そこで今回は、伊勢物語「東下り」について、スタディサプリの古文・漢文講師 岡本梨奈先生に解説してもらった。
【今回教えてくれたのは…】
出典:スタディサプリ進路
岡本梨奈先生
古文・漢文講師
スタディサプリの古文・漢文すべての講座を担当。
自身が受験時代に、それまで苦手だった古文を克服して一番の得点源の科目に変えられたからこそ伝えられる「わかりやすい解説」で、全国から感動・感謝の声が続出。
著書に『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の1冊読むだけで漢文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『古文ポラリス[1基礎レベル][2標準レベル]』(以上、KADOKAWA)、『古文単語キャラ図鑑』(新星出版社)などがある。
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『伊勢物語』とは?
平安時代前期に成立した「歌物語〔=和歌がどのような事情で、誰に、どういう心情で詠まれたのかを伝える物語〕」で、全部で125段あります。作者は未詳。
各段の出だしが「昔、男ありけり」となっていることが多く、この「昔男」は一般的に在原業平(ありわらのなりひら)と考えられています。
成人から辞世の歌〔=この世を去る時に詠む歌〕までの一代記です。
恋歌が中心で、様々な女性との恋愛話が描かれています。
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漫画でわかる!伊勢物語「東下り(あずまくだり)」のあらすじ
出典:スタディサプリ進路
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伊勢物語「東下り(あずまくだり)」の登場人物は?
●昔男●男の友人二人ほど(旅行同伴者)
●修行者(=京の知人)
●渡し船の船頭
伊勢物語「東下り(あずまくだり)」の原文と現代語訳を読んでみよう
※緑は下記にポイント記載昔、男ありけり。
昔、男がいた。
その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり。
その男は、自分の身を役に立たないものと思い込んで、京にはいるまい、東国の方に住むのによい国を求めようと思って行った。
もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり。
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道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。
道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。
三河の国、八橋といふ所にいたりぬ。
三河の国の八橋という所に行き着いた。
そこを八橋といひけるは、水行く河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。
そこを八橋といったのは、水が流れる川が八方に分かれているので、橋を八つ渡してあることによって、八橋といった。
その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯(かれいひ)食ひけり。
その沢のほとりの木陰に馬から下りて座り、乾飯〔=米を乾燥させたもの〕を食べた。
その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
その沢にかきつばたがたいそう素晴らしく咲いていた。
それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字(いつもじ)、句の上(かみ)に据ゑて、旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める。
それを見て、ある人が言うことには、「かきつばたという五文字を和歌の各句の頭に置いて、旅の気持ちを詠みなさい。」と言ったので、詠んだ(歌)。
唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
唐衣が何度も着ていると身になじむように長年なれ親しんだ妻が(都に)いるので、はるばる来てしまった旅をしみじみ悲しく思うよ
と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
と詠んだので、人々はみな、乾飯の上に涙を落として、(乾飯は)ふやけてしまった。
出典:スタディサプリ進路
行き行きて、駿河の国に至りぬ。
さらに行き進んで、駿河の国に着いた。
宇津の山に至りて、わが入らむとする道は、いと暗う細きに、蔦(つた)、楓(かへで)は茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。
宇津の山に着いて、自分が入ろうとする道は、とても暗く細いうえに、蔦や楓は茂り、なんとなく心細く、思いがけない目に遭うのだろうと思っているところに、修行者に出会った。
「かかる道は、いかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なりけり。
「このような道を、どうしてお通りになるのか。」と言うのを見ると、見知った人であった。
京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
京に(いる)、あの人のもとにと思って、手紙を書いて(修行者に)託した。
駿河なる 宇津の山べのうつつにも 夢にも人に あはぬなりけり
駿河にある宇津の山のほとりの「うつ」という名のように、現実でも夢の中でもあなたに逢わないことだよ
富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
富士山を見ると、五月の下旬なのに、雪がとても白く降り積もっている。
時知らぬ 山は富士の嶺(ね) いつとてか 鹿の子まだらに 雪の降るらむ
季節をわきまえない山は富士の山だ。今をいつだと思って、子鹿のまだら模様のように雪が降り積もっているのだろう
その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね上げたらむほどして、なりは塩尻のやうになむありける。
その山は、都でたとえるならば、比叡山を二十くらい重ね上げたような高さで、形は塩尻のようであった。
なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる川あり。
なお進んで行って、武蔵の国と下総の国との間に、たいそう大きな川がある。
それをすみだ河といふ。
それを隅田川と言う。
その河のほとりに群れゐて、思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
その川のほとりに集まって座って、(都に)思いをはせると、果てしなく遠くまで来たものだなあと、お互いに心細くになっているところ、川の渡し船の船頭が、「はやく船に乗れ。日も暮れてしまう。」と言うので、乗って渡ろうとするが、人々はみななんとなく悲しくて、都に恋しく思う人がないわけではない。
さる折しも、白き鳥の嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水の上に遊びつつ魚(いを)を食ふ。
ちょうどその時、白い鳥でくちばしと脚が赤く、鴨ぐらいの大きさの鳥が、水面で遊びながら魚を食べている。
京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
都では見かけない鳥なので、誰も(この鳥を)知らない。
渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
船頭に尋ねると、「これは都鳥だ。」と言うのを聞いて、
名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと
「都」という名を持っているのなら、さあ尋ねよう、都鳥よ。私が恋い慕う人は無事かどうかと
と詠めりければ、船こぞりて泣きにけり。
と詠んだので、船に乗っている人はみんな泣いてしまった。
出典:スタディサプリ進路
伊勢物語「東下り(あずまくだり)」の定期テスト対策!ポイントをチェック!
「昔、男」の「男」とは一般的に誰だと考えられていますか
最初にご紹介したように、「昔男」は在原業平(ありわらのなりひら)と一般的に考えられています。記述問題だと「漢字で書け」と言われることも多いので、きちんと漢字で書けるようにしておきましょう。
「東の方に住むべき国求めにとて行きけり」の「べき」の文法的意味は何ですか
「適当」の意味。助動詞「べし」の連体形で「〜するのがよい・するのにふさわしい」と訳します。
比較・選択の文で使用されている「べし」は「適当」の意味になりやすく、ここでは、「東の方」が比較・選択と考えられます。
住む国は東だけではなく、東西南北360℃探すことが可能な中、比較して「東の方」という方角を選んでいると考えられ、「東国の方に住むのによい国を求めようと思って行った」と訳しておかしくないため、この「べき」は「適当」です。
「もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり」の「して」の文法的説明をしなさい
ともに行う動作の人数を表す格助詞。「〜とともに・〜で」と訳します。
「かきつばたといふ五文字、句の上に据ゑて」とあるが、このように和歌の各句の頭をつなげると、ある言葉になる修辞技法を何と言いますか
「折句」(おりく)といいます。なお、濁点の有無は自由です。
たとえば、この和歌も「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」で、そのままだと「かきつはた」ですが、濁点を取ったり付けたりするのは自由ですから「かきつばた」となるのです。
「からころも〜」の和歌の折句以外の修辞技法を説明しなさい
「唐衣」が「着」の枕詞。「唐衣着つつ」が「なれ」を導く序詞。
「なれ」が「馴れ(=慣れ親しむ)」と「萎れ(=衣服がなじんでよれよれになる)」、「つま」が「妻」と「褄(=着物の裾)」、「はるばる」が「張る(=着物を張る)」と「遥々」、「き」が「来」と「着」の掛詞。
「なれ」「つま」「はる」「き」が「唐衣」の縁語。
「駿河なる宇津の山べ」の「なる」の文法的意味は何ですか
「存在」の意味で、「〜にある」と訳します。「うつつ」を漢字で書きなさい。また、意味を答えなさい
漢字で「現」と書き、「現実」の意味。反対語は「夢」。
「ここにたとへば」の「ここ」はどこですか
都。富士の山のたとえとして「比叡山」を使っていることから、この文章は、作者が京都で書いていることがわかります。
「日も暮れぬ」の「ぬ」の文法的意味は何ですか
強意の意味。「〜てしまう」と訳します。通常、下に推量系の助動詞とともに用いる形の場合(例:ぬべし、なむ等)に強意の意味になりやすいですが、ここは単独で強意です。
「日が暮れた」という完了ではなく、「日が暮れてしまう」という状況です。
「白き鳥の」の「の」の文法的説明をしなさい
同格を表す格助詞。「〜で」と訳します。「大きさなる」の下に「の」の上の「鳥」が省略されており、「白い鳥で、くちばしと脚が赤く、鴫くらいの大きさの鳥」が主語となります。
「名にし負はば」の「し」の文法的説明をしなさい
強意の副助詞。「AしBば」の形の場合の「し」は強意の副助詞になりやすく、「し」」を省いても問題なければ強意の副助詞です。
「追はば」は「未然形+ば」で仮定条件で、直訳は「名前に背負っているならば」。
「名前に背負う」というのは「名に持っている」ということで、「し」がなくても支障がないことから、強意の副助詞です。
古文の対策
出典:スタディサプリ進路
古文を勉強するときは誰の様子を描いたものなのか主語を把握しながら読むと理解が進むよ。
そして、テストに出やすい古文の単元はほかにもたくさんある。
岡本先生が現代語訳とポイントを解説してくれているので、ぜひテスト勉強に役立ててね!
●伊勢物語「初冠(ういこうぶり)」
●伊勢物語「筒井筒(つついづつ)」
●枕草子「中納言参り給ひて」
●大鏡「花山院の出家」 前編
●大鏡「花山院の出家」 後編
●平家物語「木曾の最期」
\古文に興味をもったキミへおすすめの学問/
●日本文学
古代から現代まで、あらゆる日本の文学作品を学ぶ学問。
日本文学の作品を読み、テーマや文体などの研究を通して、作品の背景となる歴史や文化、社会、人間そのものを研究する。
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●日本文化学
日本独自の文化について研究する学問。
文学、芸術、民族、思想、日本語など、日本文化の特色をとらえ、日本の風土、歴史、社会などとの関連性を研究する。
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●歴史学
日本や世界各国の歴史と文化を研究する学問。
人間の文化、政治、経済などの歴史上のテーマを、それがどのように起こり、どんな意味をもつのか、資料や原典にあたり、実証的に研究、現代に生かしていく。
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文・監修/岡本梨奈 イラスト/梶浦ゆみこ 構成/寺崎彩乃(本誌)