委員会の報告書によって不祥事は一定の禊(みそぎ)を終えたかのように感じさせられてはいないでしょうか。
しかし、第三者委員会は決して完璧かつ高潔な存在ではありません。さまざまな課題を抱えている組織であることを理解した上で、報道を受け止める必要があるといえます。
八田氏は著作で「第三者委員会に関わるコストが、一切明らかにされていないことは問題である」とも述べています。第三者委員会に億単位の報酬が支払われるのは常であるとの話も、関係筋から筆者の耳に届いています。委員の人選を当該企業の経営者が行い、同じ経営者の判断で非公開に巨額の報酬が支払われるならば、本当に「第三者」として正当性が保たれるのか。まずはこの点にこそ、真の「第三者委員会」を実現するための最大の改善点が潜んでいるのではないか、との筆者の考えを最後に付け加えておきます。
(大関暁夫)
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