小林千晃=クール・ダウナーキャラの払拭? 「自分の中にない、“演じにくい”と思う役を任されてからが本番」

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2024年11月02日 12:51  アニメ!アニメ!

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小林千晃
TVアニメ『超電磁マシーン ボルテスV』が熱狂的な支持を受けるフィリピンで実写化を果たした映画『ボルテスV レガシー』“超電磁編集版”が、現在絶賛公開中。さらに、再編集された“超電磁リスペクトTV版”が11月12日よりTOKYO MXで放送される。

このたび、主人公であり、ボルトマシン1号機パイロットのスティーヴ・アームストロングの吹替えを務める小林千晃にインタビュー。「アニメも吹替えも使い分けたりしない」というスタイルを学んだ先輩についてや、クール・ダウナーキャラの印象が強い彼が目指す声優像・役者像などを聞いた。

[文・取材=米田果織 撮影=You Ishii ヘアメイク=佐藤由貴 スタイリング=ヨシダミホ]

■小林千晃が熱血に叫ぶ! アフレコで“意識”したこととは?
――映画『ボルテスV レガシー』の日本凱旋作の主人公役に決まったときのお気持ちは?

僕よりも上の世代の先輩方も原作を好きなイメージがあったので、その先輩方を差し置いて僕が主人公でいいのかな、という葛藤がありました。

また、フィリピン版を見た時に、とても気合いが入った作り込みをされていて、俳優さんたちの演技の熱量にも驚かされました。そんな愛溢れる作品に出演することもプレッシャーには感じたのですが、少しでも僕が日本語で乗せられるものがあれば、ぜひ一緒に作品を盛り上げたいという気持ちになりました。

――そんな俳優さんの熱量を「声」で表現する上で大事にしたことは?

原音のイントネーションです。まず「ボルテスV」という単語も英語と日本語でイントネーションが違うので、どちらに合わせるのか何度もテストや話し合いを重ねました。その結果、せっかくの日本語吹替えということで、アニメ原作に合わせる形になりました。

演じる上で大事にしたのは、叫びの演技です。叫びの演技って、一辺倒になりやすいんですよ。このシーンで叫んでいるスティーヴは誰に対して怒っているのか、何を意識しているのかをしっかり理解しないと、似たり寄ったりなニュアンスの叫びになってしまう。そこはとくに意識して演じた部分でした。

――アニメのアフレコと実写作品の吹替えでは、意識する箇所は変わってきますか?

それは確かにあるのですが、この作品に関しては、フィリピン版の制作陣の方々が『ボルテスV』をとてもリスペクトして作ってくださっているので、その原作アニメの“イズム”みたいなものが乗っかっていた分、あまり違いはありませんでした。……と言いつつも、僕は他の作品でもアニメと吹替えで使い分けたりしないタイプではあるんですけどね。

――それは何か理由があって?

これまで僕が吹替えで参加した現場で活躍されている先輩方が変えていなかった、というのが一番の理由です。尊敬する方々が変えていないのであれば、僕もそのスタイルを貫きたいと思っています。

――その憧れた先輩というのは?

ズバリこの方、という人はいないのですが……いや、たくさんいすぎると言ったほうがいいのかな(笑)。うちの事務所だと、東地宏樹さんや内田直哉さん。吹替えの現場では、本当にお世話になってばかりです。その方々の背中を見て育ったと言っても過言ではない。一緒に飲みに行ったときにもお芝居の話になりますし、とても勉強になります。

――やはり役者さん同士だと、演技論など語り合うんですね。

アニメだけではなく、舞台も実写も吹替えもすべて演じられている方々なので、芝居への考え方が凝り固まっていないんです。大きなスケールで話してくれるので、相談に対する答えも柔軟で、話していて面白いといつも思います。お酒が入りすぎると、何を言っているかわからなくなるんですけど(笑)。

■小林千晃は“本当の声優”になりたい
――スティーヴ・アームストロングは、これまで小林さんが演じた役からはあまり想像できない熱血漢なキャラクターでした。役はオーディションで決まったのですか?

いえ、ありがたいことに指名していただきました。

――『地獄楽』の画眉丸や『マッシュル-MASHLE-』のマッシュなど、内に秘めた熱さはあるものの、一見クール・ダウナーといった印象のキャラクターを演じることが多いように感じていたので、少し以外な配役でした。

確かにそういったイメージが強いかもしれませんが、意外と熱血な役も演じてはいるので、自分の中ではそこまで珍しい役ではありませんでした。ですが、吹替えでここまで熱量の高い作品・キャラクターは初めてで、さらにアニメ的表現を求められることも初めてだったので、一体何を見て僕を選んでくれたのか気になりますね。

――スタッフさんいわく、「原作アニメで剛健一役(※フィリピン版のスティーヴ)を演じた白石ゆきながさんが、早めに引退されたこともあって、ファンの間で伝説的な存在に。それに勝てるような個性のある方がいいと探している中に、少しさびの入っている小林さんの声がいいと思ったのと、ジャンプ系の主人公をよくやられているけれど、熱血漢なスティーヴが他の役を想起させないという理由で選んだ」とのこと。予告映像を出したときも、まったく反発もなかったそうです。

おお! なかなか起用理由を教えてもらえる作品はないので、ありがたいですね。反発がなかったということで、よかったです。

――今のコメントにも「熱血漢な役が他の役を想起させない」とありましたが、小林さん=クール・ダウナーキャラと印象付けたと思う作品は何なのでしょうか。ご自身で思いつくものはありますか?

どうなんでしょう。僕の中では「とくにこの作品」というのはないかもしれません。僕自身も普段からそんなに明るい「ウェ〜イ!」ってタイプではないですし(笑)。楽しさを共有するよりも、勝手に自分の中で楽しんでいることのほうが多いです。そんな普段のテンションとわりと近いキャラクターを任せていただく機会が多く、それが印象に繋がったのではないでしょうか。

あと、これは僕だけに限ったことではないんです。新人の頃って、自分と近い役を任せていただくことが多いんですよ。先輩が「若手の頃は自分がやりやすい役に出会えるようにできている」と言っていました。そして、「自分の中にない、“演じにくい”と思う役を任されてからが本番」だと。売れているように見えても、同じような役ばかり演じている人もいるんです。10代から50代、青年からおじさんまで演じられるようになってからが「本当の声優」だと先輩が言っていたように、僕もその“本当の声優”になりたい。今は演じやすいクールなダウナーキャラが多いですが、これからはもっといろいろな役を演じていきたいです。

――それでいうと『GREAT PRETENDER』のエダマメ(枝村真人)のような役は、小林さんの中にないものが引き出される役だったのでしょうか。

う〜ん……エダマメも決して明るいキャラクターではないからなぁ。鬱屈としているし、諏訪部順一さん演じるローランに弄ばれて怒り狂っているだけで、エダマメも僕の中にあるものを出した役でした。ですが、新人の頃の、自分の中にある少ない引き出しを必死に開いて頑張っていたなと思い出しました(笑)。



■地道にコツコツ……気付けば“イケボ”に?
――今年は「ViVi国宝級イケメンランキング」のイケボ部門で1位を獲得しました。そもそも、小林さんが声優になるきっかけは何だったのでしょうか?

もともと俳優志望だったのですが、それに挫折したのがきっかけです。映画の吹替え版やアニメもよく見ていて、声のお芝居にも興味を持っていたこともあって、そこから声優を志すようになりました。

――その時点で、自身の声が“イケボ”であることは自覚されていた?

まったく! イケボだとかいい声だなんて言われたこともなくて。ここ数年でようやく言われるようになりました。

――それは意外です。それが今では国宝級のイケボに……。

たまたま今の時代に合った声だったのかなと思っています。髪型や服装も、その時代のトレンドってあるじゃないですか。僕の声もその1つだったんだろうな、と。僕からしたら、僕よりいい声だと思う人が無限にいますからね。

――大沢事務所を選んだきっかけは、その「いい声」の人が多かったからですか?

声はもちろん、僕の好きなお芝居をされる方が多かったからです。先ほどお名前を挙げた東地宏樹さんをはじめ、中田譲治さん、本田貴子さん、加瀬康之さん、川澄綾子さん……言い出すとキリがありません。作品やお芝居に真摯に向き合っている方が多い印象があって、大沢事務所に入りたいと思いました。

――声優という職業に就いてみて、一番うれしかったこと、また一番の挫折を教えてください。

うれしかったことは、常に更新されていっている気がします。この『ボルテスV レガシー』もそうですが、今まで関わりのなかった監督、プロデューサー、音響監督、役者さんたちと出会い、一緒に作品を作れることが一番うれしいです。そして、「あのときの演技がよかったからまた一緒にやろう」と再び呼んでくれることがあったらもっとうれしいですね。

挫折に関しては、やはり新人の頃になってしまいます。オーディションに受からない、仕事がない、先に同期が売れる……とか。デビュー作で主演! 出世街道まっしぐら!みたいな声優人生は歩めないと実感しました。でも、それが嫌だったわけではないんです。地道にコツコツとやっていって、食べていける程度になれればいいな……くらいに思っていました。基本的にあんまり気にしない性格なんですよね(笑)。だから、まだ挫折という挫折は味わっていないのかもしれません。

――では、これまで受けたディレクション、または先輩から受けた言葉・アドバイスの中で、一番印象に残っていること/大事にしている言葉は?

立場や功績を勝ち得ている人の中で、邪な気持ちで仕事に臨んでいる人ではない、心血を注いで作品を作っている人こそ信頼して、その「本物」になりなさいと言っていただいたことがあります。その「本物」を追い求めつつも、僕ができない表現を持っている邪な人もいて。視野を広く持っていろんなものを吸収しながら自分の好きなお芝居を見つけられるようにしたいと考えるようになりました。



■まだまだ小林千晃は100%で駆け抜ける!
――今年30歳を迎えた小林さん。「30代はこうあろう」という何か目標はありますか?

無理に変わろうとは考えていません。受動的な仕事なので、「30代になったからこんな役がやりたい!」と思っても、「じゃあやらせるね」という世界ではないので。「もうそろそろ小林千晃にこんな役を任せてもいいだろう」と見極められたときにチャンスが来ると思うので、今はそう思ってもらえるように頑張らなきゃいけない時期ですね。

ですが、無理に大人ぶった演技をしても中途半端になってしまうので、そのためにも今持っている引き出しも大事にしつつ、新たな表現を見つけていかなければなりません。

――オーディションでは先輩と同じ役を受けることもあると聞きます。そう思うと、声優という職業は本当に気が抜けませんね。

50代の方と同じオーディションを受けることもありますからね。同級生役を演じることもありますし、僕より10歳も年上の先輩が年下役を演じることもあります。やはり役幅や年齢は気にせずに、“表現の幅”を広げていかなければならないと思います。ただ、10年後に続編が放送されることもある世界なので、今あるものも持ち続けなければならないですし……本当に大変な職業だと思います。

――そんな声優業界で、今後もたくさんの作品に出演していくことになると思います。どんな役者になりたいかなど、展望はありますか?

仕事も楽しみつつ、プライベートや遊びの時間を思いっきり楽しめる大人に魅力を感じます。例えば、朝早く起きてゴルフやサーフィンを楽しみ、充実した時間を過ごしたあとに車でスタジオまで行って、熟達したお芝居をして帰る……みたいな(笑)。そういう遊び心のある大人になりたいです。そのためにもっと仕事を頑張らなければいけないんですけどね。今が仕事100だとしたら、だんだんと趣味30・仕事70みたいにバランスを取っていけるようになれればいいですね。

――ありがとうございました。最後に『ボルテスV レガシー』を楽しんでいる方、これから観られる方、そして11月12日よりスタートするTVシリーズ『ボルテスV レガシー』“超電磁リスペクトTV版”の放送を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

もともと『ボルテスV』ファンの方はもちろん、初めてシリーズを見られる方や、どんな世代の方にも刺さる作品だと思っています。そして、“超電磁リスペクトTV版”では『ボルテスV レガシー』の合間にどんなことが起こっていたのか、またその前後も描かれているので、『ボルテスV』の世界にどっぷり浸れるテレビシリーズとなっています。面白くエキサイティングで、とても見やすい作りになっていますので、ぜひご覧ください。

■『ボルテスV レガシー』とは
『超電磁ロボ コン・バトラーV』の大成功を受け制作された長浜忠夫総監督の「長浜ロマンロボシリーズ」第2弾にあたる、1977年から1978年にかけて放送されロボットアニメブームを巻き起こした日本のTVアニメ『超電磁マシーン ボルテスV』。遠い宇宙からプリンス・ハイネル率いるボアザン星の侵略軍が地球に飛来したことをきっかけに、健一をはじめとする剛三兄弟と峰一平、岡めぐみの5人が密かに建造されていたボルテスVに搭乗しボアザン星人と闘う物語を描いた。

『ボルテスV レガシー』はそれから約半世紀の時を経て、そんな同作が熱狂的な支持を受けているフィリピンで実写化を果たした作品。2024年10月18日に、生まれ故郷の日本で映画の“超電磁編集版”が公開を迎えた。

TOKYO MXで放送される“超電磁リスペクトTV版”は、フィリピンで放送された90話が全20話へ大胆に再編集されたもの。映画“超電磁編集版”では明かされなかった、主人公たちの生い立ちや敵であるボアザン帝国側の事情、地球征服のために続々と投入されるビースト・ファイターなど、ストーリー構成も新たにおくられる。

なお吹替キャストには、小林をはじめ、金城大和(2号機パイロットのマーク・ゴードン役)、花倉桔道(3号機パイロットのビッグ・バート・アームストロング役)、小市眞琴(4号機パイロットのリトル・ジョン・アームストロング役)、中島愛(5号機パイロットのジェイミー・ロビンソン役)、諏訪部順一(敵であるボアザン帝国地球征服軍司令官であり、ボアザン帝国の皇族でもあるプリンス・ザルドス役)などが名を連ねた。

『ボルテスV レガシー』
大ヒット上映中
監督:マーク A. レイエス V 脚本:スゼッテ・ドクトレーロ
シニア・エグゼクティブ・プロデューサー:ヘレン・ローズ・セセ、ラーソン・チャン
エグゼクティブ・プロデューサー:ダーリング・プリドトレス、ティージェイ・デル・ロザリオ、白倉伸一郎
キャスト:
ミゲル・タンフェリックス、ラドソン・フローレス、マット・ロザノ、ラファエル・ランディコ、イザベル・オルテガ
マーティン・デル・ロザリオ、リーゼル・ロペス、カルロ・ゴンザレス、エピ・クウィゾン
アルバート・マルティネス、ガビー・エイゲンマン、デニス・トリロ、カーラ・アベラナ
製作国:フィリピン 原題:Voltes V: Legacy 製作年:2024年
日本配給:東映
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