東京・銀座にある高級ブランド「フェンディ」の店舗で、外国人女性客が、店員らを土下座させたうえ、名前を書いてある名刺を撮影してSNSに投稿した。買い物でのトラブルがあったと見られる。
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香港のメディアがこの出来事を報じたところ、ネット上では、女性の言動をめぐって「カスハラではないか」「違法では」という指摘が相次いだ。フェンディ・ジャパンは、弁護士ドットコムニュースの取材に沈黙した。
来年4月から東京都で始まるカスハラ条例に向けて、顧客・従業員向けに啓発ポスターの配布が始まったばかりだ。女性の行動はカスハラなのか。
専門家は、現場従業員をカスハラから守る姿勢を企業が内外に明確にすることが、一定の抑止効果となると指摘する。
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10月20日の香港メディアの記事によると、女性はSNSのアカウントで、トラブルについて投稿した。銀座のフェンディで買い物をしようとしたところ、女性が試着していたストールを店員が「体から剥がして持ち去った」という。
女性は店員や通訳を床にひざまずかせ、名刺とともにその姿を撮影。さらに名刺から名前を消さずにSNSに写真を投稿した。女性はフェンディから謝罪を受けたなどとも記した。
一連の事態について、弁護士ドットコムニュースがフェンディ・ジャパンに問い合わせたところ、電話口で「本件についてお答えできません」とコメント。広報からの折り返しを2度頼んだが、連絡はなかった。
今回の騒動を受けて、SNS上では「カスハラでは」という反応が少なくない。また、「警察に通報する事案」という指摘もあった。
批判の矛先は、投稿者の女性に対するものが目立つが、どのような対応をとったか明らかになってこないフェンディ側の姿勢にも疑問の声が上がる。
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「矢面に立つのは販売員なんだから…ちゃんと会社は対応しないと」
「内外に毅然とした姿勢をみせることも社員さんを守る一つの手段だと思うし今後類似事件が起こらぬよう対策する上でも大切だと思う」
カスハラ問題にくわしい能勢章弁護士に聞いた。
——投稿者の女性の行為は法的に問題ないのでしょうか
報道によると、投稿者の女性は、買い物中のトラブルをめぐって「店員らをひざまずかせて謝罪させる」「その様子を店員の名刺とともに撮影し、SNSにアップする」などの行動をとったそうです。
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詳細が不明な部分があり、断定はできませんが、犯罪が成立する可能性があります。
「謝罪の様子を名刺とともにSNSにアップする」行動は、公然と事実を摘示して、従業員の名誉を毀損したとも言えますから、名誉毀損罪(刑法230条1項)が成立する可能性があります。
また、報道によると、女性は謝罪を強要していないと主張しているそうです。しかし、仮に女性が、何らかの脅迫行為に及んで「ひざまずいての謝罪」という義務のないことを店員にさせたと言える場合には強要罪(刑法223条1項)が成立する可能性があります。
——女性の行為は、来年施行される東京都カスハラ防止条例にも違反すると考えられますか
東京都カスタマーハラスメント防止条例(カスハラ条例)は来年4月1日に施行となります。施行後に今回のようなトラブルが発生した場合、以下のように条例違反になる可能性があります。
カスハラ条例は、顧客、就業者、事業者のそれぞれにカスハラを防止する責務を定めたものです。
顧客に関しては「就業者に対する言動に必要な注意を払うよう努めなければならない」という責務が定められています。
女性による「SNSへのアップ」という行為も、「顧客と就業者とが対等の立場において相互に尊重する」という基本理念に照らせば、この責務に違反します。
また、仮にストールをはぎ取られたことが真実であったとしても、「ひざまずいての謝罪」という行動は過剰なものであったと思います。
女性は強要したわけではないと主張しているようですが、仮にそれが女性の言動から促されたものならば、これも顧客の責務に違反する可能性があります。
——カスハラ条例は企業の責務も規定しているのでしょうか
次に、カスハラ条例は、事業者にも「顧客に対し、カスハラの中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない」「カスハラを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と定めています。
すでに述べたように、女性の「SNSへのアップ」という行為は、店員らへの名誉毀損罪が成立する可能性がありますから、これを会社が傍観してよいはずがありません。
会社としては、女性に対して「今後の入店を拒否する」と通知するとともに、「SNSの投稿の削除」を強く求めることが必要だと思われます。仮にそのような措置を怠っていたならば、事業者としての責務に違反する可能性があると言えるでしょう。
また、どんな理由があったにせよ、「ひざまずいての謝罪」が接客業務として妥当なものだったとは言えません。
仮に会社側が「ひざまずいての謝罪」も接客業務の一環として容認していたのであれば、現場従業員の尊厳を踏みにじっていると言っても過言ではなく、接客のやり方に問題があったと言わざるを得ません。
たしかに過去には、「ややこしい顧客をうまくさばいてくれ」という姿勢で、"うまいカスハラ対応"も従業員の接客業務の一環だと位置付けている会社もありました。しかし、もはやそういう時代ではないのです。
「ひざまずいての謝罪」という接客対応がどんなに効果的なカスハラ対応であったとしても、カスハラ条例の「顧客と就業者とが対等の立場において相互に尊重する」という基本理念に照らすと、会社がそういった接客対応を容認することは事業者としての責務に違反する可能性があるのです。
——カスハラが疑われる今回の事案について、フェンディは毅然とした態度を示すべきではないか、それがひいては今後の従業員を守ることにつながるという声もあります。事業者はカスハラにどのように対応すべきなのでしょうか
今回のケースに関して、取材の問い合わせをしても、フェンディは「本件についてお答えできません」とコメントしたとのことです。他の報道でも同様の対応をしているようです。
内部的には何らかの対応があったのかもしれませんが、少なくとも対外的には従業員を守る行動をしたようには見えません。
会社としては、SNSの投稿や複数の報道によって、今回のケースが世の中に広まってしまった以上、対外的には「本件についてお答えできません」とするのではなく、より踏み込んだ対応が必要だと思います。
たとえば、ホームページなどで「当該女性の入店拒否」「SNSの削除要請」及び「カスハラに対する今後の対応策」などを公表すべきでしょう。
カスハラ加害者は、誰彼無しにカスハラに及んでいるのではなく、自分よりも立場の弱い人や、言いやすい会社を選ぶ傾向があります。会社が「絶対に現場従業員を守る」という断固たる姿勢を示すことによって、将来のカスハラを防ぐための一定の抑止効果があると言えるでしょう。
カスハラ問題にうまく対応できないと、従業員の離職が多い傾向があると言われています。カスハラを放置すると、現場従業員としては安心して働くことができないため、サービスの品質の低下を招くこともあります。
SNSを通じてカスハラの状況が拡散しやすい現状に鑑みれば、会社としては、内部的な対応に留まらず、対外的にも現場従業員を守る姿勢を明確にし、抑止効果を高めることで現場従業員の安心感を高めることが重要だと思います。
【取材協力弁護士】
能勢 章(のせ・あきら)弁護士
カスハラ専門の弁護士。カスハラという言葉がない時代からBtoCの企業から依頼を受けて困難なカスハラ案件に数多く従事する。カスハラ対策及びカスハラ対応に関する情報を発信するサイト「正しいカスハラ対策で従業員を守る方法 - カスハラドットコム (kasuhara.com)」を運営している。
事務所名:能勢総合法律事務所
事務所URL:https://kasuhara.com/
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