『ガンダムX』1996年放送なのになぜ議論が続くのかーー識者が解説する“打ち切り説”の理由

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2024年11月02日 08:00  リアルサウンド

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ときた 洸一、矢立肇・富野由悠季 『機動新世紀ガンダムX Re:Master Edition(1)』 (KADOKAWA)
■今でも話題が続く理由は?

 1996年に放送された『機動新世紀ガンダムX』は、今でもネット上で論争の種になりやすい作品だ。放送話数が全39話と短く、当初予定されていた話数よりも切り上げて放送された作品であり、打ち切りだったのではないかという話題がたびたび浮上するのだ。では、人気がなかったのかというとそうでもない。現在でも熱狂的なファンのいる作品でもあり、そのあたりのギャップが現在でも定期的に話題となる原因かもしれない。


 『ガンダムX』は、1993年からテレビ放送された平成前期ガンダムシリーズの、ラストとなった作品である。富野由悠季監督が久しぶりに手がけたテレビシリーズのガンダムである『機動戦士Vガンダム』、ありとあらゆる意味で異色作だった『機動武闘伝Gガンダム』、美少年5人を主人公に据えてより広いファン層を獲得した『新機動戦記ガンダムW』という、ガンダムシリーズの幅を大きく広げた3作の後に放送された。


 『ガンダムX』は前述の通り、放送スケジュールが短縮された作品として知られている。番組開始当初は放送時間は金曜17時からだったが、キー局だったテレビ朝日では27話以降の放送時間が土曜の早朝6時からという厳しい時間帯に移動させられ、1年間放送するはずだったスケジュールも短縮。全部で39話という、平成前期のガンダムシリーズとしては異例の短さとなった。放送当時サンライズの取締役だった松本悟の著書『ガンプラ開発者が語るニュータイプ仕事術』でも、平成期のガンダム関連作品に触れた箇所で『ガンダムX』のみ具体的な記述がなく、正確な数字は不明ながら関連商品の売れ行きも芳しくなかったようだ。この結果を受けてか、4作続いた平成前期ガンダムシリーズにピリオドを打った作品となっている。


 『ガンダムX』の幸運だったところは、早いタイミングで放送の短縮が決定されたことで、最終話まできっちりと走り切ることができた点だろう。打ち切り作品特有のブツ切りで物語が中断された感じもなく、途中駆け足になった箇所もありつつ、ストーリーもしっかりと完結している。つまり、話数は短くなったもののいわゆる「打ち切り」ではなく、非常にうまく撤退戦を戦った作品と言える。そして、そのストーリーとメッセージが、現在でもこの作品を推すファンを産んだ大きなポイントだと思われる。


 『ガンダムX』は、シリーズ全てを通して見てもちょっと珍しい、「ポストアポカリプス・ガンダム」である。舞台となるのは、スペースコロニーの独立運動に端を発する地球連邦軍と宇宙革命軍の激烈な戦争が終結して、15年が経過した世界。連邦側は決戦兵器として強力なモビルスーツ「ガンダム」を大量に投入し、パイロットとして特殊能力を持つニュータイプを搭乗させた。一方で宇宙革命軍側は地球に対して大量のコロニーを投下。この戦争により、人類は100億の人口の大半を失い、地球は想像を絶する荒廃に見舞われた。


  この荒れ果てた地球をたくましく生きる少年ガロード・ランと、ニュータイプ能力を発現させた少女ティファ・アディールの出会いが、物語のスタートとなる。『ガンダムX』の特徴が、この二人の物語をド正面から描いている点だ。物語の背景として「オールドタイプVSニュータイプ」「地球VS宇宙」という対立軸があり、ガロードたちはそのどちらにも属さない勢力として戦っていくのだが、それと同じくらいのボリュームでボーイ・ミーツ・ガールの物語が描かれたことが、『ガンダムX』の特異なところだろう。


■ニュータイプとは何か

  もうひとつ、「ニュータイプとは何か」という問題について作品内でひとつの答えを出している点も、本作の大きな特徴である。モビルスーツやミリタリー方面に関しては、富野由悠季監督が手がけていない作品でも濃密な描写が数多く為されてきた。が、『ガンダムX』が放送された1997年の時点では「ニュータイプ」という存在は宇宙世紀もののガンダム、それも富野監督が手がけたガンダムにおいて掘り下げられる存在であり、スピンオフ的なタイトルでは「ニュータイプとは何か」という問題を主題に据えた作品は多くない。


  本作においてニュータイプは「先の大戦において使われた人間兵器」のような存在となっており、その呪縛は戦後15年が経過してもなお人々を縛り続けている。ある者はニュータイプこそが人類の正統進化形であると主張し、ある者はニュータイプ同様の力を持ちながら兵器のシステムに適合せず、オールドタイプでもニュータイプでもない紛い物として扱われたことに激怒する。人類の進化の先にある存在だったはずなのに、戦時中は決戦兵器のシステムの一部として扱われ、戦後は呪いとして人々を縛り付ける。本作におけるニュータイプは、そんな悲しい存在なのだ。


  ガロードとティファ、そしてその仲間たちは戦いながら旅を続け、ついには人類史上初のニュータイプと対面し、最終的にはニュータイプの呪縛を解くに至る。このニュータイプをめぐる旅路に「戦後」という時代がちゃんとリンクしているのが、『ガンダムX』のいいところだ。ニュータイプの呪縛は過去の戦争が生み出したものであり、そして戦後であるからこそ、呪縛を解いて新たな時代に踏み出すことができる。『ガンダムX』は、全話を通してこのような未来志向型のメッセージを視聴者に伝えることに成功した。ボーイ・ミーツ・ガールという主題に真摯に向き合っているという点も手伝って、全話見終わった時には非常に爽やかな気分になれる作品である。この爽やかさ、未来志向の清々しさが、現在でもこの作品を強く推すファンを生み出した原動力なのではないかと思う。


  確かに視聴率は振るわなかったし、ガンダムシリーズ全体を見ても少々地味な印象の作品であるかもしれない。30年近く昔のアニメでもあるが、それでも今見ても充分面白く、また未来に向かって踏み出すことの尊さを描いた内容は非常に真っ当なものだと思う。バンダイチャンネルを使えば比較的手軽に見ることができる作品でもあるし、未見の方にはぜひ試聴をおすすめしたい一作である。



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