企業会計基準委員会および日本公認会計士協会から2024年9月13日に、リースに関する会計基準やその適用指針(以下、「新リース会計基準」とする)が公表されました。
これまで具体的な適用時期については確定していない状況でしたが、2027年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されることになりました。なお、これ以前に早期適用することも可能です。
そのため、これまでは改正動向を注視していた各社も、いよいよ準備に取り掛かりはじめています。新リース会計基準の適用に向けて、企業、中でも経理部門はどのような準備を行っていかなければならないのでしょうか。必要な8つの準備について、それぞれ解説します。
●新リース会計基準の適用に備え、必要な8つの準備
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1.リースとなり得る取り引きや、適用に向けた課題を洗い出す
まず、新リース会計基準の適用によって新たに使用権資産やリース負債が計上される可能性のある賃貸借契約や、リース契約などを洗い出すための調査が必要となります。
新リース基準におけるリースの定義は従前と大きく変わりました。使用料や賃借料、委託料など、リース以外の名称の取り引きにも、リースの定義を満たす取り引きはさまざまに存在します。
当初は、どのような取り引きがリースの定義を満たすのか、少し理解に苦労する可能性があるため、リースの洗い出し調査を実施するに当たっては「自社に当てはめた場合にはどのようなものがリースに該当するのか」について、関係しそうな部署の担当者を対象に勉強会を開催しておきましょう。
なお、単にリースの定義を満たす取り引きの洗い出しを行うだけでなく、その洗い出し調査を通じて「リースに関する契約情報がどのように管理されているのか」または「全く管理されていないのか」なども把握しておけば、その後の業務プロセスの設計やシステム導入の要否の判断に役立つかもしれません。
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また、リースの会計処理マニュアルを作成するとしたら、どのような事項をルールとして定めておかなければならないのかについても、課題として洗い出しを行っておくと、その後の準備スケジュールや、準備における人員体制の見通しに役立てられます。
2.概算影響額を算定する
リースとなり得る取り引きの洗い出しがある程度できたら、一度、概算で影響額を算定しておきましょう。
新リース会計基準において、オンバランス額は、画一的に算定できるわけではありません。しかし、一定の仮定のもとに影響額の概算を把握しておくことで、どのような部署やグループ会社において、どの程度の影響がありそうか見通すことができ、その後の準備における人員確保や、準備スケジュールの見通しに役立てられます。
なお、新たに計上されることとなるリース負債の計上額が大きく、負債総額が200億円以上となってしまう可能性のある会社については、新リース会計基準の適用によって会社法上の大会社として分類されてしまうため、そのような子会社がグループ内にあるかどうか注視しましょう。
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また、経営者にとっては概算でオンバランスとなる額を把握しておくことで、下記事項のような経営意思決定事項について、先んじて検討するきっかけになります。
・リース・購入のいずれとするのがよいか
・グループ間の取引方法やセール・アンド・リースバック取引などリースを使ったスキーム自体を見直す必要があるか
・低収益物件の場合にはオンバランスしても減損リスクが同時に生じる可能性があるならば契約条件や取り引きの継続自体の見直しを行うか
3.リースの会計処理方針、リースの判断マニュアル、リースの会計処理マニュアルなどを策定する
多数のリース契約から、オンバランス額を算定するためには、共益費をリース料に含めて算定するか否か、リース期間はどのように設定するか、割引率はどのような率を使用するのかなどを事前に決めてからリースのオンバランス額を算定しないと、作業のやり直しが発生してしまいます。
そのため、前述の「1.リースとなり得る取り引きや、適用に向けた課題を洗い出す」を踏まえて、リースの判断マニュアルや、リースの会計処理マニュアルなどを事前に策定しておくことで、その後のデータ登録作業における作業のやり直しを防げます。
なお、上場会社や会社法上の大会社では、公認会計士や監査法人による監査証明が必要です。このため、このリースの判断マニュアルや、会計処理マニュアルなどで定めた内容について、監査上も妥当と判断し得るものであるのか、公認会計士や監査法人に相談をしながら進めていくことは、作業のやり直しを防ぐ上で重要です。
4.業務プロセスを構築し、必要に応じてシステム導入や改修を行う
リースをオンバランス計上するには、リース料や割引率、リース期間などから、取得価額相当額や減価償却費相当額を算定していかなければなりません。そのため、多くの会社では、リースに特化したリース計算システムを導入することになると思われます。
ただし、リース契約はさまざまな部署で契約締結処理が行われていることが多いため、会計処理を行う経理部門は、各部署が保有している契約書からオンバランス処理に必要な情報を収集しなければなりません。そのため、リース計算システムを導入すればそれだけで解決するというケースはまれでしょう。
例えば、以下のような契約情報の収集パターンを選択し、または組み合わせて、契約情報の収集・管理およびオンバランス計上額の算定、その後の仕訳起票までの業務プロセス(「それら業務プロセスにおける適切な内部統制」を含む)を構築していく必要があります。
●契約情報の収集パターン
・経理部門は契約書などを入手し、リース計算システムにデータ入力を行う
・経理部門はリース計算システムに必要な情報を収集するためのフォーマットを作って関係部署に入力してもらい、それに基づいてリース計算システムにデータ入力を行う
・各関係部署は、リース計算システムに直接アクセスして、契約書などからデータ入力を行う
・各関係部署は、契約管理システムに契約情報を入力し、経理部門は契約管理システムに入力された情報をダウンロードするなどして、リース計算システムにデータ入力を行う
5.注記などの開示事項を整理し、連結子会社から収集する連結パッケージを改修する
新リース会計基準では、会計処理だけでなく注記情報の開示についても定められており、従前よりも注記として開示すべき項目が増えました。そのため、各社に当てはめた場合、どのような注記情報の開示が必要なのか、洗い出しを行う必要があります。
その上で、オンバランス計上のために必要となる情報と、リースの注記情報の開示のために必要な情報を各子会社からも収集できるように、連結パッケージ(連結財務諸表を作成するために必要な情報を各子会社から収集するためのフォーマット)を改修する必要があります。
6.データ入力し、オンバランス額をトライアル集計する
リースの判断マニュアルやリースの会計処理マニュアルが整備され、業務プロセスも構築し、連結パッケージの改修まで整うと、いよいよリース計算システムへデータの一斉入力が可能となります。
適用初年度の期首から、スムーズに新リース会計基準を適用していくためには、その前年度にそれまでのリース契約をリース計算システムなどに全て登録しておきましょう。トライアルで取得価額相当額や減価償却費相当額、リース負債を算定し、構築した業務プロセスや各種マニュアルに不備はないか確認し、改善しておくことが重要です。
7.決裁基準や稟議書フォーマットを見直す
借り手のリースがオンバランス処理となるということは、今後、リースに関する新たな契約は単なる支出を伴う契約締結ではなく、投資案件として位置付ける会社も出てくるものと考えられます。
特にリース期間など、判断が必要な項目をどのように設定するのかによってオンバランス額が大きく変わり、その影響はROAや自己資本比率にも及びます。稟議書にオンバランス処理の概算額を載せ、当該オンバランス概算額を踏まえて関係者が意思決定していくことになるでしょう。また、当該オンバランス処理の概算額によっては、決裁権限者自体が変わるという対応もあり得ます。
8.予算策定方法を見直し、投資家向け説明資料を準備する
予算策定においても、リースは単なる費用として予算を見積もるのではなく、投資案件として位置付けられ、減価償却費相当額や利息相当額として予算を策定していくことが求められます。
また、特に適用初年度は、貸借対照表や営業利益、経常利益、EBITDAなどのさまざまな財務数値について「以前から新リース会計基準を適用していたならば、前期や前々期はどのような数値であったのか」など、法定開示事項や投資家が理解しやすいIR情報の開示を行うため、事前に財務数値などの準備を行っておく必要があります。
●まとめ
以上の通り、新リース会計基準の適用には、会計面での課題対応にとどまらず、実務上の課題にも対応する必要があります。特に業務プロセスの構築では、関係部署の協力が不可欠です。また、システム対応を行う場合には、その導入や既存システムの改変にかかる費用・時間のコストも考えなければなりません。
新リース会計基準の適用には一定の準備期間が設けられているものの、必ずしも時間的に余裕があるとは限らないことから、早めに基準適用の準備に着手することが重要です。
(矢崎 豊)
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