【全日本大学駅伝】駒澤大が「意地の2位」で証明した底力 山川の爆走に篠原の気迫は箱根駅伝への自信に

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2024年11月05日 12:41  webスポルティーバ

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史上初の全日本大学駅伝5連覇はならなかった。だが、3年生のスーパーエース、佐藤圭汰を欠き、手負いと見られていた駒澤大は、最終8区に入った時点で青山学院大と國學院大に2分30秒以上離されていた状況から、アンカー・山川拓馬の爆走もあり、青学大を抜き、優勝した國學院大にも迫り、あらためてその底力を見せつけた。

出雲駅伝に続く2位という結果も、序盤の出遅れを大きく挽回した総合力。それは、駒大にとって箱根駅伝に向けての大きな自信、ライバルにとっては脅威となるものだった。

【優勝監督も警戒し続けた山川の爆走】

 7区を終え、4秒の僅差で最終第8区につないだ1位・青山学院大と2位・國學院大がともに総合力の高さを見せつけていた。最終的には、10月の出雲駅伝を制して充実ぶりを見せている國學院大の上原琉翔(3年)が9.5kmから青学大の塩出翔太(3年)を引き離し、國学院大が全日本大学駅伝初優勝、今季2冠目を手にした。
だが、その8区で國学院大の前田康宏監督を不安にさせていたのは、青学大ではなく駒大だった。3区から7区で順位を16位から3位と挽回して迎えた8区、山川拓馬(3年)は國學院大とは2分33秒差、青学大とは2分37秒差をつけられてスタートしたが、ゴール時には國學院大に28秒差まで迫る57分09秒の爆走を見せていたからだ。

 前田監督が「山川くんが詰めてきているのを知っていたから、ゴール直前に上原の姿を見るまで勝てたとは思わなかった」と苦笑する結果だった。

 その山川は「時計をつけないのでペースは全然わからなかったが、とにかく突っ込んでそのまま一定のペースで刻み、ラストで上げるというレースプランを大八木(弘明)総監督や藤田(敦史)監督と話して決めていた」と語るように、7kmを青学大の塩出より1分早いハイペースで通過。その後もその勢いを維持していった。

「5kmの時点で前の中継車が見えたので、『もう行くしかない』と思って行き、15km過ぎくらいで(塩出の)背中が見えたので、『もう、絶対に抜いてやろう』と思った。そうしたら前に上原くんもいたので『そこも抜きたいな』という気持ちで突っ込んでいきました。(最後は)背中が見える状態での2番だったので、すごく悔しかったし、もう少し力が足りないなと思った。

 歴代の強い先輩方だったらこういうときは絶対に勝ってきただろうと思うので、そこがまだまだ自分に足りないところだと感じました」

 山川はこう悔しさを表現したが、出雲に続く2位とはいえ、駒大の底力が強烈なインパクトを与えたレースでもあった。

「強い相手に対して2分以上を引っくり返したというのは、1995年に56分59秒の区間新を出した渡辺康幸さん(当時・早大)と同等ぐらいのインパクト。これはもう、とんでもないことだと思います」と興奮気味に振り返ったのは駒大の藤田監督。

「普段の練習を見ていて、『山川はちょっと次元が違うな』という感じはしていました。ケガの多い選手なのでとにかく抑えさせたが、その余裕度が去年と比べると格段に上がっていたので『これは、全日本はとんでもない走りするぞ』と思って。だからこそ前半に(チームが波に)乗れなかったのはちょっと悔しいけど、駅伝はもう、"たら・れば"を言ってもしょうがないですから」

 出雲に続き優勝を逃した悔しさは残ったものの、山川の爆走はチームとしての手応えをつかませてくれるものでもあった。

【篠原の意地と序盤の出遅れをカバーした総合力】

 全日本では5連覇を狙った駒大だが、今回は序盤で大きく崩れた。

 1区は後半まで超スローペースの展開。そのなかで出雲5区区間2位だった島子公佑(2年)はトップに7秒差、14位での中継。続く2区は当日変更で出走となった、出雲1区区間6位の期待のルーキー、桑田駿介(1年)。だが、桑田が序盤から精彩のない走りになってしまった。

 桑田の2区起用について藤田監督はこう話す。

「やっぱり8人を揃えられなかった部分はあるし、1年生にあの区間をまかせたというのは選手層の薄さから来るもの。もともと桑田は高校駅伝でも4区を走っていたように単独走が得意だけど、今年は力をつけているので2区でもやれるのではという考えもあって据えたが、プレッシャーなどいろんな重荷もあったのかなと思います」

 桑田は、創価大の吉田響(4年)が先頭でガンガン引っ張る展開となるなか、区間賞でトップ中継を果たした青学大の鶴川正也(4年)から2分19秒遅れの区間17位に終わった。

 藤田監督は「うちのチームは総監督の大八木の時からそうだけど、将来エースになり得る人間は1年生でもエース区間に入れていましたから。2022年世界陸上のマラソンに出場した西山雄介(トヨタ自動車)も、1年で2区を走って抜かれていますが、その後は成長した。それが一番大事なことだと思うので、この悔しさを持って桑田がどう成長していくかが非常に楽しみです」と言う。

 もっとも、3区からの立て直しには力強さがあった。

「ズルズルいかないで追撃態勢を整えられたのが大きい。それができた走りには非常に成長した部分を感じた」と藤田監督が評価した伊藤蒼唯(3年)が区間2位の走りで8位に上げると、大学駅伝初出場組の4区・谷中晴(1年)と5区の村上響(2年)、6区の安原海晴(2年)がそれぞれ区間3位、5位、3位でつなぎ、チーム順位を5位に押し上げる。

 そして17.6kmのエース区間7区では、主将の篠原倖太朗(4年)が前で競り合う青学大・太田蒼生(4年)と國學院大・平林清澄(4年)を追いかけ、そのふたりを10秒上回っての区間賞獲得で3位まで押し上げた。

「出雲で國學院の平林に負けたからといって、別に自信を失うことはなかったが、応援してくれた人たちが悲しんでいたので本当に申し訳なかった。だから今回はやり返すしかないと思っていた」という篠原。藤田監督は当初、篠原と桑田の配置を2区と7区でどうするか迷っていたが、「うちはこれまで田澤廉や鈴木芽吹(ともに現・トヨタ自動車)を7区に入れてきたように、大八木総監督も駒澤のエースだったら7区じゃないかと言い、私もそのとおりだと思った。本人も7区をやりたいとずっと言っていたし、1回負けた平林には2度は負けたくないという強い気持ちもあったので、その覚悟があったら大丈夫だなと思った」と篠原の7区起用を決断したという。それが8区の山川とともに駒大のストロングポイントとなって機能した。

「篠原は今まで、ほかの選手と一緒に走るレースを得意としていて、単独走があんまり得意ではないと言われていたが、今回は単独走で、しかも前で競り合っていたふたりに勝つだけではなく、田澤の区間記録に19秒差まで迫る記録を出して区間賞を獲ったことは非常に強かった。駒澤は本当に転んでもただで起きないというところを見せられたので、負けはしたけど、選手は頑張ったなと思います」

【インパクトある2位は箱根への自信に】

 こう話す藤田監督は箱根駅伝に向け、大きな収穫のある大会になったという。

「今年は去年のように最初から3冠を狙える力があるチームとは私も言ってなかったし、『1個ずつだよ』と選手たちにも言ってきました。それで出雲では桑田や島子、今回は谷中や村上、安原という三大駅伝を初めて走った選手たちがしっかりと区間上位でまとめることができた。それでまた選手層が厚くなったので、箱根に向けては見通しが少し明るくなったところがあります。

 もっとも、今度(箱根)は10人揃える、16人揃えるとなったときにはやっぱり國學院や青学は圧倒的な選手層を持っているので、そこと戦うためにはどうしなければいけないか。となると限られた選手を故障や体調不良がなく、つくり込んでいかなければいけない。

 ただ、私が思っているのは、どんなに選手層が厚くても箱根は10人しか走れないということ。その10人を揃えることができれば私たちも戦えるという自信は今回で間違いなくついたので、これは面白くなってきたなと思います」

 箱根を睨めば特殊区間の山(5区と6区)には経験者もいて、出雲と全日本を故障で回避したスピードランナーの佐藤圭汰(3年)も戻ってくることを想定すれば、強みが増してくる。藤田監督は、今回の篠原と山川の快走で箱根の区間配置に悩みも出てきたという。

「今日の山川の走りを見たら、やっぱり箱根では2区をやらせたいですよね。でも強さを見せた篠原もエースとして2区をやりたいはずだから、そこはちょっと悩みますね。それに今回は(前回の箱根3区で爆走した)青学の太田くんに篠原が先着しているわけだから、3区でそのふたりの対決になったら観ている人たちは喜ぶし、楽しいだろうなと思いますね」

 贅沢な悩みを口にするほどの篠原、山川の快走だったが、藤田監督はすぐに表情を引き締めて、「ただ、前回の箱根では主力を1区から並べて負けたので、ちょっといろいろ勉強しなければいけない部分はあります」と来る箱根に想いを巡らせたが、その心の内には、勢いに乗る國學院大と総合力の高い青学大に、十分対抗できるという自負も感じる。

 篠原は箱根までの間、11月末の八王子ロングディスタンスの10000mで日本学生記録を狙う予定だという。「そうなれば5000mと10000m、ハーフマラソンと学生記録が揃うので、それをやって(学生生活を)終わりたい」と意欲を見せる。また、山川は「夏は故障していて1次合宿ができず練習の走り込みができていないので、このあと記録会には出ず練習を積み上げていく」と話す。

 今回のインパクトのある2位で王座奪還を目指す駒大が、どんな布陣で箱根駅伝に臨むのか。楽しみになってきた。

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