11月15日(現地時間)にXの規約更新が控えている。ユーザーが入力した情報をAIのトレーニングに利用する方針が明文化するなどの変更が生じる予定だが、Xではこれを嫌い、他のSNSへ移住しようという声が散見される。
“脱出論”自体は何度も繰り返されてきたが、結局大規模な“移住”が実現することはなかった。原因は選択肢の少なさだ。「Misskey」「Bluesky」「Threads」など競合SNSはいくつか出ているが、Xの規約変更などで代替案として浮上した時期にサービス立ち上げ直後でユーザーが少なかったり、会員制だったりと、なかなか移行先にはしにくい状態だった。
しかし現在、各SNSは少しずつ成長し、それぞれの特色を発揮しつつある。筆者は上記3つのSNSについて、あくまでXのサブとしてではあるが、アカウントを作成し、ユーザー投稿の雰囲気などを見てきた。
世に出て時間がたっていることもあって、すでに各サービスの機能的な特徴などは語り尽くされていると思うので、本記事ではあえてそれぞれのユーザーである筆者が感じた“住み心地”に焦点を当てる。移住の是非や移行先の検討材料として、いちユーザーとして各SNSへの雑感をまとめる。
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●オタクには居心地がいい「Misskey.io」
まず、筆者は男性の20代オタクだ。その視点では、Misskey(正しくは最大手インスタンス「Misskey.io」)はかなり居心地がいい。
Misskeyはいわゆる分散型SNSの一つで、誰でも自分のインスタンスを立ち上げられる。「自分だけのX」「特定の嗜好の人が集まるX」みたいなのをそれぞれ立ち上げて、インスタンス内で交流したり、ときにはインスタンスをまたいで投稿を確認したりできるわけだ。
で、筆者はそのうち最大手のインスタンスMisskey.ioにアカウントを持っている。代表的な機能などは過去記事に譲るが、その特徴はノリの“ゆるさ”だろう。筆者としては、2010年代のTwitterに最も近いのはここだな、と感じる。
おのおののアカウントがアニメやゲーム、自身のメンタルについて勝手なことをつぶやいて、くだらないリアクションをして、たまに写真やイラストが流れてきて──という感覚を味わえる。「電車が遅延してぴえん」みたいな、くだらない投稿がどんどん流れてくる感じだ。
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Xでは毎日見かけるイデオロギー間の対立は少なく、そういう意味で居心地はいい。筆者がフォローしているメンツの影響もあるかもしれないが、国産の国内向けサービスだけあって、ユーザー層もほぼ日本人のオタクだろうな、という印象だ。企業などの公式アカウントは少ないが、インフルエンサーがアカウントを運用しているのはちらほら見かける。
一方で、若いオタク的なノリがしんどい人には合わないだろう。ビジネスの発信をする人は少なく、自己啓発的な話題もまれで、言論の場として機能しているわけではない。もちろん、他のインスタンスはその限りではないかもしれないが、基本的には素性も知らないオタクと緩い交流を楽しみたい、という動機でSNSをやる人に向いているだろう。ちなみに、いっときはやった与謝野晶子ネタはあまり見なくなった。
参考記事:
Twitterからの移住者か、「Misskey.io」登録者20万人超え 1日で4万人増も一筋縄ではいかず
●Instagramと地続き? 「Threads」の居心地
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ThreadsはMisskeyとは対照的に、ある程度年齢を重ねたネットユーザーの居場所、という感想だ。米Metaが立ち上げたXの対抗サービスで、同社のSNSなどから誘導がかかっていたこともあって、FacebookやInstagramの住人がそのまま住んでいる印象が強い。
そのためか、流れてくる話題も健康維持や仕事論、旅行、育児、ニュースへのコメント、ライフハックなど、日常会話の延長上にあるものが多い。Facebook・Instagramから受け継いだのか、若い女性の写真を使ったスパムと思しき投稿もそれなりに多い。
オタクで若者(ギリギリZ世代)の筆者からすると、こういう年齢層や属性の人はこんな考え方や投稿をするんだなあ、と思うが、Misskeyに比べるとやや居づらい。日常的な出来事に関する意見交換の場としてはよさそうだが、明らかに自分と属性の違う人が住んでいる場所なので、コミュニケーションをするにしてもとっつきにくさがある。逆に、普段の居場所がInstagramな人には住みよいのかもしれない。
ちなみに、Misskeyに比べると企業や組織の公式アカウントは多めだ。ただ、よく知らない飲食店のアカウントや、サービス開始の盛り上がったときに、IDを取るだけ取っておいて放置しているんだろう、というアカウントも散見される。
参考記事:
「Meta AI」のMAUは5億人、「Threads」は2億7500万人──ザッカーバーグCEO
Threadsでのエンゲージメント稼ぎ投稿増加に「制御に取り組み中」と中の人
MetaのThreadsにビジネス向け3つの新機能 100件までの下書きなど
●“すみ分けやすいX”な「Bluesky」
Blueskyはこれまでに紹介した2サービスの中間という印象だ。ビジネス発信から趣味の投稿、日常会話まで、話題は幅広い。平和なものから論争の火種になりそうなコミュニケーションまで種々だ。
使用感がXに近いからか、ユーザー層もXに一番近く感じる。ただしトレンド機能やおすすめ機能はなく、代わりに「フィード」という機能が存在する。これはタイムラインを好みにカスタマイズしたり、他の人が作ったフィードを導入できる機能で、例えば「柴犬を飼っている人」「ゲームの話をする人」だけのタイムラインを手軽に構築できる。
恐らくはこのフィードを使って、自分だけの快適なタイムラインを構築しよう! というのがBlueskyの基本的な利用法だろう。他SNSからの流入も多いようで、人もある程度増えてきた感じがするが、故に過激な意見な人も多少出てきた体感もある。
それでもフィードによるすみ分けがしやすいので、少なくとも筆者の画面上ではXほど殺伐とした場所にはなっていない。企業の公式アカウントもちらほら見られ、他SNSに比べるとメディアのアカウントが多い。
総じて「みんなではやりの話題にのってわいわいはできないが、自分の好きな話題にだけ目を通して、好きなように情報を受発信できるX」という感じだ。個人的には、他のSNSほど不特定多数への情報発信には向かないが、“見る専”と割り切るか、仲間内でコミュニケーションしたり、同好の志で集まったりといった用途ならば使いやすいと感じる。
参考記事:
Xに不満を持った人の避難先? 「Bluesky」を初めて使ったおっさんマンガ家の心変わり
Xのブロック機能や規約の変更後、Blueskyに50万人の新規ユーザー
Bluesky、動画投稿が可能に 最長60秒、1日に25本まで
●真剣に考えたい使い分け
規約変更のみならず、Xは機能の変更が多く、ついていくのが大変だ。つい思想の対立をあおるような投稿を見てしまうと、おすすめ欄も似た投稿一色になってしまうようになり、前よりずいぶん気疲れする場所になった。誰が呼んだか“バトルSNS”ともやゆされる状態だ。無料ユーザーだと不快な広告も多い。しかしユーザー数は随一で、どうにも離れがたい。
個人的には、精神衛生が良い状態を保ちながらSNSを利用するには、使い分けが重要な時代になったと改めて感じる。実際に、筆者も主な情報収集はX、身近な友人とのコミュニケーションはBluesky、がやがやしていて楽しいからつい見に行ってしまうのがMisskey.ioと使い分けている。これにDiscordやショート動画アプリなども加わる形だ。
選び方は人それぞれだが、規約に同意できるサービス、開発方針に同意できるサービス、居心地のいいサービスを、自らの許容範囲と照らし合わせながら検討し、ユーザー層や機能に応じて使い分ける人も増えた。これまでも行われていたが、社会の分断とその激化が取り沙汰されるのに合わせ、その傾向も強まったように感じられる。
一方で、自分にとって居心地がいい場所に引きこもり続けるのも、それはそれで不健全だろう。外部からの情報収集と、発信したい対象、自分の生活などを勘案し、頭を使ってSNSを使う。SNSと生活が密接に結びついた昨今、エンドユーザーだからといって牧歌的にやっていくのは厳しいのでは──というのは、考えすぎだろうか。
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