2024年WEC世界耐久選手権の最終戦バーレーン8時間レースで総合優勝を飾った8号車トヨタGR010ハイブリッド(トヨタ・ガズー・レーシング)のセバスチャン・ブエミは、予想外の逆転勝利を「夢のよう」と語り、レース終盤の巧妙な戦略が勝利の土台となってマニュファクチャラー選手権を奪い取ったと振り返った。
ブエミの乗る8号車トヨタは、8時間レースの最終盤で、マット・キャンベルの5号車ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)をパスしてレースリーダーとなり、トヨタに決定的な勝利をもたらした。
しかしブエミ、平川亮、ブレンドン・ハートレーの8号車トヨタクルーは、多くのライバルがハードタイヤでスタートしたのに対し、ミディアムタイヤでスタートするという戦略を採った。
しかし、首位走行中の第1スティントで、小泉洋史の乗る82号車シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R(TFスポーツ)にターン1で追突され、逃げの作戦が水泡に帰してしまう。そのスティントを担当したブエミは、序盤について次のように振り返る。
「もちろん、ロスを取り返さなければならなかった。ただ、20号車BMW MハイブリッドV8(BMW MチームWRT)の後ろを20周ほど走ってしまったことで、タイヤがかなり傷んでしまった」
「ミディアムタイヤが必ずしも有利ではないことはわかっていたが、タイヤを機能させる唯一の方法は先頭に立つことだったと思う」
「そうすれば、さらにリードを広げることができたはずだった。だが、スピンした後は苦戦したので、2番目のスティントを少し短くして戦略を変更した」
続くハートレーのスティントでは、チームは予選で使用したミディアムを使うことを選択。その後の平川のスティントでは、レースで初めてハードタイヤを装着した。
ポイント圏外で隊列に戻った後は、徐々に順位を回復して7番手付近を走行。いまいちペースが伸びない様子からは、8号車は優勝争いから外れたようにも見えた。しかし、中盤以降にセーフティカーが2度介入したことで8号車は徐々にポジションを回復し、優勝争いに加わることになる。
最初の決定的瞬間は、88号車フォード・マスタングLMGT3(プロトン・コンペティション)がコース上で停止してセーフティカー(SC)が入った際、ピットストップでタイヤを交換しないことを選択した時だった。これでトラップポジションを4番手まで回復することに成功する。
しかしここで8号車はタイヤの差で苦戦、平川は15号車BMWや6号車ポルシェ、さらに50号車フェラーリ499P(フェラーリAFコルセ)にもパスされ、7番手でピットインすることになった。
残り2時間を切ってブエミに交代した時点で、8号車トヨタは13番手で隊列に合流。首位との差は50秒弱にまで開いていた。
しかし、ここで2度目のSCが導入。ライバルがピットインしたことで10番手まで順位を上げ、ギャップが帳消しとなった状態でラストスパートに臨んだ。
ブエミは、スタートスティントでは使っていなかったハードタイヤでプッシュして急速に挽回し、最後のピットストップを迎える頃には3番手にまで順位を上げることに成功する。
「僕がマシンに飛び込んだとき、8号車は10番手くらいだったと思う」と彼は語った。
「だから、その時点では、基本的に追い抜くのがいかに難しいかを知っていたので、戻るチャンスはないだろうと思っていた」
「そして、(マニュファクチャラー選手権を争う)ポルシェが2番手を走っているのを見て、『これは、どうしたって勝たなければならないな』と思ったよ」
「その後は、タイヤのわずかなアドバンテージが活きて、2〜3周ごとに1台ずつ追い抜くことができた」
こうしてマシンが優勝戦線に復帰すると、ブエミは2番手で最終スティントを迎え、温存していたミディアムタイヤを投入した。
「最後は新品タイヤだったので、それを最大限に活用したかった」とブエミは語った。
「燃料にも問題がなかったので、最後から2番目のスティントは短縮した。多分、全体で25周くらいのスティントが2回あったはずだ」
「最初のスティントは32周に延ばしていたが、2回目はおそらく19周ほどしか走れなかった(記録上は25周)。その代わりに早めにピットインして、あとで新品タイヤでプッシュして巻き返すことを選んだんだ」
「賢い選択だったと思う。最終スティントは、早めのピットインで給油量を少なくでき、同時にタイヤのアドバンテージも長く活かせたからね」
ブエミは、その通りにミディアムタイヤでレース最速ラップを記録。残り39分でキャンベルをオーバーテイクし、最終的に27秒の差を開いた。
「もちろん、夢のようだったよ。勝てるとわかったあとは、すべてが思い通りにいったんだ」
「シーズン中はうまくいかないことも多かったが、今日はうまくいってよかったよ」