「異業種×本屋」でどうなった? ホテルに「風呂屋書店」をオープンして、見えてきたこと

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2024年11月10日 07:51  ITmedia ビジネスオンライン

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ホテル内に書店がオープン、反響は?

 札幌市のホテル「定山渓第一寶亭留翠山亭」(じょうざんけい だいいちほてる すいざんてい)に、「風呂屋書店」がオープンして1カ月が経過した。同書店は、大日本印刷(DNP)が、"書店業以外"の事業者に提供する開業支援サービスの第一弾となる。各自治体で書店が減少する中、“異色本屋”の現状を聞いた。


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 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、全国の自治体の27.7%(482自治体)で書店が1店舗もない状態となっている(2024年3月時点)。一方で、書店に対するニーズは決して消えていない。むしろ「本のある空間」への関心は高く、書店業界では新たなビジネスモデルが登場している。


 取次大手のトーハンは無人で営業できる「MUJIN書店」を都内に3店舗展開。いずれの店舗も有人と無人のハイブリッド型で24時間営業を行い、早朝や夜間の購買ニーズにも対応している。無人営業を可能にしたシステムは最小で初期費用100万円程度、月額費用6万5000円という低コストで導入でき、売り上げは従来比5%程度の増加を実現している。


 直木賞作家の今村翔吾氏が手がける「ほんまる」は、364ある本棚を個人や法人に月額4850円から貸し出す「シェア型書店」として注目を集めている。開業から3カ月で棚の利用率は85%に達し、全体の3割を法人契約が占めるなど、安定した経営を実現している。


 こうした状況の中、DNPは既存の書店に限らない「本との出会いの場」の創出に着手。その一環として、書店業以外の事業者向けに開業支援サービスを展開している。滞在時間の延長やリピート率の向上を目指す事業者に対し、「本」という新たな付加価値の提供を提案する。


 その第一弾として誕生したのが、定山渓第一寶亭留翠山亭内に9月にオープンした風呂屋書店だ。


●宿泊客の新たな行動パターンを生んだ


 風呂屋書店は、もともと2階のマッサージコーナーだったスペースを改装し、約2500冊を取りそろえた書店として生まれ変わった。3つの個室を備え、無人運営でコストを抑えながら、新たな顧客体験を創出している。


 同ホテル採用広報室長の大島彩乃さんによると、利用者の約9割を宿泊客が占め、「当初は全く売れないと思っていたが、予想以上に売れている」という。特にチェックアウト時に購入する人が多く、滞在中に複数回足を運び、気に入った本を土産として選ぶという新たな行動パターンが定着しつつあるようだ。


 売れ筋の中心は定山渓温泉や札幌に関連した本で、意外にも昔から親しまれる絵本もコンスタントに売れているという。選書については、約半数をDNPが担当し、宿泊客が「読みたくなる」ような品ぞろえに注力しているそうだ。


 風呂屋書店は、大浴場と同じフロアにあることから、湯上がりの待ち合わせ場所としても機能している。「これまではラウンジでスマートフォンを見る人が多かったが、最近は本を読む文化的な光景が広がってきた」(大島さん)


 宿泊者向けアンケートでも、同ホテルで最も気に入った場所として風呂屋書店を挙げる声が多く寄せられているという。


●「本好き」従業員のエンゲージメントが向上


 風呂屋書店をオープンしたことで、波及効果も生まれている。本好きの従業員が書棚の整理や管理を積極的に行うなど、エンゲージメントの向上にもつながっているという。新卒の採用活動においても、宿泊施設内に書店があるという独自の取り組みが学生から関心を集めており、差別化要因として機能しているようだ。


 風呂屋書店では今後、独自の付加価値を高めていく。11月下旬には、イラストレーターの作品展示会と絵本のコラボイベントを予定している。「もともと宿泊施設は四季の表現や、その土地の歴史・文化を大切にしてきた。それを本を通して表現していきたい」と大島さんは語る。


 DNPによると、風呂屋書店の開業後、ホテル業界に限らず多様な業種から問い合わせが相次いでいるという。「ホテル業界や観光業のほか、オフィスや公園など、当初想定していなかった業界からの引き合いもある」とDNPの読書推進部書店企画課課長の増井絵美さんは語る。


 今回の書店開業支援サービスの特徴は、「信任金」(取引保証金)が不要な点だ。従来、書店をオープンする際に、取次との取引に必要とされていたもので、これが不要になるということは、初期コストが抑えられることになる。


 さらに、グループ内に丸善ジュンク堂書店などがあり、書店運営のノウハウを持つDNPが、コンセプト設計から選書、仕入れまでをサポートすることで、異業種からの参入障壁を下げている。


●既存の書店モデルにこだわらない


 DNPは、書店開業支援サービスについて2026年度までに累計売上高5億円を目指している。今後は、観光とオフィスという2つの領域での展開を強化する考えだ。「観光地の書店は地域の方にも、訪れる方にも新たな価値を提供できる。また、リモートワークからオフィスへの回帰が進む中、本を活用した社員同士の関係性向上にも可能性を感じている」(増井さん)


 風呂屋書店を利用するのは、宿泊客が多いが、課題も見えている。季節に合わせたラインアップ、本にちなんだイベント企画を実施するなど、「宿泊施設の書店」という独自性を打ち出す必要がある。


 「現状は初回納品分の書籍で運営している。今後は更新を進めながら、さまざまな企画を通じて価値を高めていきたい」と大島さんは語る。


 書店のない自治体が増加する中、DNPは既存の書店モデルにこだわらない柔軟な展開を目指している。本と生活者が出会える場を作るため、従来の書店という形態にこだわらず、様々な事業者との連携を進めていく考えだ。


 書店という業態は、これまでにない形で進化していくのかもしれない。


(カワブチカズキ)



このニュースに関するつぶやき

  • 宿泊先のホテルで読みたい本か。確かにガイドブックやその地で出版されている本、子供向けの絵本は定番かな。ご当地関連のマンガや聖地本も読みたいかな。本好き社員が本のコンシェルジュになってね。
    • イイネ!4
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