國學院大・平林清澄「駅伝に勝って勝負に負けた」の真意 エースの背中が導く三冠への道

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2024年11月08日 07:31  webスポルティーバ

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全日本大学駅伝で念願の初優勝を遂げた國學院大学。出雲駅伝に続き、二冠達成の喜びに沸くなか、伊勢路のエース区間で先頭に立てなかった平林清澄は悔しさも口にした。最終目標である箱根駅伝の初制覇に向け、伊勢路で見えたものとは――。

【レースに勝ち、勝負に負けた悔しさ】

 伊勢路では4年連続して、7区のスタートラインに立った。各校のエースが集うコースの特性は、完璧に頭に入っている。過去に出場したレースは、映像でも見返してきた。2年時は駒澤大の田澤廉(現トヨタ自動車)、青山学院大の近藤幸太郎(現SGホールディングス)に力の差を見せつけられ、エースのあるべき姿を学んだ。経験を積んだ3年時には他大学の主力に負けずに念願の区間賞を獲得。そして、迎えた4年目は主将としてチームを初優勝に導くのが大きな役割だった。

 大黒柱の平林は、バツが悪そうな顔で、17.6kmを振り返る。

「6区の山本歩夢(4年)がタスキをつないでくれ、『決めてこい』と言われたのになかなか追いつけなくて」

 スタート時点で先頭を走る青山学院大との差は、わずか4秒。心は落ち着いていた。序盤からハイペースでぐんぐん突き進む太田蒼生(3年)を追いかけず、一定のペースを保っていた。左手首に巻いた時計に目を落とし、要所でラップタイムを確認。10km地点で16秒離れていたが、13kmで8秒とじりじりと差を詰める。15km手前ではついに背中を捉えて前に出た。ここで一気に突き放すかと思われたが、状況は一転する。15.5km過ぎで抜き返され、そのまま逃がしてしまったのだ。

 大きな差を広げられたわけではない。先頭と4秒差はスタート時と変わらず、アンカー区間の8区へつないだ。区間タイムは前年度よりも1分速い50分07秒、太田と同タイムの区間2位。平林は走り終えると、アスファルトに倒れ込みながら苦悶の表情で「ごめん」という言葉を漏らした。

「走り終えて、前田(康弘)監督に電話を入れたときには泣いてしまいました。駅伝というレースでは勝ちましたが、自分のなかで勝負には負けたと思っています。記録的には(区間賞の)篠原倖太朗選手(駒澤大4年)にも負けましたし、ダブルパンチを食らった感じです」

 今季、箱根駅伝の総合優勝を目標に掲げる上で、主将の平林が徹底してきたのは出場したレースで"勝ちきる"ことだった。何よりも重きを置くのは、タイムよりも強さ。出雲路ではそのスピリッツを体現。駒澤大の篠原とのアンカー勝負を制し、優勝の立役者となった。それだけに伊勢路の走りには、どうしても納得できなかった。

「タイムは悪くないのですが、出雲は僕が区間賞で、篠原選手と太田選手は同タイムで区間2位でした。全日本の区間賞は篠原選手、僕と太田選手は同タイムで2位。やっぱり、それは悔しいですよ」

【チームを成長させたエースの背中】

 エースに全幅の信頼を置く前田監督にとっても想定外の事態となったが、太田とのデッドヒートには舌を巻いていた。

「意地と意地のぶつかり合いだったと思います。すばらしい戦いでしたね。見ていて、しびれました。ふたりとも力を出しきったと思います。ただ、アンカー(8区)の上原(琉翔、3年)でも勝負できると思って、区間配置をしていました」

 エース格の3年生は、指揮官のその期待にしっかり応えてみせた。スタート直後に青学大の背中にピタリとつくと、しばらくは様子見。思った以上にスローペースになっていることに気づき、7km過ぎの地点で沿道にいるマネジャーに確認した。

「後ろから来る3位の駒澤大とどれくらいのタイム差があるのかを聞きました。8km過ぎで、後ろからくる山川(拓馬)選手(3年)のペースがかなり速いことを知り、これは覚悟を決めていくしかないな、と。表情、汗のかき方、呼吸を見ながら仕掛けどころを探り、自分が得意とする9.5km付近のアップダウンで出ました」

 気温は20度を超えていたが、高校卒業まで沖縄で育った暑さに強い20歳には影響しなかったという。ぐんぐんと後ろから迫ってくる山川を意識しつつ、自らに言い聞かせた。

「ここで勝ちきれなければ、死んでやる」

 大きなリードを奪っていたとはいえ、最後まで独走する。アンカー勝負で負けず、自らの足で勝利をたぐり寄せた。"日本一"のフィニッシュテープを切ったときには、ほっと胸をなでおろしたという。後輩に命運を託した平林はフィニッシュ地点に移動するバスの中で結果を知り、「上原、ありがとう」とうれし涙を流していた。上原は出雲路の6区で区間賞に輝き、伊勢路でも強さを証明。次期エース候補はしみじみと話す。

「今季は"勝ちきる"ことを平林さんが、ずっと体現してくれてきたので」

 勝負にこだわるキャプテンの背中は、チームメイトの成長を促してきた。平林に「勝ちますから」と豪語する2年生の野中恒亨、入学前から切磋琢磨してきた山本はいずれも区間賞を獲得し、初制覇に貢献。同期の副キャプテンは、エースの力を認めた上で、あえて口にした。

「平林に任せきりになると、絶対に勝てない。みんな、平林を倒すくらいの気持ちを持ってやろうと、話しているんです。その姿勢が全体の底上げにつながっていると思います」

【駒大・大八木総監督も認める真の強さ】

 いまの國學院の強さは、学生三大駅伝で三冠を含む通算27勝している名伯楽も認めていた。5連覇を阻止された駒澤大の大八木弘明総監督は、どこかうれしそうな複雑な表情だった。前田監督はかつての教え子。箱根駅伝で初優勝したとき(第76回大会・2000年)の主将である。数年前まで「お前はエースをつくらないから勝てないんだ」と話していたのも、いまは昔。駒大を倒すまでに成長したチームを称えた。

「負けて悔しいんだけど、5連覇をやった(果たした)みたいな感じかな。いままで國學院は常に学生トップレベルで走れるエースがいなかったけど、前田もようやくつくった。平林が安定して走れば、いいチームになってくる。周りの選手は、エースについていくものなんですよ。そうしたら、全体のレベルもどんどん上がっていきます。私が三冠をやっているので、前田もやりたいと思うけど、『あまり欲張りすぎるなよ』と伝えたいですね」

 マラソン日本学生記録を持つ絶対的なエース・平林にけん引されたチームは、いま最も充実している。残すところは、箱根駅伝のみ。前田監督は「大八木さんの言わんとすることはわかります」と笑って頷いていた。

 いよいよ箱根駅伝。したたかに初の総合優勝、そして史上6校目の三冠を狙う。

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