教員不足が叫ばれる昨今だが、学校現場では「教師の自腹」という問題も深刻化している。多忙な日々のなかで自らの財布を開き、授業や部活で足りないものを補う先生たちを直撃。一般企業では考えられない、教師の世界が抱える独特の金銭問題とは?
◆年間自腹額20万円…「部活はタダ働き同然」常態化する自腹や重労働
公立中学校教師・橋本貴史さん (仮名・30歳)
「生徒にいい環境を与えたい一心で自腹を切っていました」
そう言ってうつむくのは、東京都下にある公立中学校に赴任して4年目の橋本貴史さん。これまで授業に関して細々とした自腹を重ねてきたが、大きかったのは部活だ。
「男女30人が在籍するバドミントン部の顧問を務めていたのですが、部費が少なくて大会の参加費に回すとシャトルなどの消耗品が買えない。購入申請は時間がかかるし後精算もできない。保護者から部費を徴収すると報告作業が増えて面倒なだけ。だから壊れたシャトルは毎月1万円の自腹を切って買い替えてました」
大会で生徒を引率する際に発生する自腹も多かったそう。
「男女の公式戦がそれぞれ年4回あって、土日が試合で全部つぶれる月もありました。引率すると特殊勤務手当が一日4000円つくのですが、交通費や昼食代は出ないのでタダ働き同然。ほかにも、審判資格の講習費や更新料なども出してもらえなかったです」
◆「感覚が狂っていた」
そんな年20万円の自腹について、「常態化していて感覚が狂っていた」と振り返る。
「前に修学旅行の下見で京都に行った際、東京から往復の新幹線代3万円とホテル代1万円を立て替えましたが、宿泊代は自腹でした。教育現場の常識が、一般社会では非常識だと早く気づけばよかった」
現在、橋本さんは過酷な長時間労働で心を病んで休職中。すでに転職の意思は固かった。
◆事務職員が見た!学校の会計管理は不正が起こりやすい!?
教師の自腹だけでなく、「学校とカネ」にまつわる問題点は山ほどある。学校運営に不可欠な財務を担う事務職員が話す。
「残念ながら教職員の中には不正を働く人もいます。先日福島県で発覚した、栄養職員が給食の材料費を故意に浮かせてつくった800万円を横領した事件は衝撃的でしたね。ただ、こういう計画的なケースは珍しいんです。よくあるのは、学校の口座管理者が“個人”になっていて、手の届くところに大金があったから『つい魔が差した』というもの。それら不正の元凶は、学校の私費会計にあると思います」
学校での私費会計とは主に保護者からの徴収金のこと。税金から出る公費会計と比べ、管理に不透明な部分が多いという。
「そもそも教師は校長を含め、金銭を取り扱う訓練を受けていません。財務を担う事務職員も同じ。経理のプロ不在のまま大金を管理する私費会計は、教職員の性善説に頼りすぎています」
学校では「子供のため」が優先されることで起こる問題もある。
「泣きを見ているのは教師だけではありません。例えば、教材を業者に100冊発注したのに、保護者からは98冊分しか回収の目途が立たず、業者には満額を支払えない。それでも教師は、『子供を優先』し、業者には未納の回収を待ってもらう、なんてことを昔はよく聞きました」
今も誰かが泣いている。
取材・文/週刊SPA!編集部 写真/PIXTA
※11月29日発売の週刊SPA!特集「[教師の自腹]残酷な現場ルポ」より ―[[教師の自腹]残酷な現場ルポ]―