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「ぶっ壊す」と息巻く政党もあるほど、何かと批判のやり玉に上がるのがNHK(日本放送協会)だ。10月、X(旧:Twitter)ではNHKが34年ぶりに赤字になったことについて「一体何にそんなに金がかかっているんだ」と怒りの声を上げる投稿が多数の共感を集めていた。決算が発表されたのは少し前の話だが、今でも根強く声が上がっているようだ。
【画像】人件費がこんなに? NHK、2023年度の決算概要はこちら
NHKが発表した2024年3月期決算を調べてみると確かに、6328億円という巨額の受信料収入を得ているにもかかわらず赤字となっているようだ。
この受信料収入は、Netflixのアジア太平洋地域(APAC)の総売り上げよりも大きい金額だ。ちなみにNetflixの料金プランは最安で890円(2024年10月10日時点)であり、NHKの受信料(地上契約・2カ月払額2200円)の方が高い。
なぜこれほど巨額の受信料収入を得ても、赤字になったのか。決算資料を見ながら冷静に分析してみたい。
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●136億円赤字のワケ
決算資料によると、NHKの売り上げに相当する事業収入は「その他の収入」203億円を合わせて6531億円であるのに対し、事業支出は6668億円だった。
その結果、利益に相当する「事業収支差金」は136億円の赤字となり、前期比で399億円マイナスとなった。赤字額は、NHKが繰り越してきた資金を取り崩すことで補填(ほてん)するという。
受信料もまた、前期比で396億円のマイナスとなっている点に注目したい。一方で事業支出は34億円の減少にとどまる。つまり、受信料収入が減少したにもかかわらず、コストがほとんど据え置きとなっていたことが赤字の主要因であるといえる。
なかでも、給与と退職手当・厚生費の項目が高額である点に注意したい。NHKの給与総額をみると、2024年3月期で1100億円となっている。これに加えて、退職手当・厚生費が年間443億円程度かかっている。
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人件費や退職金、年金などを合計すると年間約1500億円に達し、実に売り上げの4分の1近くが充てられていることになる。
●Netflixよりも売り上げは大きいのに、利益はマイナス
Netflixの業績を2023年の決算資料から確認しよう。同社のAPAC地域における売り上げは37.6億ドル(約5767億円)。該当地域における営業利益は開示されていないが、同社全体の営業利益率が20%前後であることから、おおよそ7.5億ドル(約1144億円)前後とみられる。
Netflixは同地域に約1500人の従業員を有しており、APAC地域における人件費は1億3200万ドル(約198億円)と見積もれる。
同社の人件費は1人当たり1000万円を超え、高額にも思われるが、売上高に占める割合は3.4%と小さい。一方、売り上げの4分の1が人件費などに充てられているNHKは1万268人の職員を抱えており、Netflixの約7倍多い。
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もしNetflixの売上高における人件費率がNHKと同じ25%になったら、APAC地域における利益は261億円の赤字になる。
もっとも、NetflixとNHKとではビジネスモデルが違うため、単純比較はできない。しかし、仮にNHKの赤字が今後も進行していくならば、そもそもNHKのビジネスモデル自体が破綻していると言えないだろうか。
●人口減・契約拒否で苦境
NHKの受信料収入は、テレビを所有する世帯から強制的に徴収する制度に依存しているが、人口減少や契約を拒否する人の増加により、安定的な収入の維持が厳しくなっている。
また、NHKの収益構造はこの受信料収入に大きく依存している。多様な収益源を確保できていないことも課題だ。
そして収益の多くは先述した人件費のほか、国内の放送網維持やビルなどの設備投資(2023年度は国内放送費4620億円、設備投資740億円)に充てられ、グローバルでの収益源となりうる国際放送費には約200億円しか投じられていない。
デジタルコンテンツやインターネットサービスは差別化が難しくなってきている。国際市場での成長や多角的な収益確保に向けて十分な投資を行えているのか疑問だ。
ではNHKの活路はどこにあるのか、英国の公共放送、BBCのビジネスモデルと比較して考えてみたい。
●NHKと対照的なBBC
厳しい状況のNHKと対照的なのがBBCだ。BBCはNHKと同じく、「広告収入」を得ない代わりに、BBC Studiosなどの商業部門で番組の権利を販売するなどして、国際市場からの収益を確保している。
そして、BBCのオンデマンド配信「iPlayer」も英国内で定着しており、デジタル化に対応するとともに多角的な収益構造を持つことに成功している。
例えば、BBCの人気番組『ドクター・フー』や『シャーロック』は、世界中で視聴される収益源となった。そして、収益以上に重要な観点がもう一つある。
それは、BBCが自国の国境を超えて人気コンテンツを提供することで、「英国文化の発信」という公共放送の存在意義を果たしているということだ。現状、NHKの国際展開はNHK Worldを通じて行われているが、国際的影響力は限られ、また収益源としての役割も弱い。
対して、BBCはその運営方針において独立性を強調し、視聴者から広く支持されている。BBCのニュースやドキュメンタリーは、世界的にも公平性が評価されており、国際的な報道の場面で信頼できる情報ソースとして引用されることも珍しくない。
NHKも独立性を強調するが、今年8月には、ラジオの放送原稿を読み上げていた中国籍の外部スタッフが、中国語で「釣魚島と付属の島は古来、中国の領土です」などと発言したとして契約解除されるという、前代未聞の不祥事が発生したばかりだ。
また、NHKは公共放送としての使命を果たすため、災害時の迅速な情報提供や教育コンテンツの充実に努めているが、その意義は国内市場に限定されがちだ。
公共放送の目的が日本国内における情報提供や教育、文化継承にとどまっている現状を打破し、国際的な視点を持って正確かつ信頼できる情報を発信する体制も、より一層強化していくべきではないか。
●BBCの受信料徴収はもっと厳しかった
ちなみにBBCは、受信料を払わないと罰金を徴収する仕組みで、NHKの受信料モデルより厳しい。近年では、BBCのストリーミングサービスの普及に伴い、若年層を中心としたライセンス料の支払い範囲の拡大に疑問を抱く人が増え、代替的な料金の導入を求める声も上がっている。
この点はNHKもBBCも似ており、現代の高度化した情報社会において、公共放送の役割を再定義しなければならないのはどの地域も同じなのかもしれない。
そうはいってもやはり、NHKが慢性的な赤字体質に陥り、経営危機ともなれば救済のために巨額の公的資金が投入されるリスクもある。
それを避けるためには、柔軟な収益モデルへの転換とともに、デジタル化戦略の強化、そして日本人だけからお金を徴収するモデルから、国際市場に打って出るビジネスモデルの転換が必要だろう。
デジタル時代における公共放送の在り方を再定義し、国内外の視聴者に対して価値を提供し続けるためには、NHKの持続可能な改革と収益モデルの見直しが不可欠である。
●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。Twitterはこちら
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