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主要客層である子どもが少なくなる中、この10年で売り上げを10倍に成長させた駄菓子がある。アトリオン製菓(長野県須坂市)の「パチパチパニック」だ。2023年に丸紅の子会社として新たなスタートを切った同社は、ヨーグレットやハイレモンを手がけることでも知られている。
パチパチパニックは1個40円(実勢価格)と安価ながら、2024年3月期の売上高は約7億円にまで成長し、今春には生産能力を2.5倍に増強した。少子化が進行する中、どのようにして売り上げを伸ばせたのか。
●低迷期を経て、成長軌道へ
1998年に前身となる「シュワシュワパンチ」を発売して以来、パチパチパニックはアトリオン製菓を代表する看板商品として育ってきた。キャンディーの中に炭酸ガスを封入する製法は、国内で同社だけが持つ特殊技術だという。しかし、同社生産企画部長の高宮隆一氏は「10年以上前まで売り上げは横ばいで伸び悩んでいた」と振り返る。
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約10年前を境に状況が一変したが、他社が真似できない商品を粘り強く提供し続けたことが急成長を支えた根底にある。また、新たな戦略として100円ショップに販路を開拓したことも大きな転機となったようだ。
●100円ショップへの販路拡大が成長を後押し
アトリオン製菓は元々、明治グループの一部商品を受託製造していて、営業力のある組織ではなかった。そこで、大手菓子メーカーとの競争が激しいスーパーやコンビニではなく、当時はまだ競合企業が少なかった100円ショップに着目した。取引先数が限られることから、少ない営業リソースでも取り組みやすい市場だったと高宮氏は説明する。
この戦略は見事に的中した。100円ショップの店舗数も過去10年で大きく増加しており、例えばダイソーは、2024年2月時点で国内外に5325店舗を展開し、20年前から2000店以上増やしている。現在、パチパチパニックの売り上げ全体に占める100円ショップでの販売割合は2〜3割に達するという。
さらに、市場環境の変化も追い風となった。「大手メーカーが駄菓子のような低価格商品から撤退していった」と高宮氏は語る。大手が収益性を重視し高価格帯商品に集中する中、同社は逆に低価格帯市場でチャンスを見出した。
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ただし、新規の販路拡大は容易ではなかった。社長の山下奉丈氏は「定期的な棚替えがある他のお菓子カテゴリーと違い、駄菓子売場は商品の入れ替わりが少ない」と、参入の難しさを説明する。
逆に言うと、定番商品として採用されると、安定的な販売が期待できる。実際に、パチパチパニックは参入障壁をクリアすると、リピート購入も多いことから定番商品としての地位を確立していった。
●「エンタメ菓子」としてブランディング
アトリオン製菓は、パチパチパニックを単なる駄菓子として捉えるのではなく、「エンタメ菓子」としてブランディングしていくことを目指している。食べたときに音が出るという点で競合する菓子は少なく、その独自性を生かす狙いだ。
「パチパチパニックは口に入れると音がして、しかめ面だった人も笑顔になる。そういうエンターテインメント性を持っている」(高宮氏)
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このエンタメ性を訴求するため、さまざまな取り組みを展開している。テーマソング「パチパチパニック!」を制作したほか、8月8日を「パチパチの日」と制定し、同日にアイドルグループ「SKE48」とコラボするなど、商品の認知度を上げるための活動に注力している。SKE48とのコラボ動画は、SNSに投稿したところ普段の10倍となるインプレッションを獲得したという。
●工場からメーカーに進化。課題は?
同社は2023年に丸紅の子会社となり、社名をアトリオン製菓に変更しただけでなく、生産を中心とした組織から、マーケティング開発、調達、物流、販売までを担うメーカーへの転換を図った。2024年3月には需要の高まりに対応するため、生産能力を2.5倍に増強し、今後3〜5年で売上高20億円を目指している。
これからの課題は、スーパーマーケットでの売り場を増やすだけでなく、子ども以外にターゲット層を広げていくことだ。
山下社長も「例えば、育児や家事に疲れたときのリフレッシュや緊張した会議の場でのアイスブレイクなど、さまざまなシーンで楽しんでいただけるとメーカー冥利に尽きる」と、大人向けの活用シーンにも期待を寄せる。
●新市場開拓へ、次なる一手
新たな展開も模索しており、その一つが海外市場だ。現在、グローバルでの展開を見据えて各国の食品規格に対応できる原料の選定を進めており、見通しが立ちつつあるという。
山下社長は「パチパチパニックがどのような存在になり得るのか、それぞれの国に合わせた訴求方法を検討していく」と、長期的な視点での展開に意欲を見せる。
原材料の高騰が連日のように報じられているが、外部環境によほど大きな変化がない限り、値上げは検討していないという。「現在、100円ショップでは3袋100円で購入でき、友人同士で分け合って楽しめる。気軽に楽しめる価格帯を維持することは、商品の重要な価値のひとつと考えている」(山下社長)
フレーバーについても、ベースとなるグレープ、コーラ、ソーダのほか、新たな味を追加していく可能性も指摘している。
今後もパチパチパニックを独自性の高いエンタメ菓子としてブランディングを進め、ファン拡大を目指したプロモーションを展開していく予定としている。山下社長も「パチパチパニックを当社を代表する商品として育てていきたい」と意気込む。海外展開も視野に入れ、世界の人々の心もハジけさせられるか。
(カワブチカズキ)
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