延期されて日曜日の現地時間朝7時半から開始されたF1第21戦サンパウロGPの予選で、タイムアタック中に他車のクラッシュによる赤旗でQ2敗退となったマックス・フェルスタッペン(レッドブル)。一方、ドライバーズ選手権で2位のライバル、ランド・ノリス(マクラーレン)はポールポジションを獲っていた。
予選を終えた段階で、ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)は「ここでペナルティを取って、6基目のエンジンを入れる作戦は失敗に終わるかもしれない」という予感が頭をよぎったという。
だが、その心配はレースがスタートすると徐々に消えていった。
まずスタート直後の素晴らしいダッシュだ。17番手からスタートしたフェルスタッペンは1コーナーまでに3台を抜くと、2コーナーから3コーナーにかけての左コーナーでレコードラインを外してアウト側を走行。ここで3台を豪快にオーバーテイクしていった。この走りを見た折原GMは「少なくとも数ポイントは獲得して、ノリスとの差も一気に縮まらないだろう」と最悪の事態は回避できることに安堵していた。
しかし、フェルスタッペンの鬼神の走りはこれで終わることはなかった。2周目にルイス・ハミルトン(メルセデス)をオーバーテイクして10番手となると、5周目にピエール・ガスリー(アルピーヌ)を抜いて9番手へ。6周目にはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)を、10周目にはオスカー・ピアストリ(マクラーレン)を、そして11周目にはリアム・ローソン(RB)をとらえて、瞬く間に6番手まで浮上してきた。
このフェルスタッペンの走りを支えたのが、レッドブルのピットだった。雨脚が強くなり始め、上位勢が相次いでピットインするなか、レッドブルのストラテジストはステイアウトを選択。ここで、フェルスタッペンに幸運の女神が微笑む。ステイアウトして2番手に浮上した直後に赤旗が出されたことで、フェルスタッペンはポジションを失うことなく、タイヤを交換することができたのだった。
「チームは素晴らしい仕事をしてくれた。驚くほど冷静で、しかも正しい判断を下してくれた。チームに感謝の気持ちを伝えたい」
運だけではない。2番手に浮上したフェルスタッペンは、赤旗後、再開されたレースでも異次元の走りを披露した。43周目に先頭を走るエステバン・オコン(アルピーヌ)をオーバーテイクして、ついにトップに立った。その後もフェルスタッペンは自己ベストを更新し続けて後続を寄せ付けず、最終的にファステストラップも獲得してトップでチェッカーフラッグを受けた。
F1で17番手以下からスタートして優勝するのは、2005年日本GPでのキミ・ライコネン以来の快挙。この日のフェルスタッペンの走りは、まさに伝説のドライビングだった。その走りに驚いていたのは、折原GMらレッドブル・ホンダRBPTの関係者だけではない。じつはフェルスタッペン自身も予想していなかった。
「正直、トップでフィニッシュできるとは思っていなかった。今日は自分でも驚いている」
この日のフェルスタッペンの走りをクリスチャン・ホーナー代表はこう言って称えた。
「このようなコンディションではドライバーの腕が如実に表れるが、この日、マックスは他のドライバーとは一線を画していた。予選が終わった段階では、レースではトップ5に入れば最高だと考えていたが、なんというサプライズだ。これは間違いなく、マックスのベストレースのひとつだ」
これで44点まで縮められていたドライバーズポイントは、62点に広がった。スペインGP以来11戦ぶりの勝利は、チャンピオンシップ争いにおいて、大きな意味を持つ1勝となった。